新常態の働き方

MRIにおけるダイバーシティ&インクルージョンの取り組み

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自らのキャリアを通じて気づいたD&Iの重要性

当社は中期経営計画の成長施策の一つとして、「D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)の向上」を掲げています。最初に、D&Iに高い関心と知見をお持ちの皆さんがこれまでのキャリアを通じて「D&Iの重要性」をどのように認識されたのかをお聞かせください。

坂東 私の大学時代には、学部生に女性が3%しかおらず、圧倒的なマイノリティでした。また、就職も企業からの求人は皆無に近かった。当時は「4年生大学を卒業した女性は理屈を言うから扱いにくい」「どうせすぐに辞めるだろう」という意識が定着していたように思います。そこで公務員になったのですが、男性のようには働けない中で自分の業績や能力がどう評価されるか将来が見えず、とても悩みました。自分ならではの視点や得意な分野を着実に実践していけば評価されるという経験を積み重ねてこられたことで、今の自分があると思っています。
坂東氏
出口 私は幼少期から米国で過ごし、女性であることと人種的マイノリティであることが大きかったように思います。大学でフェミニズムに出会うまでは、日本人駐在員コミュニティで女性はほとんどが専業主婦だったため、働く女性のロールモデルを見ずに育ち、一方でアジア人は従順でリーダーシップがないなどのステレオタイプを内面化していたため、自分の将来の展望をなかなか見いだせませんでした。ところが日本に帰国した途端、自分が人種的マジョリティ側であることで大きな解放感と生きやすさを味わいました。この経験から、マジョリティ側の集団に属することで自動的に得られる特権があるという問題意識が生まれ、今の仕事に就くきっかけにもなりました。
増本 私は13年前に脳出血で倒れ、高次脳機能障がいの状態になったのですが、そのリハビリのための施設で多くの障がい者と出会い、社会からのインクルージョンが不足していることを実感しました。一人ひとり症状も体調も異なるのに、健常者からは「障がい者」という一つの括りで捉えられている。実際、私も以前はそんな意識だったので大きなことは言えませんが、以来、障がい者のインクルージョンを進めるためには何が必要かと考えるようになりました。
山添 私は外資系企業3社での勤務経験を経て、ニューヨークの大学院を卒業してからMRIに入社しました。当時のMRIでは3回もの転職経験者は珍しく、そのバックグラウンドからか、意見を求められる機会に恵まれました。そのため、組織では多様性を活かして価値をつくっていくことが求められていると理解していました。この意識は、2018年にがんを患ったことで、さらに明確になりました。治療を続けて2021年に復職できたのですが、ワークライフバランスに柔軟に対応してくれた会社に感謝しています。自らの経験を発信していくことで、治療と仕事を両立できる環境づくりや、ライフステージごとに多様な課題をもつ社員も共に働くことができるダイバーシティ&インクルージョンの向上に貢献したいと考えています。

異なる発想を「面白がる」ことが重要

では、具体的にD&Iをどのように推進すればよいのか、良いインパクトを創出するためには何が必要なのか、ご経験を踏まえたD&I推進方法をお聞かせください。

坂東 女性や障がいのある方、年配の方々の意欲を削いでしまわないよう、経営者はもちろん、現場の管理職も「やればできるよ」と積極的に盛り立てていくことが必要です。しかし、現実にはD&I推進は手間のかかる「コスト」となり負担という意識が、とくに現場の管理職に根強くあるのではないでしょうか。そうした中でも、私が社会に出た頃は「女性ならではの意見」が求められましたが、昨今は「個人としての多様な意見」が求められ、それがイノベーションにつながっていると少し変化してきました。
出口 大学には、提示された課題に対して解決策をグループごとに提案する授業があります。その際、メンバーに多様性があるグループと、多様性のないグループで比較すると、前者の方が圧倒的に多角的な視点を盛り込んだ魅力的な提案をします。同一性が高い組織ほどグループ・シンクに陥りやすい。多様性を社会に広げていくには、組織のトップや管理職が自らの意識と行動を変えていく必要があります。例えば米国の白人が多いある大学では、マイノリティハイヤーという一本釣り的な採用権限を学長に与えたり、マイノリティの研究者が多く所属する学会誌で積極的に公募したりという手段をとっています。つまりD&I実現には、方針の宣言だけでなく、具体的かつ積極的な行動計画が必要なのです。

