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社会・経営課題×DXデジタルトランスフォーメーション

「データ駆動型事業運営」シリーズ 第1回:データをビジネス収益力に直結させる「データ駆動型事業運営」

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2021.3.2

DX技術本部高橋淳一

社会・経営課題×DX

事業運営上の業務課題解決に有用な「データ駆動型事業運営」

自社の財務情報や公開情報には明るくとも、現場が抱える「自社の事業情報」については見えていないという経営者は案外多い。ここでいう事業情報とは、例えば、自社事業のオペレーション運用状況、リソースの活用状況、事業セクションごとの収益構造といった、財務情報だけでは見えてこない事業運営の状況に関する情報などである。以上の点については経営者自身も自覚していることが多く、ダッシュボード開発などによる見える化を図っていこうとするのも、こうした問題意識からである。

経営者が、経営上の意思決定を行う際、自らの知識や経験などに頼るのではなく、データ(=FACT)をベースに判断していこうという考え方を、当社では「データ駆動型経営」と呼び、当社ではその実現に向けたご支援をしている。一例としては、クラウド会計のデータを活用した経営指標の見える化や、HRTech※1による人材登用・育成・評価の精緻化などが挙げられる。上述の通り、経営層レベルにおけるデータ活用は大変重要な課題ではある。一方、事業責任者あるいは事業推進担当者が現場の事業運営レベルでデータを活用するためのメソッドが「データ駆動型事業運営」である(図)。

データ駆動の最終的なゴールは、ビジネスモデルを変革することにあるが、その最初のステップとして、まずはこの「データ駆動型事業運営」を実現することから始めるべきである。
図 「データ駆動型経営」と「データ駆動型事業運営」
「データ駆動型経営」と「データ駆動型事業運営」の概要
出所:三菱総合研究所

ビッグデータの直接業務につなげる「データ駆動型事業運営」

当社が「データ駆動型事業運営」と呼ぶのは、ビッグデータを直接業務につなげて活用する事業の運営方式のことである。

従来、データベースなどを使用した業務は数多く存在した。口座管理などの銀行業務や、小売りであれば、POSによる売り上げ・在庫・仕入れ管理業務などが例として挙げられる。だが、当社の定義によれば上記のような業務は「データ駆動型事業運営」には当たらない。これらの業務で使用されているデータは、あくまで、オペレーターや店員(商品バーコードの読み取りなど)、あるいは(Webなどを介して)ユーザーが直接入力したものに限定されおり、分析できるデータの範囲も非常に狭い。

われわれが定義する「データ駆動型事業運営」は、大きく以下3つの特徴を有する。
  1. 業務運用においては、大小さまざまな意思決定が要求される。マーケティングを例に挙げれば、ターゲティングやプロモーション方法、価格設定、取引スタンスなど、それぞれが非常に重要な意思決定項目である。「データ駆動型事業運営」ではこれらの意思決定が原則自動で行われる。すなわち、これら意思決定に人を介さない、あるいは人はその意思決定をサポートする役割を担う。
  2. 活用するデータのカバー範囲が格段に広がる。すなわち、ログデータ、IoTデータ、オープンデータなどといった、いわゆるビッグデータ※2を直接的に事業運営に活用。それにより、意思決定の大幅な精度向上を図っていくのである。
  3. データ活用が個別業務・タスクに対する課題解決のみならず、事業全体の運営改善・改革につながっていくこと。
以上のような整理を行うと、現在の業務のほとんどにおいては、いまだこの域に達していないことが分かるであろう。

「データ駆動型事業運営」の効果は、業務効率化・収益最適化・サービス品質向上

では、「データ駆動型事業運営」を実現することによって、どのような効能・期待効果が得られるのであろうか? 具体的な業務適用事例は次章以降にて紹介するが、大きくは以下の3点が挙げられる。
  1. 業務効率化・コスト削減
    ある程度デジタル化された業務であっても、その間に小さな意思決定が入る場合は多い。データに基づく判断支援、あるいは自動化により、判断スピード・精度の向上や業務効率化を図ることができる。
  2. 事業収益の最適化
    局所最適化に陥りがちな業務において、事業全体の観点からデータを俯瞰(ふかん)することにより、全体収益を最大化する最適解を見いだし、事業全体の収益力、利益率アップに貢献する業務プロセスの改善を図ることができる。
  3. サービス品質向上
    個々のデータに基づいて、今までできなかったきめ細かな施策・サービスを実現できる。マーケティング分野の分かりやすい事例では、One to OneのマーケティングオートメーションやAIマッチング、人財管理などでは、タレントマネジメントへの適用などが挙げられる。
「データ駆動型事業運営」の前提は、ビッグデータを直接的にかつリアルタイムに活用することである。それによって、以上のような効能や効果も即時性を持って発揮することができる。

今が「データ駆動型事業運営」への転換のチャンス

これまでも、メーカーの製造工程や、小売り・サービス業の人員管理など、プロフィットセンター・コストセンターに関わらずさまざまな業界においてルーティン(繰り返し行う定常タスク)として確立している業務に関し、生産性・効率性の改善が持続的に進められてきた。一方で、いわゆるホワイトカラーが行うとされる業務、特に企画部門やマーケティング部門、コーポレート部門などは、管理者が目視するだけでは生産性・効率性は判断しにくく、見える化・改善が思うように進んでこなかった。

しかしながら、昨今のコロナ禍による急速なリモートワーク化により、ホワイトカラー業務自体の急速なデジタル化が進行し、それに伴い、図らずも業務自体のデータ蓄積が進むこととなった。分かりやすい例としては、「はんこレス」化が挙げられる。これまではデジタル化のスコープ外となっていて、記録が残らなかったこのような小さな意思決定結果においても、電子的なログが残るようになりつつある。一方、消費者側においても変化が起きた。人と対面することが減り、デジタルデバイスを介したコミュニケーションや購買活動などが増加することで、日常的な行動履歴のデータ化が進んでいる。

以上のように、コロナ禍に伴う市場・事業環境の劇的な変化が、図らずも社会のデジタル化を促進されることとなった。加えて、昨今の技術進歩が追い風となっている。クラウド基盤は安価となり、全社レベルのビッグデータ活用時のハードルも格段に下がった。

このように、「データ駆動型事業運営」を推進する上で、適した環境が整いつつあるといえる。では、具体的にどのような事業・業務に「データ駆動型事業運営」は適用が可能なのか。また、その適用はどのように行うのか。次回以降では、具体的な適用事例なども交えながら、「データ駆動型事業運営」の適用範囲・実現方法などについて深堀りをしていく。

※1:HRTechとは、人材リソース(Human Resources)とテクノロジー(Technology)とを組み合わせた造語。人材採用、人材育成・評価といった人事領域にデジタル技術を活用しようとする試みを指す。

※2:ここでいう「ビッグデータ」とは単に巨大なデータということに留まらず、多様で複雑なデータの取り扱いも含む。

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