元プロ野球選手 鎌田祐哉氏 セカンドキャリアインタビュー(3)

引退アスリートのキャリア成功の鍵

2020.7.13

ストレス耐性は元アスリートの強み

—— ここからは現在の鎌田さんの様子を教えてください。

鎌田 仕事は入社以来、不動産物件の営業です。お客さまが住む家の購入をお手伝いしております。成績も挙げたことから入社5年目から主任を託されており、組織の中心的存在になったと自覚しております。ちょうど年齢的に社内で真ん中の位置になってきました。上司から指摘がある前に、後輩をフォローできるようになりました。

—— 未知であった不動産業に飛び込んでから時間もたちました。現状には満足されていますか。

鎌田 満足はしていません。勝負の世界にいたためか、常に向上したいという気持ちがあります。さらに正直に言うと、気持ちのどこかに幼い頃から続けてきた「野球・スポーツ」に携わりたいという目標はあります。ただ将来、「野球・スポーツ」に携わるとしても、今の仕事で実績を出して、もっと学ぶことが重要と認識しています。

—— 現状に満足せず将来の目標もおもちなんですね。セカンドキャリアでうまくいかずに悩まれる元アスリートが多い中、鎌田さんは一貫して、不動産業の仕事を継続されています。セカンドキャリアでの成功要因は何だと思いますか。

鎌田 精神的に強く、怒られても切り替えがうまいところだと思います。時に上司から厳しく叱責されることもあり、今でも心が折れそうなときもありますが、そういうときは自分がプロ野球選手として活躍した試合の映像を見て自信を取り戻しています。プロ野球選手って意外と打たれ強いのだなって、野球を辞めてから気付きました(笑)。

—— 野球選手時代も苦しい時期を乗り越える経験をされました。切り替える力は選手時代から活きているのかもしれませんね。

鎌田 失敗の原因は自分の知識や経験の不足によるものという前提で切り替えます。12年もプロ野球という、ある意味で閉鎖された世界にいたので、一般社会の常識や基本的なスキルが不足していることを自覚しています。知識を補うには勉強するしかないという姿勢です。入社当初はコピー機が苦手で、紙のサイズも分からなければ、拡大とか縮小とか、トナーの入れ替えとかもできず、恥ずかしい気持ちで後輩に教えてもらうという繰り返しでした。無知や小さい失敗をしないように意識する。野球をやっていたときも細かいところを徹底する習慣がありました。今は、お客さまにメールするときは何回も読み返し、同僚に添削をお願いし、FAXするときも送信ボタンを押す前に番号を何回も確認します。小さいところも妥協しない姿勢は選手時代からかもしれません。ですから、大きな失敗はしないタイプでもあります(笑)。

—— 野球で体得した姿勢や習慣が今でも活きているのですね。ほかに今も活きているエピソードはありますか。

鎌田 野球も営業も成績が伸びない、数字が出ないときもあるという点は同じです。そうしたときはどうしようもないので、やるべきことをやり、コツコツと努力を続けて、結果が出るのを待つしかない。努力を継続することが大切だと思います。
また、台湾での経験も大きかったです。台湾人は、失敗をいつまでも引きずらないのです。上手に切り替えます。アメリカ人もそうかもしれません。一方、日本人は引きずる傾向がありますね。例えば、先発でノックアウトされたら「次の登板まで反省しとけ」と言われることも多いです。これでは、切り替えられませんね。自分にとって、台湾プロ野球の1年間は、異文化や多様性を学ぶ良い機会でした。

—— 台湾の1年は貴重な時間でしたね。努力はコツコツと継続し、気持ちは常にリフレッシュするという考えが体得できた機会になったと。鎌田さんが今後の人生で成し遂げたいビジョンは何でしょうか。

鎌田 家族に誇れる自分でありたいです。子どもから見て、「この親の子で良かった」と言われるような親になりたいです。子どもは、父親がプロ野球選手だったことを知りません。最近、「お父さん、野球選手だったの?」と聞いてくることがありますけど、その姿を今見せることができません。なので、今あるべき姿で家族に誇れる自分でありたいと思います。もちろん、いつかは「野球やスポーツに関する仕事」をして、家族に誇れる自分でいたいです。

