ニュースリリース

内外経済の中長期展望 2018-2030年度

2018.7.9

三菱総合研究所

株式会社三菱総合研究所(代表取締役社長 森崎孝 東京都千代田区永田町二丁目10番3号)は、2018-2030年度の内外経済の中長期展望に関するレポートをまとめました。

要旨

総論:世界経済の底流となる5つのトレンド

リーマンショックを境に中国経済の台頭が顕著になるなか、自由市場・民主主義を共通の理念とする国際秩序は転換点にある。中国やその他の新興国経済の成長・拡大により、世界の多極化が進むとともに、統制色の強い国家資本主義国が世界のGDPでのシェアを高めている。各国の国内問題に目を移してみると、欧米では国内での経済格差拡大や社会的な分断が顕在化し、ポピュリズムや保護主義の傾向が強まっている。中国やその他の新興国では、経済・生活水準が上昇する一方で、環境問題などの社会課題が深刻度を増すとともに、高齢化も本格的に進行する。

世界の政治・経済の不透明感が強まるなかで、希望はイノベーションによる社会課題の解決となる。新技術の社会実装進展は、先進国・新興国がともに、よりゆたかな世界を実現するための原動力となる。これらを念頭に、2030年までの世界経済を方向づける5つのトレンドを挙げる。

トレンド1:多極化の進展と国家資本主義の広がり

世界経済は、米国と欧州を中心とした二極構造から、中国やその他の新興国が存在感を増す多極構造へと変貌しつつある。こうしたなか、国家資本主義国の世界GDPシェアは2030年には3割近くまで拡大、自由経済の中でも米トランプ政権が独自の経済外交を進めるなど、多国間ルールに基づく自由貿易の枠組みが後退するリスクが懸念される。

トレンド2:アジアへの経済重心のシフト

アジア経済の躍進は続く。世界GDPに占めるアジア全体のGDPシェアは2000年の2割強から2030年には4割近くに上昇する見込み。特に中国のGDPは、2030年までに米国のGDPを抜き、世界第一位の経済規模となる可能性が高い。

トレンド3:世界で拡大する国内の経済格差

先進国と新興国の経済格差が縮まり、政治・外交面でも多極化の様相が強まる一方、各国内の貧富・階層の格差は先進国、新興国双方で広がっている。その背景には、企業の高収益と賃金上昇のアンバランスに加え、教育格差の固定化や若年層の失業率上昇などがあり、これが先進国、新興国の双方で社会の分断を引き起こしつつある。AI・IoTなどデジタル関連事業の隆盛による利益の一極集中傾向とも相まって、国内の経済格差は今後さらに拡大すると予測する。

トレンド4:シェアリングの加速による循環型社会の実現

グローバリゼーションの波とは対照的に、一つの経済圏の中で完結する循環型社会に向かう要素もある。例えば、①地産地消の進展、②シェアリングによるモノの必要量の減少、③資源リサイクルの拡大などが、2030年に向けての潮流となることが予想される。

トレンド5:デジタル技術の浸透による現実社会とサイバー社会の融合

IoTの本格的な実装が進み、現実社会とサイバー社会の融合が加速。AIが人間を補助・代替することで、日々の仕事や暮らしがより便利な姿に変貌するとともに、さまざまな分野で社会課題解決への道も開けるだろう。また、サイバー空間内で完結するビジネスが増えることで、サイバー空間は単なる情報交換のコミュニティではなく、経済活動が営まれる一つの社会へと変貌する。 

海外経済:2030年までに米中GDP逆転の可能性

米国経済

旺盛なイノベーションと新ビジネスが経済活力の下支えとなる一方で、労働市場における質のミスマッチと国内経済格差の深刻化が重石となり、米国の成長率は2020年の2%近傍から2030年にかけて1%台後半へ低下する見通し。

欧州経済

慎重な企業行動と人的資本の質の低下が下押し要因となる一方、北欧諸国などの先端技術の展開による生産性上昇が下支えとなり、欧州の成長率は、2020年までは1%台後半の成長を予想。その後は生産年齢人口の減少を背景に、成長率が0%台後半まで低下する見通し。

