ニュースリリース

提言 カーボンニュートラル時代の長期的な原子力利用の在り方

2022.10.7

株式会社三菱総合研究所

POINT

株式会社三菱総合研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:籔田健二)は、カーボンニュートラル達成、エネルギー安全保障の重要性の再認識といった新たな潮流を踏まえて、独自試算・独自アンケート調査に基づく長期的な原子力利用の在り方を提言します。

世界でエネルギーリスク顕在化 脱炭素化とエネルギー安全保障の両立に向けた動き加速

2020年10月末に菅前首相が「2050年までにカーボンニュートラル(CN)の実現」を宣言してから約2年が経過し、その間、世界の脱炭素化の潮流は大きく加速した。一方で、2022年2月のウクライナ侵攻で、権威主義国にエネルギーを依存するリスクが顕在化し、脱炭素とエネルギー安全保障の両立がエネルギー分野における潮流となっている。この両立に向けた取り組みの一例として、EUタクソノミー※1に原子力・天然ガスを含めることが7月に決定しており、エネルギー種の多様な選択肢を有することの重要性を示唆している。また、英・仏では原子力発電所増設、独では石炭火力発電所への回帰、今年末で廃止を決定していた原子力発電所の一部活用の検討など、各国はエネルギー政策の見直しを進めている。

当社は、2022年7月4日に「2050年カーボンニュートラルの社会・経済への影響」を発表した。同レポートでは2050年に向けた日本の4つの将来シナリオを設定し、脱炭素社会への円滑な移行に向けて必要となる対策の方向性を提言した。この中で、原子力については、「残すというメッセージを明確に発することが重要」「技術・人材の維持、(再エネ大量導入時代に即した)原子力自体のイノベーションが必要」と述べており、本提言はこれについて具体化するものである。

日本は電源の多様な供給力確保が重要 政府は新増設へ一歩踏み出す

エネルギー自給率が1割程度しかない日本で、エネルギー安全保障は国家の命運を左右する重要な課題である。2022年3月の福島県沖地震で東日本エリアの電力供給力が大きく減少、また、6月末には異例の暑さで電力需要が大幅に増大し、いずれも電力需給がひっ迫する状況に陥った。また、ウクライナ侵攻により資源価格の高騰に拍車がかかるとともに、他国との良好な関係性を前提としたエネルギー供給の調達リスクが顕在化し、改めて多様な供給力を確保することの重要性が浮き彫りとなった。電力システムは、地震や異常気象などの稀に発生する事象にも対応できる柔軟性が求められ、再生可能エネルギー(再エネ)、火力電源に加え、これらとは異なる特徴を有する原子力が稼働していればより対応力が高められた可能性がある。このような状況も踏まえ、8月のGX実行会議※2において、岸田首相が「次世代革新炉の開発・建設など」の検討を指示したところである。

国内経済・産業の維持と確実なCN達成・エネルギー安定供給のために、原子力利用は有効な選択肢の1つ

資源・技術の海外調達が不確実な状況で、生活水準を下げることなく、国内経済・産業を維持しつつエネルギー安全保障の確保とCN、これに価格安定性を加えた3E(自給率、環境適合性、経済効率性)を同時に達成するために、国際送電網を持たない日本では、特に多様な電源によるエネルギーのベストミックスが重要となる。

将来にわたるエネルギーミックスの選択肢に、原子力を含めるか否か、現在、日本は岐路に立たされている。太陽光・風力発電や蓄電池等の革新的技術進展を伴う再エネの最大限の導入、需要側の省エネ・電化に加え、水素やアンモニアへの燃料転換など火力の脱炭素化、CCS(二酸化炭素回収・貯留)やDAC(大気中二酸化炭素の直接回収)等、スピード感をもって推進すべきであるが、これらの実装には課題・不確実性がある。この不確実性への対応として、技術的な実績を有し、発電時に二酸化炭素を排出せず、準国産エネルギーと位置付けられる原子力利用は有効な選択肢である。ゼロとならない原子力固有のリスクと、原子力を利用しない場合のCN、エネルギー安全保障の不確実性が招くリスクを踏まえ、原子力利用の在り方を明確にすべきである。

