大澤 SFにはすごく新しいアイデアを提供して人を動かしたりつなげたりする面がある一方、現代を生きる人々のエンターテインメントであるという側面もあります。ゆえに、その時代のステレオタイプを引きずってしまう側面もあります。イノベーションのためのSFを使う際には、SFのもたらす役割を切り分けて見ていく必要があります。その分析が多分、われわれがこれからチャレンジすることであり、今一番求められていると考えています。
宮本 SFを書くことを通じて未来を予想し、製品開発などの参考にする技法の「SFプロトタイピング」が企業から着目されるようになっています。ただ、実践されているプロジェクトの中には、はやりの研究者やSF作家、ビジネスマンを集めて、取りあえず会話してもらえば何か新しいものが生まれると考えているという、雑な考え以上のものがない場合もあるようです。
こういうやり方では「もったいない」と個人的には思っていて、きちんと方法論を深めて検証していくことができないか考えていた時に三菱総研さんからお話をいただいて、こちらとしてもぜひ共同研究をさせていただきたいなと思いました。関連する先行研究について知るため、SFと未来社会構想を組み合わせた研究を推進している米アリゾナ州立大学に、一緒にリサーチにも行きました。
大澤 私自身も人工知能学会の編集委員として、表紙を漫画家の方に頼んだり、学会誌にSFのショートショートを依頼したりと、学術とフィクションの現場をつなげる仕事に関わってきました。そうした体験から感じるのは、むしろ研究者側にステレオタイプがあり、優れたSF作家の関与をうまく生かせない場合もあることです。お互い優れた面を持っている人たちがいるとして、単に人を集めるだけではうまくいきません。どうやったら優れた才能を持っている人たちのミスマッチを避け、うまくイノベーションにつなげられるか、というところに、新たな可能性があると思います。