元社会人野球選手 小杉卓正氏 セカンドキャリアインタビュー(2)

引退アスリートのキャリア成功の鍵

2020.10.30

社内でやりたい仕事をつかむための努力

—— 配属された調達部門はどのようなところで、どのような仕事内容だったのでしょうか。

小杉 工場勤務で、部品や原材料の調達・購買に関してサプライヤーとの契約業務を担当しました。仕事をしながら、調達部門の教育プログラム、英会話、パソコンスキルを学び、のちにプロジェクトマネジメント資格も取得しました。

—— 当時の上司はどのような人でしたか。

小杉 元松下電器サッカー部(現 ガンバ大阪)出身の温厚だけれども熱い志をもった上司でした。元アスリートが社業で結果を出して役職に就いていることが、励みになりました。また、私がスポーツビジネスに携わりたいという考えをもっていることについても上司は真剣に話を聞いてくれました。
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写真:小杉氏提供(結果が出ないときも応援し続けてくれた上司と職場の皆さん)
—— パナソニックは社会人スポーツが盛んですので、元アスリートの社員がいて励みになりますね。

小杉 元野球部の先輩の存在も心強く、職場は違いましたが、相談相手になってもらっていました。
職場は年上ばかりでしたので若手としてかわいがっていただきました。体育会系の人間関係と比較すると、年代も違えば、工場の職人から技術、開発、経理、営業まで幅広いかたがたがいらっしゃったので最初は不安でしたが仲間に恵まれました。また、チームスポーツで培った礼儀や先輩の懐に入り込む対人関係構築力が役に立ちました。

—— スポーツビジネスに携わる部署へ社内異動も考えていたと思いますが、何か策はありましたか。

小杉 配属された調達の仕事は、購入先との対人折衝、技術や製造とのコミュニケーションなど、やりがいを感じる一方、調達部門での自分の将来性について疑問を感じるようになりました。やはりスポーツビジネスに取り組みたいという情熱が湧き出て、面談で言われた「仕事のイロハ」と「英語力」を学ぶことが必要だと再認識し、そのための目標設定をしました。
社内の人事評価で英語は必須項目です。そこで長期目標を「スポーツビジネスに携わること」、中期目標は「仕事のイロハを覚えた証明をつくること」とし、具体的には主事(現・主務)昇格という目標を設定しました。短期目標は「TOEICで550点」としました。パナソニックでは当時、主事昇格試験資格にTOEIC 550点(昇格研修時は600点)という条件があったからです。ちなみに、野球選手として入社した当時は200点台レベルで全く英語ができませんでした。選手時代にも英語に取り組みましたが成績は上がりませんでした。

—— 27歳にして本格的に英語習得を目指されたのですね。どのように習得されたのですか。

小杉 英語を習得すると決めてからは英語漬けの毎日でした。野球部時代は休みがほとんどなく、土日が連休であった経験もなく、祝日、夏季休暇などもありませんでした。引退してからは、野球に充てていた時間を英語に充てました。土日の休みは丸一日英語の勉強、長期休暇は英語合宿するなど決めました。社内の語学研修を利用したり友達に家庭教師を頼んだり、自費で英会話教室にも通いました。今思えば、英語を話したいから英語を勉強するのではなく、やりたいことのために英語を勉強する、つまり、英語の習得を目的ではなく手段としたことで、諦めずにやりきれたのかなと思います。

—— 手段として英語習得に挑んだことが継続できた秘訣(ひけつ)ですね。

小杉 それまでは野球一辺倒だったので、英語など語学は全くできませんでした(笑) でも、野球のおかげで、目標を決めてそこに向かって努力することに慣れていたので、その苦労に挑み乗り越える習慣は身に付いていました。結果、1年半でTOEICが550点を超え、3年目で昇格試験を受ける資格を得て、目標としていた主事に昇格することができました。TOEICは点数で進捗を測れるので短期目標として適していたと思いますし、昇格という中期目標に直結していたのも継続する力になったと思います。

—— 目標設定をして、「仕事のイロハ」と「英語力」がクリアされました。

小杉 「小杉が3年でTOEICをクリアして主事に昇格した」という話が野球部や人事の責任者の耳に届いたらしいのと、北京オリンピックが終わるタイミングで組織変更があり、2008年10月に当時のオリンピックマーケティング室に異動となりました。

—— 努力と仕事への意欲が認められて、3年間で念願のスポーツに関わる部署へ異動ができたのですね。

小杉 裏方としてオリンピックに関わる部署への配属となり、うれしい反面、非常に戸惑いました。当時はTOEIC対策の勉強をしてようやく600点越えたくらいだったからです。しかし、喜びの方が強かったので二つ返事で受諾しました。

—— TOEICの点数が取れただけで、会話面などビジネスとして英語を活用できるかという不安ですね。

小杉 そうです。ほぼゼロから飛躍的に英語力は向上したのですが、オリンピックという世界を舞台にした一大イベントの窓口を一手に引き受ける仕事です。ワールドワイドな仕事のため英語を活かす機会が頻繁にあり、細かい書類のやりとりや会議での交渉、メールは英文が多い部署でした。
ただ、内示をもらい着任するまで約2カ月ありましたので、異動前最後の仕事をしながら、不安だったビジネス英会話にフォーカスして猛勉強をしました。毎週土日は一日中英会話の練習でした。ちなみに、現在は英語の会話は問題なくできるようになり、TOIEC880点を獲得できるまでになりました。
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