—— すてきな在り方ですね。最も誇れるポイント、例えばアスリート出身のビジネスパーソンとして自覚している強みは何だと思いますか。

鎌田 強みは2つあります。1つはストレス耐性です。もう1つは、人の懐に入るコミュニケーション能力の高さです。

—— 鎌田さんにとって、ターニングポイントはどこだったと思いますか。

鎌田 ターニングポイントはいくつかあります。1つは台湾の球団に移籍したことです。これは自分の人生の中ですごく大きかったです。文化や価値観の違い、野球でも身体能力の違いがありましたし、もちろん言葉の違いなど、とにかく多様性を受け入れる必要があることを学びました。台湾ではオールスター戦に選ばれるほど活躍したのに、戦力外通告を受けたなど、悔しいこともありました。しかし、貴重な体験ができたと理解して受け入れています。将来、野球・スポーツに関する仕事に従事する機会があったときには、この台湾での経験値を活かすことができると考えています。
また、つらいことを経験したその時々が、すべてターニングポイントだったと思います。順調に進んでいるときは学びが少なく、つらいときにこそいろいろ考えて学べます。このプロセスが大切な時間なのかなと感じます。今の会社でも、最初に契約が取れなくて10キロ痩せたときに、いろいろ考えました。ここでやること、やらなくてはいけないこと、でも異なるやり方もある。結果を出すためにいろいろな道を探るわけです。そうしたことが広い視野をもつことにつながり、考えが深まることにもつながりました。

—— 最後に現役アスリートへセカンドキャリアのアドバイスをお願いいたします。

鎌田 現役時点は競技に専念してほしいと思います。多くの選手のみなさんは、スポーツの世界を極めようとしているので、スポーツ以外の知識がないのはその時点ではしようがないと思います。むしろスポーツに専念しているからこそ、ほかの知識はなくてもいいと思います。スポーツで鍛えた目標突破力やストレス耐性はあるのだから、大丈夫です。
けれども、競技を引退したら、そのときの自分を受け入れて、「元○○の選手」という妙なプライドは捨てて、未知の世界に飛び込んでゆく勇気、人から教わろうとする謙虚な気持ちが大切になってきます。今の競技に専念してほしいとは言いましたが、選手時代から謙虚な気持ちと「考え方」は身に付けましょう。そして、「何とかしなきゃ」と焦って自分を追い込むのではなく、「何とかなる」と思って前向きにやることです。そうすると、本当に何とかなるのですよ。まずは、目の前のことに一所懸命取り組むことです。そうすると、それを見ている誰かが、必ず手を差し伸べてくれます。自分も未知な職種に飛び込みましたが、自分としては良い選択をしたと思います。
写真:山本浩氏撮影
写真:山本浩氏撮影
鎌田祐哉(かまだ・ゆうや)プロフィール

1978年11月30日生。秋田県秋田市出身。小中学生では学校の軟式野球チームに所属。秋田経済法科大学附属高校3年の夏、背番号10の2番手投手として県予選2試合に登板し、チームの甲子園大会出場に貢献。甲子園では初戦敗退し登板機会はなし。1997年 早稲田大学社会科学部入学。1年生から登板機会は得るが、2年生までの2年間で通算1勝11敗。3年生から開花し、春季リーグで先発投手として優勝に貢献し東京六大学野球ベストナインに選ばれる。6月大学選手権で準優勝に貢献し、7月日米大学野球代表選手に選出。2000年シドニー五輪出場をめざす予選(アジア大会)での日本代表候補メンバーになるが辞退。大学時代の通算成績は13勝17敗(3年生からの2年間では12勝6敗)。2000年秋ドラフト会議で東京ヤクルトスワローズを逆指名し、2位指名を受け入団。2001年4月巨人戦で初登板。9月中日戦で初先発初勝利。2003年シーズンは2完封を含む6勝を挙げ先発ローテーションに入る。2010年6月に交換トレードで東北楽天イーグルスに移籍。2011年シーズン終了後に戦力外通告。NPB実働11年間、通算成績は125登板40先発14勝17敗5ホールド。2012年シーズンは台湾プロ野球(CPBL)の統一セブンイレブン・ライオンズに所属。16勝7敗でオールスター戦出場、最多勝利投手に輝く。シーズン終了後に戦力外通告を受け引退発表。2013年4月より城北不動産株式会社へ入社し、現在に至る。

鎌田祐哉オフィシャルブログ
鎌田祐哉オフィシャルブログ「SMILE ~keep concentration~」
取材・文 : 山本浩 / 編 : 小村大樹
山本浩(やまもと・ひろし)
早稲田大学在学時に東京六大学野球連盟理事を歴任。卒業後は同大学本部、人間科学・スポーツ科学両学術院、競技スポーツセンター等に奉職。指導者・学生からの各種相談に対応。
在職中にアメリカ18大学寄付募集組織等を調査後、スポーツ振興協議会総長指名委員、アイク生原&ピーター・オマリー記念スポーツマネジメント講座、WAP早稲田アスリートプログラム立ち上げなどに従事。社会活動として早稲田大学野球部将来計画委員等を歴任。
現在、株式会社三菱総合研究所 アスリートキャリア支援事業プロジェクトに協力。

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