藤本 SF思考学はまだまだ試行錯誤の段階ですが、今後は評価軸や手法、インパクトを含めて体系的に見ていくことが求められます。個人的には「使ってもらってなんぼ」の学問にしたい。学問としてどんどん純粋になったり、使われなくなっていったりするものもありますが、やはり地に足がついて、使われ続けて変わっていく、という工学的な要素があってもいいのではないかと。
宮本 プロトタイピングのインターフェースとしてSFを使おう、という考えには工学的な側面もあって、大澤さんはまさにその考えで研究を始めていらっしゃるわけですよね。
特に、これを技術と考えると、ワークショップデザイン自体が人を傷つけないようにするにはどう仕組みを設計するかという観点が気になってきます。例えば深く考えずに作家とビジネスパーソンや研究者のチームを作った場合、それぞれのマナーや言葉の使い方が違うために不要なもめごとが起きてしまい、その後のコミュニケーションの可能性がなくなり、他のプロジェクトに迷惑がかかるといったようなことも起こり得ます。
かといってリスクを恐れて共作を避けるのも損です。ハリウッド映画の中には、登場する事物を科学技術的な側面からデザインするチームがあり、その人たちがちゃんとエンドクレジットに載るといった作品も普通にあるわけですが、日本ではチームでの共作や科学監修付きの作品制作といったものがそれほど一般的ではないと思います。そもそも共作自体、あまり研究されている分野ではなく、「共作の教科書」みたいなものも日本では聞いたことがありません。
また、共作で失敗した事例は共有されにくいという問題もあります。一人で失敗した場合はそれを外に話しても試行錯誤の1段階くらいに思ってもらえるわけですが、共作の失敗は誰に責任があるのかなどの議論を避けるために公開しにくいのです。自分たちがうまくいっているところだけを見せたいと思う人も多いので、企業とクリエイターがもめた場合、それを公開することも少ないでしょう。特に秘密保持の契約を結んでいた場合、言いにくいことも増えてしまいます。
こうした問題を避けるためには、最初のチームビルディングの時点から、人選をきちんと行う必要があります。今回の三菱総研さんの新入社員研修では大澤さんがその点を事前に準備し、心理学的な指標をもとに最良と思われるチームづくりをされていました。そういう基本的なところから一つ一つ丁寧に設計していかないと、リスクがメリットを上回る場合もあるということは、こういったプロジェクトを扱う上で絶対に認識しておかないといけない点です。逆にそういうもろ刃の剣的なファクターさえしっかり認識しておけば、基本的には楽しく自由に思考できると思いますね。
藤本 おっしゃる通りだと思います。また、実際に企業とSFワークショップをやってみると、「まだ頭の柔らかい若手にぜひやらせたい」という声が経営陣や中間管理職から上がってくるのですが、そうではなくて固くなってしまった頭を解きほぐすためにも使ってほしい。このようにSF思考学は、さまざまな使い方が可能だと思います。今後も引き続き研究を進め、ワクワクする未来を産み出すために広げていきたいと思います。最後に関根から50周年記念研究におけるSF思考学の今後について、少し抱負を述べたいと思います。
関根 50周年記念研究で社会、あるいはヒトのこれからを目指す中で人間基点のSFは大切です。われわれが定めている五つの目標※3をSFに落とし込んで、共感が得られる社会像を描いて実現する推進力にするため、SF思考のフェーズをしっかり作りながら、50周年記念研究としてのアウトプットを出していければ、と希望しています。