コラム

社会・経営課題×DXデジタルトランスフォーメーション

DX時代のデータ活用戦略 第3回:新たに注目を集めている外部データとその活用

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2022.11.24

DX技術本部岡本勝裕

田島雅己

社会・経営課題×DX

外部データの種類と活用の課題

データ活用の目的は、従来人間の暗黙知や感覚で進めてきたビジネスの課題解決を、データを用いて再現・検証し、より高度に実行しようとするものである。

日本企業の多くでデジタル化・DXは発展途上であり、「データ活用」も同様である。第1回コラムでも触れたように社内のデータ活用は浸透しつつあるものの、社外などの外部データ活用は目的設定に苦慮する企業が多い。

しかしながら、外部データの活用は自社が持ちえない観点で質の高い課題解決につながる可能性があり、取り組む意義は高い。そこで、本コラムでは第2回に続いて外部データに焦点を当て、その中でも活用のハードルが低い集計データの概要とその新たな動きを紹介する。

データは、その所在(外部/内部)とデータ形式(個票/集計)によって4つに大別される(図1)。第2回で取り上げた個票データは、個人の行動履歴などを分析することで詳細な顧客理解や事象理解につなげることが可能である。ただし、個票データは個人情報保護の観点から活用のハードルが高い上、相応のデータハンドリング技術や環境(格納領域など)が必要となる。他方、今回取り上げる集計データは、データを属性や購買額など一定の単位で集約したデータであり、社会や地域、産業といった、確認したい対象の全体動向を定量的に把握することができる。
図1 データの分類と代表例
データの分類と代表例
出所:三菱総合研究所
最も身近な外部の集計データは政府統計データだろう。統計局のホームページ※1では、図2のように17の分野について、基幹統計(公的統計の根幹をなす重要性の高い統計)を含む約700の統計調査が公開されている。また、政府統計を加工・編集し、データ分析に詳しくない人でも活用可能にした地域経済分析システム「RESAS」※2のような取り組みもある。例えば、ある特定の地域におけるクレジットカードの取引単価データを取得し、エリアマーケティングに活用するといった使い方が可能である。
図2 政府統計の概要
政府統計の概要
出所:総務省統計局HPを参考に三菱総合研究所作成
アンケートデータも集計データの1つである。アンケートは定性データを集めることもできるが、主として「Yes/No」のような選択肢で定量データを集める手段として用いられる。アンケートデータは、課題の把握や仮説検証、実態調査や効果測定など、さまざまなシーンで利用される。なお、アンケートデータの利用パターンには①他者が実施したアンケート結果の利用、②調査会社のパネルを活用した独自調査、③完全に自社で実施する独自調査、の3通りがあり、①が外部の集計データに該当する。

政府統計やアンケートのような従来型の集計データは、特定の目的に対して緻密に設計されているため、目的に合えば非常に有用な情報となる。一方で調査・集計に時間や手間を要するため、特に政府統計では結果の即時性に限界があるほか、定点観測の中で短いスパンで頻繁にデータを取得することが現実的に難しいなどの課題もある。

外部データの新たな動き

近年のデジタル技術の進化に伴い、販売時点情報管理(POS)の売り上げやSNSの投稿、位置情報など、社会・生活・産業に関するさまざまな活動履歴データの蓄積・記録が加速している。従前から利用されている政府統計やアンケートデータのような「トラディショナルデータ」に対し、これまで利活用の進んでいなかったデータは「オルタナティブデータ」と呼ばれ、新たな外部データとして注目を集めている。

オルタナティブデータの活用は金融分野で先行して検討されていたが、それ以外の分野ではあまり注目されなかった。しかし、コロナ禍で社会情勢が劇的に変化する中でトラディショナルデータによる経済状況把握の限界が露呈し、より速く細やかに経済を捉えるスキームの必要性が認識された。例えば「東京駅における人出が前週比で80%減少」のようなニュースが連日報道されたが、これは携帯電話の位置情報を基に加工されたデータから割り出されており、オルタナティブデータへの期待が高まる1つの契機となった。

オルタナティブデータの最大の特徴は、速報性と網羅性に優れる点だ。前述した通り、特定の分析目的に向けて設計・収集されているトラディショナルデータに対して、オルタナティブデータは業務など何らかの主たる目的のために収集されたデータを、他の目的に転用して利用するものである。したがって、データ取得元のサービス停止やデータ提供の有償化などによってデータが利用不能になることや、そのサービスの特定セグメントのユーザー数が増加することで観測対象の特性が変化することが起こり得る。以上の点に注意する必要はあるものの、オルタナティブデータの登場によって利用可能なデータの量が飛躍的に増加し、より高頻度で多岐にわたる分析が可能になった。

次に、オルタナティブデータを加工して提供しているサービス事例を3つ紹介する。

DS.INSIGHT

ヤフーは、自社が保有するサービスから得られたビッグデータを分析できるデスクリサーチツール「DS.INSIGHT」※3を提供している。ヤフーが展開するサービスから収集した情報(検索と位置情報、ネット上での購買情報など)を拡大推計し、日本の全体の利用者の無意識下での行動を探ることが可能だ。検索や購買に関するデータ(注:DS.INSIGHTには翌日に反映)を確認することで、誰も気付いていない潜在的なニーズを定量的に発掘することができる。

当社でもヤフーの外部データを活用している。その取り組みについてはこちらを参照いただきたい。

モバイル空間統計

NTTドコモとドコモ・インサイトマーケティングは、ドコモの基地局がカバーしている携帯電話の台数を集計し、ドコモ携帯の普及率を加味した上で推計された人口統計データである「モバイル空間統計」※4を提供している。個人が特定できないよう秘匿処理を行いつつ、ドコモ携帯のユーザーを対象に位置情報を収集しており、任意のエリアで24時間365日、人口の把握が可能だ。活用例として、コロナ禍における人口分布のリアルタイム把握がある。

JCB消費NOW

ジェーシービーとナウキャストは、JCBカードの利用実績から作成される消費統計データ「JCB消費NOW」※5を提供している。JCBグループ会員から約1,000万人分の会員データを抽出し、カードの締め日から15営業日後に統計データを公表する。店舗の業種別、利用者の属性(居住地域、性別、年代)別に消費の動向を細かい周期で把握できるため、政府統計よりも広範で速報性の高いデータとして、経済や消費のトレンド分析に用いられている。

外部データ活用に向けて

これまでのビジネスの課題解決には「ヒト・モノ・カネ」が重要な資産であると捉えられてきたが、DXの潮流の中で、データはビジネス推進の新たな資産として重要性を増していくと考えられる。まずは解決したい課題を明確にし、解決に資するデータを探索していくことだ。その際には、社内に閉じず社外にも目を広げることが鍵となる。

本コラムでは比較的自社への適用がしやすいオルタナティブデータの事例を紹介した。今後もデジタル化の推進と共にますます外部データの重要性が増していくことが想像される。内部データの活用にとどまらず、時には専門家の意見も踏まえながら、課題解決に最適なデータを外に探していくことに挑戦すべきである。

※1:総務省統計局「統計局ホームページ」
https://www.stat.go.jp/(閲覧日:2022年7月28日)

※2:内閣府・経済産業省「RESAS」
https://resas.go.jp/#/13/13101(閲覧日:2022年8月1日)

※3:ヤフー・データソリューション「DS.INSIGHT」
https://ds.yahoo.co.jp/service/insight/(閲覧日2022年7月28日)

※4:モバイル空間統計
https://mobaku.jp/(閲覧日:2022年7月27日)

※5:JCB消費NOW
https://www.jcbconsumptionnow.com/(閲覧日:2022年7月27日)

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