コラム

社会・経営課題×DXデジタルトランスフォーメーション

DX時代のデータ活用戦略  第2回:外部データを活用した顧客アプローチの高度化

タグから探す

2022.10.17
社会・経営課題×DX

1to1アプローチと外部データ活用の有効性

マーケティング分野におけるデータ活用として1to1アプローチがある。1to1アプローチとは、住宅購入の検討者に住宅ローンの案内メールを送付する、SNSに個人の年齢や嗜好性に合った化粧品の広告を掲示するといった、個々の顧客ニーズに沿った商品・サービスを提案する取り組みである。顧客ニーズが多様化する中で、アプローチ効率を向上させる有効な手段と言える。

しかし当社が独自に実施した「DX推進状況調査」では、データ活用の目的を1to1アプローチとする割合は19%と、十分に実施されているとは言いがたい。第1回コラムで触れた「データ分析人材が不足している」「データ加工が煩雑」「適切なデータがない」といった課題が、1to1アプローチでも障壁となっていると考えられる。

一方で、同調査では1to1アプローチにおいて外部データを活用することの有用性も示唆されている。図1はデータ活用の目的別に想定通りの成果が得られた割合を、社内データ・外部データを用いたそれぞれの場合で比較したものである。これによるとデータ活用の目的として1to1アプローチを掲げている企業のうち、外部データを活用して成果を得られた割合は32%となっている。この値は「社内データ・外部データを活用した顧客行動のモニタリング」に次いで高く、外部データを活用した1to1アプローチでは想定通りの成果が得やすい傾向がうかがえる。

そこで今回のコラムでは、1to1アプローチの障壁の一つとなっているであろう「適切なデータがない」状況の解決策として、外部データ活用に焦点を当て、具体的な取り組みのプロセスや活用事例を述べていく。
図1 社内データ・外部データ活用目的別 想定通りの成果が出ている割合
図1 社内データ・外部データ活用目的別 想定通りの成果が出ている割合
注:DX推進状況調査:2021年12月実施のWebアンケート調査。売上高100億円超の企業の従業員(派遣・契約社員を除く)で、社内のデジタル化・DXの取り組みに何らかの形で関与している1,000人が回答。

出所:三菱総合研究所

外部データ特定までのプロセス

1to1アプローチに有効な外部データをどのように特定したらよいのだろうか。活用する外部データの特定までの大まかなステップは次のとおりである(図2)。
 
①1to1アプローチの目的の設定
②目的達成のために必要な情報の特定
③内部データの棚卸しおよび外部データに求める情報の特定
 
①1to1の目的はさまざまであるが、大別すれば「1. 有望ターゲットの特定」、「2. ターゲットに対する効果的なアプローチタイミングの特定」となる。
 
「1.」の典型例は、その商品・サービスと親和性の高い属性や嗜好性を持つターゲットの特定である。「2.」については、金融機関の例を挙げてみよう。金融商品のニーズはライフステージや資産状況によって大きく異なる。例えば結婚後には住宅ローンのニーズ、子どもが生まれればジュニアNISAのニーズが発生する可能性が高い。また定期預金や債券の満期を迎えた顧客は、新しい金融商品の購入を検討していることが多い。このような個別のニーズを把握しないまま全体にアプローチすれば、企業側は無駄な営業リソースを割き、消費者側も不要なアプローチを受けることになる。このため、潜在顧客が各金融商品を必要としているタイミングを特定したうえでアプローチをする、という目的設定となる。

次に、①で設定した目的のために必要な情報を特定する(②)。例えば先の金融機関の例であれば、顧客の資産状況およびライフステージが必要な情報となる。
 
続いて、金融機関内部で保有する口座データを分析すれば、このデータからは資産状況を推定できても、ライフステージのタイムリーな把握は難しいということが分かるだろう。そこで、自社データからは把握できない顧客のライフステージ情報を求めて、外部データの活用に目を向けることとなる(③)。
図2 1to1における外部データ活用特定までのプロセス
図2 1to1における外部データ活用特定までのプロセス
出所:三菱総合研究所

