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社会・経営課題×DXデジタルトランスフォーメーション

DX時代のデータ活用戦略  第4回:内部データを活用した新規事業創出入門

社会課題起点で考える

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2022.11.28
社会・経営課題×DX
第2回第3回のコラムでは、マーケティング高度化を例にした既存事業への外部データ活用方法や新たな外部データの動向について述べた。第4回となる本コラムでは、視点を社外にあるデータから自社内にあるデータに移し、蓄積された内部データを活用して新規事業を創出する際のポイントや検討の進め方を紹介する。

内部データ活用による新規事業創出のポイント

近年、DXやデータ駆動経営という潮流が定着する中で、数多くの企業がデータ活用を競争力の源泉と捉えている。実際当社にも、「自社に蓄積された内部データを活用することで何か新規事業を創出できないか」という相談が寄せられている。

内部データ活用による新規事業創出のポイントは2つある。それは、「ニーズ起点(顧客視点)の発想の取り込み」と「消費者の抵抗感への配慮」である。

1番目の「ニーズ起点の発想の取り込み」について、データ活用はあくまで手段であり、決して目的ではないということを常に意識する必要がある。蓄積したデータを活用することにフォーカスしすぎるとシーズ起点(事業者視点)の発想となり、顧客の関心を得られない事業となってしまう。顧客のどのような課題を解決することが求められているのか、ニーズ起点の発想を前提とすることが重要だ。

2番目の「消費者の抵抗感への配慮」について、図1は利用目的ごとのパーソナルデータの提供意向を聴取した結果である。企業が提供するサービスやアプリケーションの登録・利用にあたり、われわれは生活の中でさまざまなパーソナルデータを提供しており、企業も多くのパーソナルデータを収集している。大規模災害や健康・福祉関連、社会課題解決など公共目的で用いる場合の提供意向は、製品の機能向上やサービス品質の向上などの収益事業に用いる場合に比べて高くなっている。ただし収益事業であっても、消費者自身への経済的なメリットが受けられるなど、何らかのメリットがある場合にも提供意向が高い傾向がある。内部データ、特にパーソナルデータを活用する際には、プライバシー保護などの適切なデータの取り扱いはもちろんのこと、これらの消費者心理を加味することも重要だ。
図1 利用目的ごとのパーソナルデータの提供意向
利用目的ごとのパーソナルデータの提供意向
出所:総務省「令和2年版情報通信白書」を基に三菱総合研究所作成

注目される協調領域での内部データ共有の動き

先に述べた2つのポイント「ニーズ起点の発想の取り込み」と「消費者の抵抗感への配慮」の両方を満たす例として、社会課題解決のためのデータを活用した新規事業が挙げられる。しかし、社会課題の多くは1社が蓄積した内部データだけで解決できるほど単純ではないだろう。そのような場合、第2回・第3回コラムで述べたような外部データの活用も一手だが、業種・業界内で企業を横断して内部データを共有するプラットフォームを構築しつつ、より大規模・広範に収集したデータを活用して新規事業を創出していくことも有効な一手である。

データは競争力の源泉と言われるだけあって、蓄積した内部データを他社と共有するのはハードルが高いのが実情だと思われるが、社会課題解決のような個社の利益追求から離れて協力することが求められる領域では、このようなデータ共有にも取り組みやすいのではないだろうか。

こうした動きの例として、農業データ連携基盤の「WAGRI※1」がある。これは、今まで散在していた国内・海外の各ICTベンダーや農機メーカーが持つ作物情報や生産計画・管理などの農業データを集約・共有するデータプラットフォームであり、以前に比べて大規模なデータへのアクセスを可能にした。実際にWAGRI上の農地区画データや農薬データを活用し、各圃場の状況を一元的に把握可能な営農指導者向け支援システムも登場している※2。各ベンダーやメーカーが個社の垣根を越えてさまざまなデータを共有・活用することで、自社の内部データだけでは不可能であった便利な新規事業・新規サービスの創出が進められている。

このように、事業基盤となるプラットフォーム構築やデータ共有は、扱えるデータ量・種類を拡大させるという意味での協調領域の意味合いをもつ。一方でそれらのデータを活用した新規事業やイノベーション創出は競争領域とみなせる。両事業領域を通じて、業種・業界全体としてデジタル時代における新たなビジネスを模索していく動きが活発化している。2021年6月に内閣官房が発表した包括的データ戦略の中でも、プラットフォーム構築の重要性がうたわれている※3