集団において、合意に至ろうとするプレッシャーから物事を多様な視点で批判的に評価する能力が欠落する傾向。集団ゆえに陥りやすい問題の一つ。

出口氏
増本 私は、障がい者の能力を本気で信じて活用してみようという会社は実際に成長できると思います。私が障がい者となって始めた求職活動では、相手の本音が障がい者の法定雇用率を満たすためであることが垣間見えてがっかりすることが多くありました。ようやく就業にあり付けた会社でも同じでしたが、「職にあり付けた!」という喜びで、いつも以上に働きました。自治体が相手の業務でしたが、営業成績を出し、業務を通じて医療・介護・障がい・就業といった分野の知識も増え、それが起業につながりました。

企業側が本気で多様性を高めていこうと考えると、雇用される当人も期待に応えるために努力する、そうした関係ができたということですね。

坂東 私が所属していた行政機関もそうです。女性が活躍する機会を与えてくださる方が不可欠です。私はそういう人のことを「スポンサー」と呼んでいます。よく女性にはメンターが必要と言いますが、むしろ必要なのは具体的なチャンスを与えてくれるスポンサーだと思っています。

コスト意識を捨てて、多様な発想が生み出す価値創造のプロセスを面白がる、管理職はメンターよりもスポンサーとなって応援する、ということですね。

多様な人材のパイプラインの形成を

現在、当社では「D&I行動指針」を策定中です。この案について助言を頂戴したいと思いますが、その前提として、まず事務局メンバーの山添さんから活動の概要を紹介いただけますか。

山添 当社では、2021年秋にD&I推進事務局を立ち上げて、議論や学習を進めてきました。その結果、外国人や女性比率など「D」は進んできた反面、「I」では「せっかく多様な人材がいるのに、十分インクルージョンできていない」という問題意識が明確になりました。仕事の効率性を重視するあまり「同じバックグラウンドを有している者同士で話を進める」「異なる意見を聞く耳はもっているが、連携するまでには達していない」という声が聞かれました。そこで、出口先生の講演による学習、アンコンシャス・バイアスについて職場ディスカッションを行うなど、「I」に関する意識醸成活動を強化しています。そうした活動を経て作成したのが「D&I行動指針」です。

D&I行動指針

多様多彩な人財が生き生きと働き、多様性を活かして相互に高め合い、様々な社会課題を解決する会社を目指す

  • 一人ひとりのおかれた環境、思いは違うことを受け入れる
  • 互いの違いを尊重し、助け合うことで生き生きと働ける組織を育む
  • 個性を掛け合わせる楽しさを見出し、新たな価値を創出する
山添研究員
坂東 「効率を重視するあまりインクルージョンが不十分」というのは、社員が新しいことをするには忙しすぎる状況を反映していると思います。しかし、実は視点の異なる他のスタッフを加えることでもっと効率的で創造的な業務になるかもしれません。ある種の勇気や割り切りが必要ですが、やってみる価値はあります。また、ダイバーシティ浸透のためには、初の女性取締役というようなスターを生み出すのではなく、上から下まで、常にどの職位にも次の候補者がいる組織にして、最終的には経営層の多様性につながる、いわばパイプラインが必要です。そのためには「無理しなくていい」「子どものためにも残業しなくていい」など、間違った優しさ——男女間の期待値の格差を取り除きながら、適度なストレッチ目標を当人と話し合いながらつくっていくとよいと思います。
出口 タイのマヒドン大学は、STEM分野での女性研究者がとても多いことで評判なのですが、視察した際に「どうすれば女性研究者が増えるのか」「どういう女性支援をしているのか」と聞いてもまったく響きませんでした。その理由は、そもそも小学校から大学院まで、科学や数学などの科目を男女が均等に学ぶ文化背景があるからなのです。また、この大学では、年功序列を排し、求められるパフォーマンスが契約書に明記され、高い透明性の下での人事評価がなされています。何をやりたいか、何が求められているか、どうクリアすれば次に行けるのかがお互いに明確であるということは、相互の信頼、組織への信頼につながると思います。