必要な外部データを保有する業界を探し出す

図3は、当社が多様な業界でデータ活用を支援した経験から、業界ごとに保有するデータおよびそこから読み取れる情報、1to1アプローチへの活用可能性をまとめたものである。図の中の項目は一例であり、すべての業界・特性を網羅しているわけではない。業界ごとに保有するデータは多様であり、そこから推定できる情報もまた多様であることが分かるだろう。

その一つとして、電力業界が保有するスマートメーターのデータからは世帯規模や生活動向が読み取れるとされており、2022年5月設立の一般社団法人電力データ管理協会によって、電力会社が保有するスマートメーターの電気事業者以外の事業者へのデータ提供の準備が進められている※1

これにより将来的には、朝型の単身世帯に朝活教室の案内DMを送る、高齢の単身世帯に宅食サービスの案内DMを送る、といった1to1アプローチが実現する可能性がある。

この他にも、鉄道会社が保有する交通系ICカードの購買取引履歴を分析することによって、何がどこで買われたかを読み取ることができる。このデータを活用することにより、勤務先を出て自宅の最寄り駅に降りてから、帰り道のコンビニで新商品スイーツを買っているといった消費行動を捕捉し、マーケティングのターゲットやアプローチタイミングの特定に繋げることが考えられる。
図3 1to1に照らし合わせた業界ごとに保有するデータの特性
図3 1to1に照らし合わせた業界ごとに保有するデータの特性
出所: 三菱総合研究所

外部データ活用を顧客アプローチ高度化に繋げた実例

当社による外部データを活用した1to1アプローチの支援として、金融A社と小売りB社を仲介した例がある。

金融A社は、各金融商品のニーズがある顧客をターゲットに、クロスセルや新規顧客開拓を行いたいと考えていた。そのためには個々の顧客ニーズを適切に把握する必要があるが、自社には顧客の契約時点の情報しかなく、最新のニーズ把握が困難であった。そこで小売りB社のデータを活用し、生活品の消費行動と金融商品ニーズの関係性理解に基づくアプローチを行うこととした。例えば、防災グッズや健康グッズを購入する層は、将来への備えに対しての意識が高く、長期積立型の金融商品を購入する傾向にあるかもしれない。新商品をすぐ購入する人は、ハイリスク・ハイリターンの投資を望むかもしれない。

外部データの利用により、金融A社はこうした仮説検証が可能となり、ターゲットおよびターゲットに対するアプローチタイミングの特定に繋げられた。なおこの事例では、小売りB社にとっても学資保険を契約した顧客に入学時に必要となる学用品や生活用品のDMを送付できるというメリットがあった。

さらなる外部データ活用に向けて

このように1to1アプローチに外部データを活用するメリットは大きい。特にコロナ禍を経て消費者の価値観や働き方・生活スタイルが急速に変化してきている現在では、外部データも使ってその変化にいち早く気づいた企業が競争優位に立つだろう。

一方で、外部データ活用にはさまざまな障壁が存在する。例えば、自社に足りない情報を特定できても、そのデータをどの業界が保有しているのか、どうすれば入手できるのか、明らかでないことも多い。さらに実際に他社と組み、目当ての外部データを入手できたとしても、データ分析の専門家がいないために、適切な分析や活用にあたっての手続きを行うことが困難な場合もあるだろう。

当社には内部・外部データの活用を支援してきた多くの実績がある。データ活用推進にあたって困りごとがあれば、ぜひご相談いただきたい。

※1:経済産業省「電気事業法に基づく認定電気使用者情報利用者等協会を初めて認定」
https://www.meti.go.jp/press/2022/06/20220630008/20220630008.html(閲覧日:2022年7月27日)

関連するリンク

DX推進状況調査の結果を基にまとめた調査レポートをダウンロードできます。

関連するサービス・ソリューション

連載一覧

関連するナレッジ・コラム

関連するセミナー