元総合格闘家 大山峻護氏 セカンドキャリアインタビュー(3)

引退アスリートのキャリア成功の鍵

2020.6.9

アスリートにある「勘違い力」がプラスかマイナスかで未来が変わる

大山 他の人と違って、私は街中のビルを見ると全てがお客様に見えるのです。「可能性」に思えてしまうのですね。これだけ『ファイトネス』をやってくれる可能性がある会社が入っているのかと。そういう風に思えるのは、アスリートをやってきたからです。どんな対戦相手であっても、勝てる可能性を常に考えて試合に挑んできたからだと思うのです。良い意味での妄想力というか、「勘違い力」です。格闘家なんか「勘違い力」しかないですから。格闘技は勘違い王決定戦じゃないですかね(笑)

—— 確かに、これから挑む試合に向けて弱気なアスリートはいませんし、例えすごい相手であっても根拠のない自信を作り出してでも立ち向かいます。一般の人ですと、成功体験や自信がないと自己肯定感を強く作り出すことは難しいところですが、アスリートの強みはその「勘違い力」かもしれませんね。

大山 アスリートから「勘違い力」をなくしてしまったら、何も本当に残らなくなってしまうかもしれません。逆に、弱みは、自分がしてきたことが社会で活かせないのではないかというマイナス方向の思い込み。これも勘違いの一つじゃないですか。そういう風に思っているアスリートはものすごく多いですね。活動の場所が変わる、これまでと違うことをするということで、アスリートの自分は何もできない人になるという「ネガティブ勘違い力」も発揮してしまうところが弱みにもなりますね。

—— まさに真逆に振れてしまっていますね。「勘違い力」の使い方の意識づけは大事ですか。

大山 勘違いが可能性として繋がるのだという、客観的なアドバイスをしてくれる人や、後押ししてくれる人は必要かもしれません。多くの元アスリートには、そういう人が周りにいません。自分は幸いにして大山会で出会ったさまざまな専門分野の仲間たちがいたことが、可能性の「勘違い力」発揮に導いてくれたと思います。

—— 良い「勘違い力」をフィールドが変わっても可能性として導いてくれる人の存在は大事ですね。

大山 アスリートも、デビュー戦があり、4回戦、5回戦と勝ち上がっていくので、立場的には、一歩一歩積み上げていく一般の社会人と同じなのです。アスリートの強みにも弱みにもどっちにも行けてしまう「勘違い力」を良い「勘違い力」にしていけるかが、重要ですね。

—— 最後に、現役選手に先輩としてセカンドキャリアのアドバイスをお願いします。

大山 「人間として良い人と付き合ってください」です。現役選手には魅力があるので、現役中はいろいろな人が近寄って来ます。その中でも、人間として良い人と付き合う選択をしてもらいたいですね。

—— 人間として良い人とは、選手を「商品」としてではなく、「人」として見てくれる人のことですね。大山さんの現役時代の記事を拝見したときに、網膜剥離で長期離脱をしている間に、今までちやほやしてくれていた人たちが他人のようになったとありました。そういう人たちは引退試合には一人も来なかったと。一方で、大山会など現役から引退した後も損得なく集まる仲間もいらっしゃいます。傷つけるのも人間なら、助けてくれるのも人間ということを実体験してきたから言える深く重いアドバイスですね。

大山 僕は『ファイトネス』を営業していた時に、一流企業の社長と会食をしたことがあります。社長が私に「友達が欲しいんだよな」とボソッとおっしゃったのです。社長の周囲にたくさん人が近寄ってくるのですが、囲んでいる人たちの多くは、ただ仕事がしたい、ビジネスを教えてもらいたいという人たちなのです。社長の何気ない言葉を聞いたときに、その言葉が刺さって、「僕は間違っていた」とものすごく反省しました。その社長と僕との関わり方にも、申し訳なかったという気持ちになったのです。自分自身が現役の時に嫌だったことを、いま自分もやっていると痛烈に感じたのです。その日から、誰に対しても「人と人」として関わることを大事にすることを徹底するようにしました。
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写真:大山氏提供
大山峻護(おおやま・しゅんご)プロフィール

1974年4月11日生。栃木県那須郡出身。本名は大山利幸。5歳から柔道を始め、中学2年で講道学舎に入った。国際武道大学卒業後、柔道選手として京葉ガスに所属。1998年第28回全日本実業柔道個人選手権大会・男子81kg級優勝。実業団柔道選手とは別に個人としても積極的に動き、サンボを修得。2000年第7回全日本アマチュア修斗選手権大会に出場してライトヘビー級で優勝。26歳の時、2001年2月アメリカの総合格闘技大会「King of the Cage」でプロデビュー。同年5月PRIDE初参戦(PRIDE.14 ヴァンダレイ・シウバと対戦)。以降、両目を網膜剥離になったが乗り越え、PRIDEやK-1・HERO'Sのリングで、グレイシー一族やピーターアーツに勝利。2007年美輪明宏演出の舞台『双頭の鷲』で俳優デビューをし、観劇に訪れた元アイドル・歌手の河田純子と出会い、のちに結婚。2010年Martial Combatライトヘビー級王座決定戦で勝利し王座獲得。2011年ROAD FCの初代ミドル級王座獲得。2014年12月6日パンクラスにて引退試合(対戦相手は桜木裕司)。33試合14勝19敗。座右の銘は、"ALL INTO POWER"(「すべてを力に」)。2015年エーワールド株式会社代表。格闘技とフィットネスを組み合わせたプログラム「ファイトネス」を展開。2020年 アスリートと障がいを持つ子どもたちを繋げる場を提供する一般社団法人You-Do協会を設立し代表理事に就任。
【ファイトネス公式HP】http://shungooyama.spo-sta.com/
【一般社団法人You-Do】http://you-do.spo-sta.com/
取材・文 : 小村大樹(おむら・だいじゅ)
草創期のメンタルトレーナーを経て、総合学園ヒューマンアカデミー、一般社団法人日本トップリーグ連携機構などに従事。
現在は、NPO法人スポーツ業界おしごとラボ理事長・小村スポーツ職業紹介所所長。
株式会社三菱総合研究所 アスリートキャリア支援事業プロジェクトに協力。

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