科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、数学(Mathematics)に重点を置いた教育。米国で提唱され、近年日本でも注目されつつある。

D&Iを実現していくためには、透明かつ実力主義という土壌をつくった上で、多様性のバランスを踏まえながら長期視点で人を育成していくことが重要ということですね。

増本 何をやりたいか、何が求められているかを明確にしながらフェアに評価するという点は、障がい者としてもぜひ実現して欲しいことです。「障がいの状況を詳しく聞いてはいけない」と考える人が多いのですが、そうではなく、この行動指針にあるように、「一人ひとりのおかれた環境、思いは違う」のだからこそ、「互いの違いを尊重し、助け合う」ことを実践して欲しいと思います。
増本氏

互いの違いを尊重し、助け合う企業風土をつくる

D&I推進に関する有益な助言をいただきましたが、改めてこのD&Iを組織文化として浸透させていくために必要なことをお聞かせいただけますか。経営層、管理職、一般社員など立場ごとにポイントがあるかと思います。

坂東 組織への浸透となると、先ほどのパイプラインの構築が基本となります。その上で、経営層は目標を明確にしてコミットすることが最優先。管理職には、多様性を面白がり、スポンサーになることに挑戦して欲しい。メンターは相手によって適不適がありますが、スポンサーにはなれます。また、そうしたチャレンジをした管理職に対し、きちんと評価していただきたい。若い方たちはスポンサーと一緒になって、上司や仲間の長所をよく見て、リスペクトする。「ありがとう」「よくやったね」と口にしながら「補い助け合うことでチームとして価値を創出する」ことを期待しています。
出口 ビジネスパーソンは弱さを見せてはいけないと思いがちですが、実は誰もが弱さを抱えています。仕事以外でも、重い病気、家族の介護、育児など個々の事情がある。こうしたものを抱えて生きづらさを感じている人が、それを認め、助けてと言えるようになると、サポートしてもらえ、受け止められたという実感を得ることができます。そうした安心感を得ながら自分らしく仕事をすることで心の健康も保てるようになります。心理的安全性が大きな組織ほどイノベーション創出力が高いと注目されており、まさにその点を重視すべきでしょう。また、D&Iを進めても、離職者が出るなど思うようにいかないこともあると思いますが、諦めずに、何が問題だったのかを検証するなどPDCAサイクルを回していって欲しいです。
増本 組織文化にするという点では、一部の部門だけでD&Iを推進していこうとしてもなかなか難しい。以前、D&Iの推進を一部の部門を起点に始めた企業がありましたが、結局、他部門とのコミュニケーションがとりづらいなどの問題から、途中で頓挫しました。やはり経営トップから一般社員まで、方針を決めて一斉に動かないと進みませんし、成果も出ないと思います。
山添 当社でも一部にはまだD&Iがもたらす価値に確信を持っていない方がいるのは事実です。その点で、先ほど話題になった「面白がる」「スポンサー」といった切り口でディスカッションを深めていかなければならないと思いました。また、ここ数年、多様なバックグラウンドをもつキャリア採用の方が増えていますが、そうした社員をしっかりと受け入れることは、ダイバーシティの効用に気づく重要な機会です。その点で、より積極的にキャリア人材とコミュニケーションをもつよう努力していく必要があると思います。
吉池人事部長