当社が考える長期的な原子力利用の在り方は以下のとおりである。
  • 短期視点:規制基準に適合した既存原子力発電所を再稼働して、電力の安定供給に寄与すべき
  • 中期視点:2050年までは原子力利用を継続すべきであり、それが現実解
  • 長期視点:2050年以降は、2040年頃を目途に代替する他の脱炭素技術の見通し・安全保障動向等からその利用方針(拡大、維持、卒原子力等)を改めて判断すべき
  • 将来の選択肢の1つとすべく、水素・アンモニア・CCS等の技術と同様、原子力イノベーションも進めるべき
今、原子力利用の在り方を曖昧なままにしておけば、技術・人材・サプライチェーン(SC)が弱体化し、2050年までの維持は難しく、さらには、原子力利用を将来的な選択肢として残すことは非現実的となる。

2050年時点で少なくとも10~15%程度を原子力で担える基盤維持を

2050年時点での原子力の必要量を、①水素・CCS等の脱炭素技術の開発の不確実性の補填、②多様な供給力、③原子力の安全基盤(技術・人材)維持、の3つの観点で試算した。①について、政府審議会での議論を参考にすると、特に、水素・アンモニア・CCSの技術実装が遅延すれば、再エネを補完するために、最大で発電電力量の40~50%を原子力等の確立された電源が担わなければならない(補足1 )。②について、当社の試算によれば、前述の審議会参考値を大幅に超える変動性再エネ(太陽光・風力)と大量の蓄電池導入および大幅な連系線増強を想定した場合でも、変動性再エネだけで電力需給を賄うことは難しく、原子力を含むベースロード電源を最低でも10~15%程度有することが必要である。③について、当社で実施した委託調査等によれば、2050年まで原子力発電を安全に運用していくためには、技術・人材・SCの維持が必要である。特に、設計や高度な設備製造に係る技術・人材・SCの維持については、運転・保守のみならず、設計・建設に係る固有技術の継承のために原子炉の建設が重要となり、今後数年に1基程度の建設が必要と想定される※3※4。これは、既存の原子力発電所と合わせ発電電力量の10~15%程度の維持に相当する。①~③を総合的に勘案すれば、2050年時点で、少なくとも発電電力量の10~15%程度を原子力が担うことが現実解だ。

2050年以降の原子力利用方針については、他の脱炭素技術開発の状況を踏まえ、2040年頃を目途に必要に応じて原子力利用のさらなる拡大や原子力発電の利用をやめていく「卒原子力」の選択も含めて再検討する必要がある。なお、2040年頃に卒原子力を選択できる状況にある場合、その時点で稼働中、建設中、計画中の各発電所の扱いを再整理し、卒原子力にむけて取り組むことを意味する。

長期的な電力供給の選択肢として原子力イノベーションを

2050年以降の電力供給の選択肢として、原子力のイノベーション技術は、他の脱炭素技術とともに引き続きCNに大きく貢献できる可能性がある。再エネの最大限の導入を進める中で、再エネとの共存を前提として原子力に求められる役割の変化とその時期を見定めて必要な開発を進めることが重要である。例えば、2030年を目途に変動性再エネに対する調整力を付加した小型モジュール炉を、2040年頃に大規模国産水素製造を実現する高温ガス炉を、2050年以降に既存軽水炉の置き換えを見据えた高い安全性と低い環境負荷を実現する核融合炉を導入、といった計画の具体化が考えられる。

原子力に対する社会受容は増加傾向も、安全性向上や信頼醸成の継続的な取り組みが不可欠

全国30,000人を対象とした当社独自のアンケート調査結果によれば、原子力に対する社会受容も少しずつ増加傾向が見られ(補足2 )、原子力は足元の電力の安定供給だけでなく、脱炭素とエネルギー安全保障の両立に活用可能なエネルギー源の1つとして見られている。ただし、原子力利用には、東京電力福島第一原子力発電所事故で顕在化した広範囲での環境汚染など固有のリスクが存在する。事故後の規制機関の独立、および策定された新規制基準に基づくシビアアクシデント対策の適用などから安全性は着実に向上したと言えるが、一方で事故により直接・間接の影響を受けた方々の気持ちは決して忘れてはならない。事故の対応、地域の復興に原子力関係者は最後まで責任を持って取り組むことはもちろんのこと、ゼロとならない原子力固有リスクを踏まえ、原子力を運用する事業者の姿勢などソフト面での改善、および戦時下での攻撃対象となるリスクへの対応を含めて、安全性の向上、信頼の醸成に向けた継続的な取り組みは不可欠である。