社会課題起点でデータ活用新規事業を考える

それでは、「社会課題」の解決を目指した新規事業創出をどのように進めたらいいのか。以降では当社が提案している具体的な検討手順を紹介する。

当社では2017年から毎年社会課題リストを作成している。社会課題リストとは、「社会が抱える、あるいは社会が生み出すさまざまな社会問題を毎年リストアップ」※4しているものであり、主に (1) 社会問題、(2) 取り組むべき課題、(3) 解決の方向性——の3つのパートで構成されている。内部データを用いた新規事業の方向性を探る段階で社会課題リストを用いることにより、比較的容易に幅広い分野でのデータ活用の可能性を検討できる。

検討手順を図2に示す。まずはシーズ側の準備として、内部データから何がわかるのか、を列挙する(図中①)。既存の内部データから新規事業を導出する場合には、当然ながら当該データは収集時の目的とは異なる目的で使う、つまり転用することになる。例えば、「在庫管理のために蓄積されたPOSデータから顧客の併買傾向をつかむ」「携帯電話やスマートフォンの通信データから接続基地局内の人口や人の移動を補足する」などが考えられる。このように内部データを転用することで得られる情報、つまり「何がわかるのか」を、イメージを膨らませて書き出す。

次にニーズ側。こちらは社会課題リストの内、(3) 解決の方向性をリストアップすればよい(図中②)。

その上で、ニーズとシーズを掛け合わせる(図中③)。解決の方向性ごとに、列挙したデータから得られる情報の有望度(活用可能性)を評点付けする。評点付けは個々の主観で行う。できれば複数人で評点付けを行うことで、ニーズ側とシーズ側、それぞれに対する個人の先入観や認識の偏りを是正することが望ましい。全評点を合算して点数の高い項目が、検討する際の優先度が高いと判断できる。

その後、優先順位が高いものから順に、具体のユースケースを検討することで一連の手順が完了する。

これらの検討は担当者のみで進めるのではなく、異なる視点をもつ社内外の人材を含めて進めることが望ましい。特に、手順①のシーズの列挙や手順③の評点付けにおいては、社内外のデータに精通した人材が加わることで、シーズ自体、さらにはニーズとシーズの掛け合わせの先にある可能性を広く捉えて検討ができるようになる。
図2 社会課題リストを用いたデータ活用新規事業の検討手順
社会課題リストを用いたデータ活用新規事業の検討手順
出所:三菱総合研究所

データ活用による新規事業創出の肝

本コラムでは、内部データを活用した新規事業創出をテーマに、検討時に考慮すべきポイント、昨今の注目すべきデータプラットフォーム構築の動き、さらには具体の検討手順を社会課題起点で検討する場合の例を示した。冒頭で述べた通り、自社に蓄積された内部データの活用した新規事業創出は、相談が多い一方で、現時点で成功事例と言える事業は少なく、難問であることは確かだ。このような検討は、通常の事業立ち上げに要する時間に加え、収益化できる前段階でデータ整備が必要となる。ここに多くの時間と費用が必要とされるため、途中で頓挫してしまうケースも多い。

最後に、内部データを活用した新規事業創出を成功させる上で最も重要なポイントを挙げる。それは、経営層も一丸となり、中長期目線をもって推進していく——。つまり「経営レベルでのコミットメントが欠かせない」ということである。現場任せ、短期成果主義では成功は望めない。企業として覚悟を持って検討を進めてほしい。

※1:農業データ連携基盤協議会(WAGRI協議会)「WAGRIについて」
https://wagri.net/ja-jp/aboutwagri#sec1(閲覧日:2022年8月19日)

※2:農業データ連携基盤協議会(WAGRI協議会)「農業データ連携基盤活用事例集」
https://wagri.naro.go.jp/wp-content/uploads/2022/02/WAGRI%E6%B4%BB%E7%94%A8%E4%BA%8B%E4%BE%8B%E9%9B%86_NEC%E3%82%BD%E3%83%AA%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%82%A4%E3%83%8E%E3%83%98%E3%82%99%E3%83%BC%E3%82%BF%E6%A7%98.pdf(閲覧日:2022年8月19日)

※3:デジタル庁「包括的データ戦略」
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/63d84bdb-0a7d-479b-8cce-565ed146f03b/02063701/policies_data_strategy_outline_02.pdf(閲覧日:2022年8月19日)

※4:三菱総合研究所ニュースリリース「2021年度版社会課題リストを公開『100億人が100歳まで豊かに暮らせる持続可能な社会の実現』に向けて」(2022年4月21日)

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