道先案内人であるシンクタンクこそD&Iが重要

最後になりますが、「MRIグループのD&I」に関して、一言ずつお願いします。

坂東 私はシンクタンクこそがダイバーシティが重要な業種だと思っています。多様な視点をもち、他の人たちが気づかないことに気づく。他の人たちが言えないことを表現する。それが、シンクタンクが社会から期待されている役割。ぜひ、いろいろな価値観をもつ人たちとお互いリスペクトしながら議論をし、時代の変化を的確に捉えていって欲しい。D&Iの推進は社会の道先案内人であるシンクタンクでこそ重要、そんなエールを贈りたいですね。
増本 私もそう思います。行政やNGO、経済界などがD&Iを提唱していますが、シンクタンクはその方向性や進め方を顧客に指南して社会実装していくという使命をもっています。……と言うと堅苦しくなりますが、行動指針を一つひとつ、楽しく、わかりやすく実践していって欲しいと思います。
出口 私は、業務の折々で、属性においてマジョリティである人たちは、自分に特権やバイアスがあるということに自覚的になり、変わるべきは自分であると考えられるようになることが大事だと思います。その自覚をもつことで、いろいろな気づきがあると思います。ただし、あまり重く考えすぎず「あ、今の私はバイアスがかかっているな」くらいの余裕をもって意見の違いを客観的に捉えられたら、より良い着地点が見いだせると思います。
山添 私はがん患者として治療を受けている期間に、チームビルディングのあり方について今まで培った考え方を見直す機会に恵まれました。育児や介護など時間の制約がある方や障がいのある方には、それまでとは異なる視点で物事を見る機会ができたとポジティブに捉えていただき、お互いの違いを尊重し、助け合うことでチームとして新たな価値を創出することを一緒になって目指していきたいと思います。

皆さんいろいろな視点でお話しいただき、ありがとうございました。今後のD&I推進活動に大いに参考にさせていただきます。

PROFILEプロフィール

インタビューイー

  • 坂東 眞理子
    坂東 眞理子
    学校法人昭和女子大学 理事長・総長(当社社外取締役)
    埼玉県副知事、在豪州ブリスベン総領事(女性初の総領事)、内閣府男女共同参画局長などを歴任。
    ベストセラー『女性の品格』、近著『女性の覚悟』など著書多数。
  • 出口 真紀子氏
    出口 真紀子
    上智大学 外国語学部 英語学科 教授
    文化心理学、差別の心理学、立場の心理学などを担当。
    『真のダイバーシティをめざして—特権に無自覚なマジョリティのための社会的公正教育』(ダイアン・J・グッドマン著)を監訳。
  • 増本 裕司氏
    増本 裕司
    株式会社アクティベートラボ 代表取締役
    身体障害者・介助者/介護者・医療従事者向けポータルサービスの開発・運営、障害者向けライフサポートサービス、障害者雇用支援サービスなどを手掛ける。
    当社「INCF ビジネス・アクセラレーション・プログラム2019」にて最優秀賞受賞。
  • 海外事業本部 アジア事業グループ
    民間企業に対するサステナビリティ経営コンサルティングや海外展開支援などの業務を担当。D&I推進事務局メンバー。
    自身の闘病経験をつづった『経営コンサルタントでワーキングマザーの私がガンにかかったら』を出版。

インタビューアー

  • 吉池 由美子
    吉池 由美子
    人事部長
    ヘルスケア・ウェルネス本部長、広報部長、シンクタンク部門統括室長を経て、2022年10月より人事部長就任。

所属・役職は当時のものです

Our Efforts

「ダイバーシティ&インクルージョン」のコンセプト

女性のさらなる活躍推進、障がい者雇用支援、外国人・キャリア採用の拡大といった多様性確保にとどまらず、社員一人ひとりがD&I行動指針に沿って実践を図りながら、D&Iの推進に係る施策を進めます。

MRIの取り組み

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