SFは空想でもあり、実践でもある

「SF思考学」特別座談会 第1回
 
三菱総合研究所は50周年記念研究の一環として、筑波大学と共同し、SFを活用して未来をつくる「SF思考学」に取り組んでいる。具体的には、SFの持つ、人の想像力を広げる力、登場人物を主体にして未来の社会を描く力、エンターテインメントとして人を楽しませる力を利用して、産業を創出する時にどのような要因が活用可能か、複数の視点から分析し、実証を進めている。
これまでの研究成果と今後の展望について、筑波大学システム情報系の大澤博隆助教、宮本道人研究員と、当社未来構想センターのセンター長である関根秀真、シニアプロデューサーの藤本敦也が特別座談会を行った。その模様を4回連載でお届けする(以下、敬称略)。

SFをめぐる共鳴がイノベーションに

藤本 SF思考学では皆で作ったSFを実際に社会実装して産業をつくるまでが大事だと考えております。SFに着目した理由を説明するため、大澤先生と宮本先生から、SFが社会やビジネスに影響をどう与えてきたか、簡単にご議論いただければと思います。

大澤 一般的にSFは科学技術をベースにしたフィクションで、各時代の科学や技術の発展に応じて描かれてきた面があります。一方で、SFの影響を受けて研究や技術開発の道に入ったエンジニアやサイエンティストも多い。特に、コンピューターサイエンスやロボティクスなどの分野では、研究者と作家、あるいは開発者と作家の交流が非常に盛んです。

イノベーションの発端にSFがあった前例はいくつかあります。例えばデザイン分野では、問題点を解決するのではなく、問題点を発見し思考するためのデザイン手法として「スペキュラティブデザイン」という手法が提案されています。そのルーツの一つに、米国のSF作家ブルース・スターリングによって提案された「デザインフィクション」があります。
大企業などが製品を作って消費者に提供する形に代えて、消費者側がより使いやすい何かを自身でデザインしていくメーカームーブメントという概念も、ルーツをたどるとSFがあります。メーカームーブメントは米技術誌「Wired」の元編集長クリス・アンダーソンが「MAKERS」という著作を書いたことで一躍普及しました。アンダーソンは同著の冒頭で、カナダ人SF作家コリイ・ドクトロウの著作「Makers」への謝辞を寄せています。この小説は、まさに同じ発想で描かれた作品になります。

昨今注目されている人工知能(AI)分野では、技術的特異点(シンギュラリティ)がSFと密接な関係を持つ概念です。AIが発展して賢くなり、技術やサイエンスの担い手が人間からAIになると、技術の発展に不連続で予測不可能段階が出るという考え方で、未来学者レイ・カーツワイルが唱えて一躍有名になりました。しかしこれは彼が単独で考えたわけではなく、実はヴァーナー・ヴィンジというSF作家と共同で作った概念です。ヴィンジの技術的特異点の概念はカーツワイルの未来予測とは微妙に異なりつつも、お互いに影響を与えています。SFが、単に科学技術を振興し、研究者を導いてきた、というだけでなく、もっと深いレベルでイノベーションに影響している点については、注意を払うべきところだと思います。

宮本 最近はSFをビジネスや研究に活用しようという流れが強まっています。欧米では、英「Nature」誌にSF短編が載っていたり、米マイクロソフトがSF作家と一緒に本を出すプロジェクトをやっていたりとか。また、中国の勢いを知るにはこの一冊、みたいな感じで日本のビジネスマンの間でも少し話題になった『三体』シリーズの劉慈欣(りゅう・じきん)も、中国で企業や政府機関にアドバイスをしていると聞きました。学術や政治からもSFは注目されているわけです。

