「データ駆動型事業運営」シリーズ 第4回:データ分析環境を高度化する「民主化基盤」

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2021.5.25

DX技術本部清水浩行

社会・経営課題×DX
当社が「データ駆動型事業運営」と呼ぶのは、ビッグデータを直接業務につなげて活用する事業の運営方式のことである。前回コラムでは、データ駆動型事業の具体的な事例としてリスク管理分野への適用事例を紹介した。AIモデル導入の必要性と課題にも言及している。今回は導入上のハードルに焦点を当てる。

「前回コラム」を見て、いざ自社に実装しようと考えた際、データやシステム面で実現できるか疑問を持つ方がいたかもしれない。実際、業務部門で理解が得られても、システムがボトルネックになり業務適用が進められないことは多い。

データ駆動型事業運営においては、事業にまつわるさまざまなデータを加工・分析するデータ分析環境が肝となる。クラウドサービスが充実し、計算資源やストレージは従来よりも安価に入手できるようになったことで企業のビッグデータ解析業務は各段に簡便になった。データ分析ツールやAIモデル構築ツールも開発者寄りのものから業務ユーザー寄りのものまで多数提供されている。データ分析環境は充実してきたように見えるが、それでも多くの企業がデータ駆動型事業運営への移行時に突き当たる障壁がある。

データ駆動型事業運営への移行における3大課題

①データ整備にコスト・時間がかかり、費用対効果が見合わない

データ駆動型事業運営に移行するには、既存事業で蓄積したデータを分析環境に移行し、新たに発生するデータを随時連携する仕組みを構築せねばならない。既存事業のデータは膨大であり、分析環境の構築だけで億円単位の費用がかかることもある。既存事業のシステムは他システムとの連携を考慮しておらず、データ連携のための開発だけでコストと時間を費やしてしまうことも多い。

連携元となる既存事業のシステムが複数あるとデータ連携開発の負担がさらに大きくなり、いつまでたっても分析環境が立ち上がらないこともある。既存業務のデータがExcel形式だった場合はますます移行が難しくなる。Excelファイルはそのままではシステムに取り込めないからだ。入力のWebシステム化にも同時に着手することにもなりかねない。

②分析スキルを持った人材の欠如・不足

消費者・市場の状況は刻一刻と変わる。事業運営側も状況変化に追随して柔軟に分析・モデル構築などを行える体制が必要である。しかし、データサイエンティストやAI人材は常に不足している。自社要員を育成する外部の研修プログラムは多数あるが、実務に適用できる人材はすぐには育成できない。なぜなら当該業務に関する知識と、データ分析やAIモデルに関する知見、データ加工ツールの操作やプログラミングのスキルを掛け合わせる必要があるからである。

ツール操作やプログラミングスキルの習得コストはツール側で低減することが可能であり、データ加工、可視化、AIモデル構築といった個々の分野において業務ユーザーでも使いやすいツールが増えている。それでも操作感の違う個々のツールを個別に習得する必要があり、データ分析全般を実施するためのツール習得コストは高いと言わざるを得ない。

③企業秘密・個人情報をセキュアに扱う必要性

データ駆動型事業運営においては、「事業に関するすべてのデータが1カ所に集約されている」ことが望ましい。しかし、事業のデータは、営業や製造に関する機密データ、お客さまの個人情報など、重要なデータの塊である。企業秘密・個人情報などの情報漏洩の阻止に従前以上に万全を期さねばならない。

一方で、コロナ禍の先にあるニューノーマル(新常態)の働き方を見据えると、リモートワーク・分散拠点に対応する必要がある。セキュリティーを確保しつつ利便性を高める工夫が必要となる。

データ駆動型事業運営を促す「SADP(セキュアなAI民主化基盤)」

では、①~③の課題にどのように対応すればよいのだろうか。

当社では「SADP(Secured AI Democratization Platform:セキュアなAI民主化基盤) 」というソリューションを活用して、お客さまのデータ駆動型事業運営への移行を支援している。SADPは、前述の課題①迅速・安価、②誰でも、③セキュリティーを確保、に対応したデータ駆動型事業運営のシステム実装を目的としたソリューションである。以下、SADPを例に①~③の課題への対応策を示す。

