元プロボクシング選手 村松竜二氏 セカンドキャリアインタビュー(3)

引退アスリートのキャリア成功の鍵

2020.4.27

責任感から使命感へ

—— 村松さんにとって自分を鼓舞する格言や大事にしている言葉などありますか?

村松 イギリス障がい者スポーツ協会設立者のルートヴィヒ・グッドマンの言葉を大事にしています。
『失ったものを数えるな。残されたものを最大限に生かせ』
夢をつかむために奮い立たせてくれる素晴らしい言葉です。現役中に左手手術を4回行いました。4度目は現役引退直前で、最後の望みを託しての大手術でした。しかし、そのわずかな希望も叶わず左手は曲がることはありませんでした。左手に障害を負って以降、失ったものを数える自分がいました。その中でも、やれることを考えボクシングをしてきました。引退してからも劣等感の方が強い時期が長くありました。ただ、このルートヴィヒ・グッドマンの言葉を知り、失ったものを数えるのではなく、現実のありのままの自分を認めてその最大限を生かそうと。そう思った時に、ボクシングも障がい者支援も、自分の劣等感を見えなくしようという頭で考えた「責任感」から、自分だからこそやるべきこと、心がそうしたいという「使命感」になったのです。

—— ルートヴィヒ・グッドマンの言葉は素敵ですね。その使命感から大きな転換期はありましたか?

村松 大きな転換期は約25年勤務した自動車会社を退職したことです。プロデビューは専門学校生の時でしたが、自動車整備士の専門学校卒業後に入社しました。当時の社長がプロボクサーの村松竜二に理解を示してくれて、プロ選手のまま自動車整備士の正社員として雇用してくれました。試合の時は全社をあげて応援しに来てくれました。もちろん、業務は一般社員と同じ条件。試合日程が決まると、定時後は残業は免除されトレーニングにあてることができましたが、試合が終わった後は残業して取り返しました。上司は体育会系的な先輩で、プロボクサーであろうが態度や姿勢などのマナーには厳しかったです。思い出も詰まったお世話になった会社でしたが、B-boxを法人化し現在の活動を行おうと思ったのを機に、2017年に退職をしました。

—— 安定した職を辞して夢の実現に動かれたということですね。

村松 そうですね。それまでは障がい者のボランティア指導や構想はあっても覚悟はありませんでした。新生B-boxは2018年に本格始動をし、裾野を広げている途上でまだまだ課題もありますが、障がい者の負担を軽減するためレッスン料は安価に、ボランティア活動も積極的に行っています。専らスポンサー支援のみに頼っている現状ですが、それでも障がい者の共生を目指してこの取り組みは続けます。そのため、B-box以外の活動として、一般の若手ボクサーの指導でD&D BOXING GYM会長を兼務しています。

—— 最後に現役選手に先輩としてセカンドキャリアのアドバイスをお願いします。

村松 現役選手は引退後を考えると守りに入ってしまうため競技に専念してください。ただ唯一、現役中の選手にアドバイスできることは、現役中に一度、B-boxのお手伝いにきてください。障がい者の自立支援のスタッフ体験をすることは、アスリートとしての強みになります。そしてそれが引退後にも生きると思います。現役選手だからこそ障がい者と触れ合ってもらいたい。人として競技者として大事な気づきがあるはずです。自分のためが人のためにではなく、「人の為が自分の為」。このような志を持つ人が増えればいいなと思っています。
 
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写真:村松氏提供
村松竜二(むらまつ・りゅうじ)プロフィール

1974年2月7日生まれ。元プロボクサー。 1992年整備士の専門学校在学中にプロデビュー。卒業後、整備士として自動車会社にプロボクサーとして入社(正社員)。1994年にひき逃げに遭った際、腱が断裂し左手首が動かなくなる障害を負う。一年後に復帰。2002年5月での試合中に眼底骨折によって右目の外側の視界を失う。2004年引退。右手一本で戦う姿は「竜の爪」の異名をとり、一時は日本ライトフライ級1位にまで登り詰め、後の世界王者・ 戸高秀樹の日本王者陥落まであと一歩のところまで追い込んだ。プロ通算36戦22勝(10KO)12敗2分。引退後はアマチュアボクシングのイベントに参加しながら、後進の指導を行う。2015年よりB-boxの前身のメンバーとなりボクシングを通して社会貢献活動を積極的に始める。2018年B-boxを自ら法人化にし、障がい者ボクシング指導や青少年自立支援を目的とした一般社団法人B-box代表理事に就任。同時に約25年勤務した自動車会社を退職。D&D BOXING GYM会長。ブラインドボクシング協会関東支部 支部長。健康増進を計る事を目的としたボランティアボクシング活動を毎年地元小学校でのイベントを積極的に行っている。
【B-box HP】 https://peraichi.com/landing_pages/view/bbox

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取材・文 : 小村大樹(おむら・だいじゅ)
草創期のメンタルトレーナーを経て、総合学園ヒューマンアカデミー、一般社団法人日本トップリーグ連携機構などに従事。
現在は、NPO法人スポーツ業界おしごとラボ理事長・小村スポーツ職業紹介所所長。
株式会社三菱総合研究所 アスリートキャリア支援事業プロジェクトに協力。

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