SFの社会影響史

西暦 SF作品
1865年 ジュール・ヴェルヌ『地球から月へ』刊行。1870年の『月世界へ行く』とあわせて『月世界旅行』として知られ、後にさまざまなロケット工学者に影響。
1920年 カレル・チャペック、戯曲『R.U.R.』発表。ロボットという言葉を生み出す。
1942年 アイザック・アシモフ「堂々めぐり」発表。ロボット工学三原則を小説内で提示。1950年の短編集『われはロボット』に収められ、後にさまざまなロボット工学者に影響。
1968年 日本未来学会が創設される。
1970年 大阪万博開催。SF作家がさまざまな形で協力。
1993年 ヴァーナー・ヴィンジ、NASAの会議にてシンギュラリティの概念を提唱。
1999年 英「Nature」誌、SF短編の掲載を開始。
2005年 ブルース・スターリング『Shaping Things』刊行。デザイン・フィクションの概念を提唱。
2008年 劉慈欣『三体』第一作刊行。2015年にヒューゴー賞を受賞し、ザッカーバーグやオバマなどに影響。中国のSF政策にも大きな影響を与える。
2009年 コリイ・ドクトロウ『Makers』刊行。後にメイカームーブメントに影響。
2011年 ブライアン・デイビッド・ジョンソン『インテルの製品開発を支えるSFプロトタイピング』刊行。
2012年 アリ・ポッパー、SFプロトタイピングを用いたコンサルティング企業SciFuturesを立ち上げる。
2012年 人工知能学会学会誌、SFショートショートの掲載を開始。2017年に『人工知能の見る夢は』にまとめられて刊行。
2012年 アリゾナ州立大学にて「サイエンス・イマジネーション・センター(CSI)」が立ち上げられる。
2013年 アンソニー・ダン、フィオーナ・レイビー『スペキュラティヴ・デザイン 問題解決から、問題提起へ。—— 未来を思索するためにデザインができること』刊行。
2015年 Microsoft ResearchがSF作家を招聘。自社の研究にインスパイアされた創作を収めた短編集『Future Visions: Original Science Fiction Inspired by Microsoft』を公開。
2016年 米・海兵隊戦闘研究所がSFワークショップを開催。海兵隊、海軍の18名がSF作家の指導のもと短編を創作し、3作が『Science Fiction Futures: Marine Corps Security Environment Forecast 2030-2045』として公開。
2017年 SF作家、フューチャリスト、研究者などが集まって未来を考察する国際会議PRIMERが初めて開催される。

注:表中の刊行年はすべて原著のもの。邦題があるものは邦題を採用した。
出所:宮本道人作成

1970年時点の未来予測

関根 現代社会は複雑・不確実性が増しており、先を見通すことが困難になってきています。特に、新型コロナウイルス感染症の影響で一人ひとりの生活、社会全体においても急激な変化が起き始めています。50周年記念研究は未来予測研究ではなく未来創造研究であり、目指す未来社会像とその実現に向けた実現方策の研究を行っています。本研究は50年先という現代から遠い未来を考えなければなりませんが、未来を現在からの延長線で捉えがちです。非連続の未来を描くには、新しいアプローチが必要と考えているところです。

当社は三菱グループ100周年事業として設立されましたが、創業年である1970年に開かれた大阪万博において三菱未来館では、当時から50年後、つまり今年の社会や生活を「50年後のあなた」として予測しています

今見ても、斬新かつ共感できるものが多く含まれていますが、一方で「こんなことないよね」というものも含まれています。しかし、重要なのは、50年前にSF作家、クリエイター、研究者・技術者が一緒になって、真剣に未来を議論し豊かな創造力で描いていたところです。こういった仕組みをもう一度考えてみることも重要かなと思っています。

大澤 大阪万博は良い例で、個別のパビリオンに参加された多数のSF作家に加え、万博全体のアドバイザー・コンサルに近い立場でも小松左京さんがビジョンの成立に関わられています。SFをベースに未来を論じる一つのメリットは、新しいアイデアを出しやすい点ですが、もう一つ重要なメリットとして、SFが人々の夢として新しい社会像を描くため、異分野の人々が共通の夢に向かって進みやすい点も見逃せないでしょう。新たなテクノロジーをどうやって人に見せ、新しい社会像にどう結びつけていくかという時に、専門家としてのSF作家・クリエイターが役に立ったケースですね。2025年に予定されている大阪・関西万博でも、SF作家の瀬名秀明さんが関わられ、時折厳しくも、的確な指摘を行われています。