なお、SADPにはデータ活用コンサルティングや人材育成も含まれるが、本コラムではシステム面に絞って紹介する。

SADPの特徴

1. 迅速に始められるデータ駆動型事業運営の基盤

課題①「費用対効果が見合わない」に対しては、小さな初期投資、迅速な立ち上げと、充実したデータ連携の仕組みがポイントとなる。データ駆動型事業運営の根幹はデータである。データが無ければ事業の改善は図れない。当社では必要なデータを確保することを「データ駆動の1stワンマイル」と呼び、重点的な取り組みが必要だと認識している。

SADPでは、根幹となるデータ分析基盤として「ForePaaS(開発は仏ForePaaS社)」というツールを採用し、クラウドサービスとしてすぐにお客さま専用の分析環境を提供できる。クラウドサービスなので必要に応じてストレージ容量の拡大も可能だ。大量データを安全・廉価にバックアップするオプションも用意している。

また、ForePaaSは各種のDB・APIとの連携機能を有する他、CSVファイルなどのファイルベースの取り込みも簡便に行える。社員や取引先が作成した請求書などの半定型的なExcelファイルが大量に存在する場合には、別途、文書ファイルの取り込みを得意とする「SImountBox」というツールを用いてデータベース化する。本格的なシステム開発を避け、既存のExcel資産も活用することで素早く「1stワンマイル」を乗り越えていく。
図1 データ駆動型事業運営の実現を強力にサポートするソリューション「SADP」
図1 データ駆動型事業運営の実現を強力にサポートするソリューション「SADP」
出所:三菱総合研究所

2. データ連携・加工から機械学習、可視化までノンプログラミング

データ駆動型事業運営においては事業のモニタリングと変化への迅速な対応が重要だ。日常的に発生する分析業務や追加の機械学習モデルの構築などは、システム開発を伴わずに、特殊なスキルを必要とせずに業務ユーザーで実施できることが望ましい。もちろん業務ユーザーにも一定程度のデータサイエンスやモデル構築の知識は必要だが、ツールやシステムに関するハードルを下げることが、課題②「人材不足」の解消につながる。

ForePaaSは、データ加工や可視化にとどまらず、データ連携や機械学習まで統一されたWebインターフェースを提供する。これによりツールの習熟コストを低減している。また、分析結果や予測結果を提供する仕組みのAPI化もノンプログラミングで可能であり、他のWebシステムやスマホアプリなどとの連携も容易かつスムーズに実現できる。
図2 業務ユーザーによるデータ分析・実装を支援する分析基盤「ForePaaS」
図2 業務ユーザーによるデータ分析・実装を支援する分析基盤「ForePaaS」
出所:三菱総合研究所

3. ニューノーマルの働き方に対応しつつ、金融機関などでの利用に耐えうるセキュリティーを確保

分析基盤をクラウド環境に配置するデメリットとして、セキュリティー確保の難しさがある。課題③「セキュリティー確保」に対応すべく、SADPは金融機関での利用に耐えうるレベルのセキュリティー基準(金融機関における安全対策基準。FISC基準)を満たしている。必要に応じて追加のセキュリティー対策を施すことも可能だ。

なお、近年は社内ネットワークに侵入してから攻撃されることも多く、クラウドは必ずしもセキュリティー的に劣っているわけではない。本来はデータ分析基盤だけでなく、企業の有するシステム全体で取り組むべきことである。すべてのアクセスを疑ってかかる「ゼロトラスト」の考え方を採用し、デバイスやロケーション、ユーザー情報などを総合的に勘案した多層防御を行うことにより、リモートアクセスだけでなく社内アクセスのセキュリティーも高められる。

まずは一部の業務・施策に必要なデータから分析環境に搭載していこう

本コラムでは、データ駆動型事業運営の実装において発生するシステム面の課題と対応策の一例を紹介した。SADPはデータ駆動型事業運営を加速させるパワフルなソリューションだが、基盤にすぎない。事業運営に必要なデータ分析ロジックの実装やモデルの構築は別途実施する必要がある。

SADPで採用しているForePaaSのようなクラウドサービスであればスケールアップも容易だ。一度に実装せず効果の見込まれるもの、簡易なものからステップを踏んで取り組むことが肝要だ。スモールスタートで進めつつ、関連システムとのデータ連携の追加や、不足するデータの取得手段の開発などを並行して進め、自社サービスの高度化につなげてもらいたい。

次回からは再び、データ駆動型事業運営の事例を紹介する。

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