中国経済

生産年齢人口の減少や旧来産業の成長鈍化などを背景に、成長率は2020年の6%台半ばから2030年には3%台後半まで緩やかに減速すると予想。

ASEAN経済

生産年齢人口の伸びは緩やかに減速する反面、生産性の上昇は続くため、ASEAN全体の成長率は2030年にかけて4%台を維持すると予測する。

インド経済

若い人口の増加や、所得水準の上昇に伴う内需拡大が続くことなどを背景に、インドの成長率は2030年にかけて6%近傍を維持すると予測する。

日本経済:経済再生に向けた5つのポイント

人口減少や高齢化、社会保障や財政問題などに直面するなか、日本経済の潜在成長率は、自然体では2030年にかけて0%程度まで低下する見通し。三菱総合研究所は、今後の日本のあるべき姿として、「挑戦と変革がゆたかさを育む社会」を目指し、より明るい社会を共創することを提案したい。「ゆたかさ」とは、経済的な豊かさのみならず、人との関わり、働きがい、健康など、総合的な暮らしの満足度を示す。これを実現するためのポイントは以下の5点だ。

Point1:イノベーションで社会を変革する

日本が目指すべき未来の実現には、デジタル技術を起点とするイノベーションで社会課題を解決する視点が欠かせない。日常の課題解決や生活の質向上につながるニーズを測るために、消費者5,000人に対し当社が実施した「未来のわくわくアンケート」によると、社会課題解決につながる商品・サービスを中心に、「潜在」市場規模は消費者向けに50兆円/年にのぼる。

Point2:拡大するグローバル需要を取り込む

企業がグローバルで生産・開発拠点を現地化し、ニーズ起点でバリューチェーンを構築する流れは2030年にかけて一段と加速しよう。この流れは日本の経常収支構造にも大きな変化をもたらす。現地化によって財輸出が減少する一方、投資収益やサービス受取は拡大を見込む。世界の直接投資市場は、2030年にかけて3.4兆ドルまで拡大するとみられ、日本にとっては配当などの投資収益のほか、海外現地法人からの知的財産権収入などサービス受取増加が期待される。

Point3:「学び」「行動する」人材を育てる

今後、日本の仕事を巡る環境は激変する。2020年代前半までは少子高齢化による人材不足の深刻化が続くが、2020年代半ば以降はデジタル技術の普及による省力化・無人化により人材余剰へと転換。同時に、技術革新を担う専門職人材が170万人規模で不足するなど、人材のミスマッチが顕在化。人材ミスマッチの解消には、個人が能動的に「学び」、「行動」することが必要だ。

Point4:持続可能な地域経済を構築する

デジタル技術の発達で、住む場所、働く場所、消費する場所が自由に選べる時代となり、東京一極集中から地域へと人の流れが変わる可能性もある。地域へ移り住む人材と地元人材との化学反応で、新しいビジネスが生まれるチャンスも広がる。「地域みがき」を起点に、人材力×起業力×地域力の掛け算で地域発のイノベーションを起こしていくことが重要になる。

Point5:人生100年時代を支える財政・社会保障制度へ変革する

財政健全化に向けて、歳入と歳出の両面の改革を着実に進める必要がある。なかでも、日本の社会保障制度は、超高齢社会で制度疲労が顕現化している。人生100年時代を見据え、過剰なサービスの抑制や自助の範囲拡大に向けた制度改革は急務だ。①制度改革、②新技術の活用、③地域での支え合いの3つを組み合わせることで、生活の質(Quality of Life)向上と社会保障制度の持続可能性の両立は可能である。

上記の5つの改革が実現した場合、2030年の成長率は、自然体での0%程度から1.5%近くまで上昇、実質GDPの水準では約80兆円(現状比+14%)増加する。日本は、成長の果実を「未来への投資」に振り分ける余力が生まれ、持続的な経済社会を実現できるであろう。

本件に関するお問い合わせ先

内容に関する
お問い合わせ

株式会社三菱総合研究所
〒100-8141 東京都千代田区永田町二丁目10番3号
政策・経済研究センター 武田洋子
E-mail:ytakeda@mri.co.jp

取材に関する
お問い合わせ

株式会社三菱総合研究所
〒100-8141 東京都千代田区永田町二丁目10番3号
広報部 瀬戸口、吉澤、渋谷、角田
E-mail:media@mri.co.jp