元プロバスケットボール選手 天野喜崇氏 セカンドキャリアインタビュー(2)

引退アスリートのキャリア成功の鍵

2020.5.19

やるべきことを極めた先にやりたいことがついてくる

—— 理学療法士として病院勤務はどうですか。

天野 まず、2016年4月に、理学療法士として専門職で採用されました。当時のリハビリ担当の同期は4人で全員年下でした。2019年に新病棟が建ち外来と入院患者が分かれました。旧病棟の時は、スタッフルームも狭く不便なことも多かったのですが、バスケ選手時代よりも恵まれていたため働けることを有難く思っていました。理学療法士は、医師との距離も近く、勉強会やさまざまな交流会もあります。特に飲みニケーションも多いです。夜勤もなく、土日も休みであるため、専ら病院外での勉強会に赴いています。嬉しいことに病院は病院外の活動や勉強などに関して自由に承認してくれる環境で、独自の研究テーマをもち研究活動をすることを推奨しています。率先的な取り組みに理解があり、自発的な活動を後押ししてくれます。
写真
現在勤務する慶友整形外科病院
写真:小村大樹氏撮影
—— 理学療法士として極めるには最高な環境ですね。入った当初と現在で変わったことはありますか?

天野 理学療法士の仕事は流れ作業ではなく、生身の人間相手なので決まったことがありません。患者一人ひとり異なる治療方針を考えます。やり方は自分で勉強して身に付けなければなりませんので、最初の2年間は病院外の勉強会に率先的に参加し知識を付けました。そして、患者の8割が高齢者で、その他が中学生・高校生のスポーツ選手。名誉院長が野球の肘の権威者で全国から患者が集います。本来は元選手としてスポーツ選手の治療をしたいという気持ちは強かったのですが、まずは患者を選ばずに、理学療法士として患者一人ひとりと向き合って全力を注ぎ、現場を学ぶことに徹しました。

—— どうしても引退した選手は選手時代の延長線上としてセカンドキャリアを捉えがちで、選んだ仕事の動機も選手時代とリンクさせがちです。天野さんのきっかけはそうであったとしても、そこはしっかりと分けて向き合っている点が素晴らしいですね。

天野 選手時代でも理学療法士でも、これだと思ったことはストイックに取り組む癖があります。理学療法士になったのだから、まずは素地をしっかり極めたい。延長線上をつくるのだとしたら、その素地からやりたい。それがスポーツ選手であった強みとなり、選手を「支える人」へと繋がっていくのだと思います。実際にそうなっています。

—— 2019年からはBリーグ 群馬クレインサンダーズ メディカルスタッフ(トレーナー)としても活躍されています。元プロバスケ選手がメディカルスタッフになった初の事例ですが、どういった経緯で着任されたのですか。

天野 4年間病院勤務をしてきて理学療法士としてさまざまな経験をさせてもらいました。理学療法士を目指した時にいつかプロチームに携わりたいという夢もありました。ある時に、エヴェッサ時代に一緒にプレーをしており今は群馬のチームに所属している選手が、膝をけがし診療の機会がありました。それがきっかけとなり、群馬のチームのトレーナーとなりました。

—— 偶然の重なりで夢が叶ったのですね。病院での理学療法士、群馬のプロバスケチームのメディカルスタッフ(トレーナー)、さらに学会でも研究論文を発表しているとのことですが。

天野 研究に関しては病院が積極的に推奨しているため当初より始め、選手時代にけがが多かった足と膝に注目していました。4年間勤めてきて、自分以外に足に興味がある理学療法士がいないことに気づきました。ほとんどが肘、肩、腰、股関節、膝です。足の定義は膝を含まない、膝から下。足首やすねなどは入ります。全国的には足の研究している人は多いのですが、この病院内にはいませんでした。研究する人がいなかった中、自分はそこに興味を持ち、研究して学会に発表したらシンポジウムに呼ばれました。

—— さまざまな活動をされ非常に多忙な中での勤務ですが、上司との連携はうまくいっていますか?

天野 はい。とても恵まれています。新人には指導者として先輩がついてくれます。私が新人だったときは10歳年上の先輩に指導してもらいました。その先輩は、他病院に移られましたが、今でも連絡を取り合う仲です。理学療法士の歴史はまだ50年くらいですので、直属の上司たちも40歳前後と若く、各々の専門・研究分野ももつため、尊重して意見交換ができる環境です。やり方を押し付けるわけではなく一緒に考えてくれます。研究の相談にも乗ってくれますし、こちらが聞かれることもあります。

—— 選手時代と比べて、理学療法士になられてから、発見や気づきはありましたか。

天野 ひとつ決めたらストイックに突き詰めてしまう性格は今も昔も変わらないのですが、選手時代は自分の価値観でしか物事を考えていませんでした。理学療法士になり心のケアを現場で学ぶにつれ、自分と相手の価値観を知り、寄り添うとは何かを知りました。患者との信頼関係もありますが、計画通りに行かず痛みを取り切れなかったり、目に見えない部位に対して手探りでやる中で知識不足や経験不足を実感することもあります。最初はそういう面で結果が出なかったこともありました。中身が見えない中、消去法で解決策を見つけていくため、医者との連携、患者とのコミュニケーションの大事さ、その環境づくり、「人と人」との関わり方、伝え方を学びました。
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