「安全」と「信頼」は異なるとの認識のもと、「信頼の醸成」のために地道な活動に注力すべき

東京電力福島第一原子力発電所事故により、原子力発電事業者やメーカー、国などの「原子力業界」に対する社会からの「信頼」が損なわれたことは言うまでもない。

「信頼」には主に3つの側面がある。1つ目は、原子力業界が原子力技術を安全に利用できる能力があるかといった「能力」の側面である。2つ目は、原子力業界が規制等を順守し公正・誠実に事業活動を行っているかといった「動機付け」の側面、3つ目は、原子力業界の組織や個人が社会と同じ目線に立っているか、社会が原子力業界に対して求めること・思いに応えられているかといった「価値類似性」の側面である。別途実施した全国4,700人を対象とした「信頼」に関する当社独自アンケート調査によれば、原子力業界に対する「信頼」といった場合、「価値類似性」が特に強く影響していることが明らかとなった(補足3 )。つまり、社会と同じ目線に立ち、社会の思いを原子力業界が正しく理解・把握し、これに応えられるかどうかが、信頼の醸成において重要である。一方で、社会の思いは、「何よりも安全を最優先とする」「低廉で安定的な電力を望む」など多様である。これを踏まえれば、原子力業界は信頼の醸成を目的化した形式的な施策ではなく、社会の思い・価値観の把握に努め、それぞれに適切に応えようとする姿勢を示す地道な活動にこそ注力すべきである。言い換えれば、原子力業界の内面的・実質的な変革が伴わない外面的・形式的な取り組み、例えば前例踏襲といった意識に変化がないまま組織だけを変更しても、信頼の醸成につながらないと言える。最新知見の取り入れや技術開発に基づく自主的、自律的かつ継続的な安全性向上への取り組みは当たり前として、多様な社会の思い・価値観を適切に汲み取りながら、これに応える業界としての姿勢を示し続けることが信頼の醸成の第一歩ではないか。

既存課題とともに、原子力利用の選択にあたり解決すべき課題にも取り組む必要がある

原子力利用を選択するにあたっては各種の課題の解決も重要となる。この課題には「利用有無によらず解決すべき課題」と「継続利用するために解決すべき課題」が存在する。前者のうち最重要の課題として高レベル放射性廃棄物の地層処分がある。これは技術課題ではなく社会課題であり、日本全体の課題として、地域間・世代間の公平性、社会・経済・環境への影響等を、時間をかけて議論を深めたうえで着実に進めていく意識が大事である。一方で、原子力利用の継続を選択するなら、優先度の高い課題として産業基盤の脆弱化や技術継承の途絶が挙げられる。デジタル技術を用いた産業強化策等も進めるなど、産業の魅力を高める対応も必要である。また、特に、今後建設に踏み出すのであれば、国の責任の在り方、新型炉等に対する規制の予見性、燃料の安定供給、さらには、不確実な中での民間投資リスク・金融の在り方等の事業性に関する課題にも着実に取り組む必要がある。

当社は本提言を契機に、ここで示した重要な論点の具体化について、研究を通じた継続的な提言活動を行っていく予定である。

※1:環境面において持続可能な経済活動の分類をEU法令として示すもの

※2:産業革命以来の化石燃料中心の経済・社会、産業構造をクリーンエネルギー中心に移行させ、経済社会システム全体の変革、すなわち、GX(グリーントランスフォーメーション)を実行するべく必要な施策を検討する内閣総理大臣を議長とする会議

※3:株式会社三菱総合研究所 「国内外の原子力産業に関する調査 報告書」
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2019FY/000406.pdf

※4:一般社団法人日本電気工業会 「第4回原子力小委員会 原子力技術・人材の維持について」
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/genshiryoku/pdf/004_03_00.pdf

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