元プロ野球選手 鎌田祐哉氏 セカンドキャリアインタビュー(2)

引退アスリートのキャリア成功の鍵

2020.7.13

「これがご縁だ」と感じ未知の世界に飛び込む

—— 34歳で選手を引退されました。現在、城北不動産の主任としてセカンドキャリアを歩まれていますが、入社されるまでの経緯を教えてください。

鎌田 2012年11月に台湾のプロ野球球団から戦力外通告を受けた後、気持ちを切り替え、野球とは一線を画し、普通の就職活動をしました。まず、大学時代の先輩をはじめ、いろいろな人の話を聞くように努めました。けれども、すぐに就職が決まるほど甘くはなかったですね。

—— 甘くはない、厳しいと感じたところは、どこでしたか。

鎌田 多くの人から「スポーツ選手は気持ちが強いし根性があるから大丈夫」と言われていました。けれども、それだけでは就職につながらないわけです。大手企業の担当者からは「私はあなたを高く評価しますが、鎌田さんより年下の部下が一緒に働くのを嫌がるのだよ」という話も聞きました。34歳の新人は「面倒な人」、歓迎されない身分であると痛感しました。

—— 就職活動は、知人からの紹介で行っていたのですか。

鎌田 いえ、まずハローワークの相談コーナーに通いました。相談員の方は親身になってアドバイスしてくださって、とても感謝しております。相談員から「鎌田さんの場合、特殊な経歴なのでハローワークで仕事を見つけるのはなかなか難しいですよ。どなたかの紹介を受けてみてはどうでしょうか」と言われたこともあります。

—— 社会人になるにあたり、ビジネススキルなどはどうでしたか。

鎌田 選手時代に自身のブログで情報発信はしていましたが、パソコンをしっかり学んだことがありませんでした。近所のパソコン教室を見つけて、ワードやエクセルを初めて本格的に学びました。また、台湾に1年間滞在して、中国語を少し身に付けていたので、本格的に中国語教室にも通おうかと思いましたが、妻からハードルが高すぎると却下されました(笑)。

—— 向上心が高いですね。現在勤務している城北不動産には、どのようなご縁で入社に至ったのでしょうか。

鎌田 知人に紹介され、食事をすることになったのが、現在所属する会社の専務でした。ちょうど社員を増やし規模を大きくするタイミングで、元アスリート社員を初めて採用してみようという思いもあったようです。
「君は真面目そうだし、ウチで頑張ってみないか?」とお話をいただきました。不動産業は未知の世界でしたが、ハローワークの相談員のアドバイスで「ご縁とタイミングは大事」という言葉が脳裏によみがえり、「これがご縁だ」と感じ、お世話になることを決意しました。

—— 2013年4月に34歳にして全くの未知の仕事「不動産業務」に携わります。入社後に受けたトレーニングメニューや最初の仕事内容を教えてください。

鎌田 研修については、ありがたいことに会社の費用負担で、基本的な「マナーセミナー」や「ビジネスセミナー」に行かせていただきました。今でも「リーダーシップ研修」などに行かせてもらっています。仕事内容は住宅販売なのですが、最初は営業エリアの交通網や駅名、道などを覚えるのに苦労しました。選手時代は基本的に車移動でしたので、駅名や路線を必死に覚えました。お客さまを案内する際に地図を片手に右往左往しては営業マンとして信用を得ないと思いましたので、地図を頭にたたき込むことから始めました。

—— 未知の業界に驚くことが多かったと思いますが、最初は上司や社風をどのように感じましたか。

鎌田 入社当時の上司は1歳年上で営業スキルが高く、野球好きな方でしたので、共通の話題が多く親しみやすかったです。また社風は「みんなが仲間」という感じでした。野球界では先輩後輩といった縦の関係が厳しく、関係性が決まる上で年齢がひとつのキーでしたが、一般社会では入社年次や業務経歴がキーになるところがあると思います。
そんな中でも、年下の上司が新人の私に敬語で話しかけてくれるなどリスペクトをもって関わってくれたり、また別の年下の上司も呼び捨てでなく、「鎌ちゃん」と気をつかって声をかけてくれました。コピーの取り方、電話の応対、マナーなど慣れない環境で、自分を仲間のひとりとして、周囲の人たちが業務に向かいやすい雰囲気づくりをしてくれたことは、とてもありがたかったです。

—— 社風や仲間に恵まれましたが、未知の業務です。つらかったこともあったと思います。

鎌田 1年目は大変でした。業務や地図を覚えることもですが、やはり販売成績の結果が出ずに落ち込みました。ノルマはありませんでしたが、貢献できていないことがつらかったです。体重が10キロほど減り、驚きました。

—— そんなとき、上司からのアドバイスで印象に残る言葉はありましたか。

鎌田 あるとき上司から「プライドを捨てなさい」と言われました。実は自分の中では既に捨てたつもりだったのですが、周囲からは捨てているように見えていなかったようです。多くの野球選手がもっている「気持ちの強さ」が「プライドの高さ」ととらえられ、お客さまが遠ざかっていた、ということに、上司の言葉で気付きました。大事なのは、「自己犠牲の精神」だと思うのです。自分の欲とか思いよりも、まずは相手のことを考える。そうすることで、信頼されるようになる。そのとき、お客さまの気持ちに寄り添って接客をしようと痛烈に感じました。
選手時代、教え上手だったコーチのことを思い出しました。あのときは技術習得として学んでいましたが、今はそのコーチの「人の心のつかみ方」を思い出して応用しています。
写真:山本浩氏撮影
写真:山本浩氏撮影(左:現在勤務する城北不動産株式会社氷川台支店)
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