特に今の世界は、いろいろな研究・技術がたこつぼ化し、自身の研究と異なる他の分野を俯瞰(ふかん)し、全体的なビジョンを描くのが難しい状況です。その複数の分野をつなげる役割として、フィクションが期待されているところはあります。
例えば政府のムーンショット計画ビジョナリー会議の構成員である北野宏明さんは、宇宙開発の際にガンダムの例を挙げられており、複数の分野をつなげる共通の物語を作ることが、とても大事だと主張しています。同会議の構成員にはSF作家の藤井太洋さんも入られており、詳細から未来を想像する重要性を指摘されています。こうしたところでSFが活用されているのは、人々をつないで夢を創る役割が期待されているためと思っております。

SF思考学に必要な「リアリティー」

藤本 関根が話したように中長期的な、ちょっと飛んだ未来は現在、必要性は高まっているものの、依然として描きづらいです。企業でも国でも、変革やイノベーションは不可欠だとの声が新型コロナの流行前からも出続けてきました。しかし、10~20年の中長期のテーマだと、ステークホルダー全員が共通イメージを作るのは意外と難しい。SF思考を用いて作った挑戦的な未来社会に加え、実現に向け具体的にどういった開発や制度が必要かというリアリティーがなければ、ステークホルダーは動きません。社会ビジョンとリアリティーを併せ持つことがポイントです。私はSF思考学に至る各手法を、大まかではありますが以下のように整理・分類しています(図)。

昔からよくなされていたのは左下のマクロトレンド分析。しかし、「何が正しいのか」との議論になりがちで、外れることが多かった。その反省もあって、人間のニーズを見てきちんとやっていこうという、右下のデザインシンキングの手法が出てきました。もう一つ、左上に、社会起点に基づくシナリオプランニングがありますが、人の生活感などに関するリアリティーを欠くという問題点があります。
そして右上のSF思考学では不確実な可能性を重視するけれど人間中心のやり方で見ていきます。人の意見をきちんと見定めて、未来感とリアリティーを併装できる点がすごく大きいと考えています。

そして、企業の新規事業部門の役割も変わってきているようです。従来、既存事業部門は既存事業を手掛け、新規事業部門は未来を見る立て付けでしたが、新型コロナを機に、既存事業部門ですら未来について考えなくてはならなくなっているようです。
そうなると、新規事業部門がとるべき道は、①今まで自分たちがやってきたノウハウを既存事業部門に渡していく、②既存事業部門が見ないさらに先の未来を見る、の二つです。こうした話題が現在、オープンイノベーション界隈では結構盛り上がっており、より一層SF思考学みたいなものが求められると思います。

図 SF思考学に至る手法

出所:三菱総合研究所

大澤 SFにはすごく新しいアイデアを提供して人を動かしたりつなげたりする面がある一方、現代を生きる人々のエンターテインメントであるという側面もあります。ゆえに、その時代のステレオタイプを引きずってしまう側面もあります。イノベーションのためのSFを使う際には、SFのもたらす役割を切り分けて見ていく必要があります。その分析が多分、われわれがこれからチャレンジすることであり、今一番求められていると考えています。

宮本 SFを書くことを通じて未来を予想し、製品開発などの参考にする技法の「SFプロトタイピング」が企業から着目されるようになっています。ただ、実践されているプロジェクトの中には、はやりの研究者やSF作家、ビジネスマンを集めて、取りあえず会話してもらえば何か新しいものが生まれると考えているという、雑な考え以上のものがない場合もあるようです。
こういうやり方では「もったいない」と個人的には思っていて、きちんと方法論を深めて検証していくことができないか考えていた時に三菱総研さんからお話をいただいて、こちらとしてもぜひ共同研究をさせていただきたいなと思いました。関連する先行研究について知るため、SFと未来社会構想を組み合わせた研究を推進している米アリゾナ州立大学に、一緒にリサーチにも行きました。

