元プロバスケットボール選手 天野喜崇氏 セカンドキャリアインタビュー(3)

引退アスリートのキャリア成功の鍵

2020.5.19

強みは、選手だったからこそ目に見えない「感覚」がわかること

—— 理学療法士へのセカンドキャリアには満足していますか。

天野 していると言えばうそになります。やりたいことはできていますが、忙しさでできていないところもあるからです。今は患者を診つつ、足と膝の研究と群馬のプロバスケチームを見ています。この先、スポーツの方に行くか、それともスポーツから外れて足の研究に特化したリハビリ専門に行くか。現場で診るのとリハビリで診るのとは方向性が異なるため悩んでいます。

—— さらに極める場合はどちらかを選ばなければならないのかもしれませんが、現状は両方やられているわけですから、両方極めてもらいたいですね。現在の職場環境などでの課題などはありますか。

天野 単純にスタッフが足りないところです。若手が定着しないのが課題です。同じ理学療法士でもリハビリにはさまざまあります。ここは手術して入院いただく外科病院ですので、療法士がイメージしている働き方とは異なることもあります。病院業務が忙しい上、独自の研究もしなければならないため、勉強したい人には良い環境ですが、プライベートを充実したい人には向かない場所なのかもしれません。

—— アスリートを経験したことの強みは何ですか。

天野 強みは、選手だったからこそ目に見えない「感覚」がわかることです。患者が選手の場合は選手の気持ちがわかります。「このタイミングはコレなのだよ」という感じがすんなり入ってきます。これを第三者にも理解してもらえるように語彙力を高めることが課題です。あと私は勉強が嫌いだったのですが、アスリート時代は自分のためのトレーニングや栄養、自分の体を通しての勉強は苦ではなく積極的に取り組んできました。今でも学問としての研究は苦手で苦労していますが捉え方です。「勉強に興味がない」からという目線で入らずに、「人に興味がある」から向き合うという解釈でしょうか。やらされる勉強と思うのではなく、自らやる勉強が人の役に立つという意識をもつことで勉強に対する姿勢も変わります。

—— ご自身のキャリアを振り返ってのターニングポイントはどこだったと思いますか。

天野 2013年に某チームからのオファーに躊躇し、プロバスケ選手から理学療法士になるという「志」が固まった時。そして、2016年に群馬の病院に来て、理学療法士としての仕事をすることを決めた時。この2つはとても大きいです。実はもうひとつあります。群馬に来たことにより生涯の伴侶を得ました。そして実地経験を積んだら都内の病院に転職をしようと考えていたところ、子どもが誕生しました。これにより、群馬に留まろうとなったわけですが、結果的に、足の研究で評価され、念願のプロバスケチームのメディカルスタッフ(トレーナー)になれました。この病院に勤務するまでは群馬県と深い関りはありませんでしたが、今は「群馬ありがとうございます」です。

—— 最後に選手たちの先輩としてセカンドキャリアのアドバイスをお願いします。

天野 引退した身からすると、選手のうちからその先のことを考え動いていた方が良いと感じますが、それができない気持ちも経験したのでわかります。ですから、選手時代は競技から派生する勉強をされることを薦めます。私は選手としての強化の一環で体の仕組みなどを学びました。それが結果的に理学療法士の道につながることになりました。決して解雇された後の保証とは考えず、黙々とやる姿勢、ここは誰にも負けないというストイックな姿勢が大事です。そういう姿は誰かが見てくれており、そのご縁が引退後につながります。私が引退後にメディカルスタッフでプロバスケチームに入れたのも、選手時代に黙々と取り組んでいた姿を記憶されており、引退し立場が変わっても心は変わらず接してつないでくれました。人が人を評価するところは姿勢のところの評価です。お金で買えない価値は「姿勢」。何事も一生懸命に取り組む。やるべきことをしっかりやる。向き合う姿勢。諦めないでやり続ける姿勢。これは競技者であっても、第二の人生であっても、何をやっていても大事なところです。人の倍以上頑張っていると出会いも場所もつながっていきます。 
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写真:天野氏提供
天野喜崇(あまの・よしたか)プロフィール

1988年生まれ。東京都八王子市出身。2007年東京都立八王子北高等学校卒業。2007年~2009年陸上自衛隊 富士教導団 偵察教導隊所属。2009年総合学園ヒューマンアカデミー横浜校バスケットボールカレッジ入学。在学中に bj リーグ(現Bリーグ)大阪エヴェッサ入団。選手時代の背番号は6番、18番。2012年八王子プロバスケットボール設立準備室(現 Bリーグ 東京八王子ビートレインズ)を発足。2013年現役引退し、多摩リハビリテーション学院 理学療法学科に入る。資格取得し卒業後、2016年より特定医療法人慶友会 慶友整形外科病院リハビリテーション科の理学療法士として活動。2019年からはBリーグ 群馬クレインサンダーズ メディカルスタッフとしても活躍。元プロバスケ選手がプロチームのメディカルスタッフになった初の事例となる。専門は足と膝。
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