大澤 私自身も人工知能学会の編集委員として、表紙を漫画家の方に頼んだり、学会誌にSFのショートショートを依頼したりと、学術とフィクションの現場をつなげる仕事に関わってきました。そうした体験から感じるのは、むしろ研究者側にステレオタイプがあり、優れたSF作家の関与をうまく生かせない場合もあることです。お互い優れた面を持っている人たちがいるとして、単に人を集めるだけではうまくいきません。どうやったら優れた才能を持っている人たちのミスマッチを避け、うまくイノベーションにつなげられるか、というところに、新たな可能性があると思います。

「各論反対」を避けるには

関根 SFを使うメリットは、人に寄せることができる点だと考えています。未来に対してのイメージは「総論賛成、各論反対」になりやすい。「こんな感じだよね」という、フワッとした段階であれば誰も反対することはないけれど、ヒト目線になった瞬間に「それってないでしょう」「これは正しいのだろうか」となってしまうからです。
実際にSFが社会なり生活に入り込んだときの状況をきちんと理解し、どんな問題が起きるかを、科学者やSF作家、ビジネスマンがクロスチェックするような考え方をしていくと、良い循環になってくるのではと考えています。そこも思考学の一つかもしれません。

藤本 宮本さんがおっしゃったように、いろいろな人がただ話せば何かなるみたいな、フワッとしたところからやってみるのはいいと思いますが、それで終わってしまうと、すごくもったいない。そして、「総論賛成 各論反対」のさらに先を行く手法を掘り返してしていくのがSF思考学なのかな、と考えています。われわれ4人がそうした確信を得たのは、2020年1月に一緒に行ったアリゾナの経験があるようですね。
(第2回「アリゾナ視察記」に続く)

プロフィール

大澤博隆氏

大澤博隆(おおさわ・ひろたか)

1982年、神奈川県生まれ。2009年、慶應義塾大学大学院理工学研究科開放環境科学専攻博士課程修了。2013年より現在まで、筑波大学システム情報系助教。ヒューマンエージェントインタラクション、人工知能の研究に幅広く従事。2018年よりJST RISTEX HITEプログラム「想像力のアップデート:人工知能のデザインフィクション」リーダー。共著として『人狼知能 だます・見破る・説得する人工知能』『人とロボットの〈間〉をデザインする』『AIと人類は共存できるか』『信頼を考える リヴァイアサンから人工知能まで』など。人工知能学会、情報処理学会、日本認知科学会、ACM等会員、日本SF作家クラブ会員。博士(工学)。
宮本道人氏

宮本道人(みやもと・どうじん)

1989年、東京生まれ。科学文化作家。東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。博士(理学)。開かれた科学文化を作るべく研究・評論・創作。編著『プレイヤーはどこへ行くのか』、協力『シナリオのためのSF事典』など。人工知能学会誌にて原案漫画「教養知識としてのAI」連載中。日本バーチャルリアリティ学会誌にて対談「VRメディア評論」連載中。筑波大学システム情報系研究員、東京大学大学院新領域創成科学研究科客員連携研究員、変人類学研究所スーパーバイザー、日本SF作家クラブ会員、株式会社ゼロアイデア代表取締役。
関根秀真

関根秀真(せきね・ほづま)

早稲田大学大学院理工学研究科修了。博士(工学)。1994年、三菱総合研究所入社。入社以来、宇宙開発、地球観測、森林環境・ビジネス(温暖化対策)、途上国開発支援(南米・東南アジア)、自治体事業支援に関わる事業に従事。現在は同社未来構想センター長。同センターにて、50年後の世界や日本を見据え、その社会像を描き実現手段を検討する未来研究プロジェクトを推進中。東京大学工学部非常勤講師。
藤本敦也

藤本敦也(ふじもと・あつや)

東京大学大学院新領域創成科学研究科修士課程修了。ESADEビジネススクール(バルセロナ)MBA(2016年)。2006年、三菱総合研究所入社。同社未来構想センターシニアプロデューサー。専門は、新規事業開発、組織戦略(経営統合等)。ブレインテックなどの先端技術を活用した新規事業から、ペットビジネス、シニアビジネスなど多岐にわたるコンサルティングサービスを現場・ユーザーを強く意識し展開。技術・マクロトレンドと人・社会の変容を織り交ぜた、未来社会像構築も多数実施。ワイズポケットの創業メンバーでもある。