元社会人野球選手 小杉卓正氏 セカンドキャリアインタビュー(4)

引退アスリートのキャリア成功の鍵

2020.10.30

スポーツ選手の強みはソフトスキル

—— 小杉さんが考えるアスリートのセカンドキャリアに関して教えてください。

小杉 長年、野球の技術や知識、スキルを磨き続けてきたので、「野球を辞めてしまったら、自分に何が残るのか」考えました。スポーツ以外で自分に合う仕事は、「自分の情熱と強みを活かせる仕事」だと思いました。

—— 新しいところに飛び込む不安の方が先行しませんでしたか。

小杉 一緒に働く職場の方々と比較をしてしまい、学力で劣るため仕事についていけるのか不安になりました。そして、体育会系の日々から離れ違う場所に足を踏み出すことへの不安もありました。仕事に関しても相手企業の方々も優秀ですので、対等に交渉ができるのかも不安でした。こうした不安しかない状況から脱出できた理由の一つは上司の存在でした。上司は元サッカー選手で、自分と同じ境遇を経験した手本となる人でした。現役時代もそうでしたが、模範や手本になる人のまねから入ること。また、その方から受けるアドバイスは心に染みわたります。企業スポーツ部出身の先輩は励みになります。私の場合は幸いなことに上司が手本となりうる尊敬できる存在だったという縁があったのです。

—— アスリート出身者だからこその強みはどう分析されますか。

小杉 野球部を引退して就く仕事として向いているのは、人事・総務、営業・セールス、調達・購買だと思います。スポーツ選手がこれらの職能に向いていると思う理由は、スポーツ選手には、目標達成推進力、チームワーク、リーダーシップ、対人関係構築力、フェアプレー精神、忍耐力などの「ソフトスキル」がたたき込まれているからです。これらのソフトスキルはスポーツ選手の強みです。

—— 確かに、これらの仕事は、人と人とのつながりが重要となる仕事で、いわゆるコミュニケーション力が必要とされる職種ですね。

小杉 私が最初に配属されたデバイス工場の調達担当は、いろいろな職能が集まる工場だからこそ、自分の存在価値を見いだすことができました。スポーツを通して無意識に身に付けてきたソフトスキルを言語化し確認できたことが、次にやりたい仕事への後押しになったことは間違いありません。

—— まず元アスリートはスポーツを通して身に付けてきたソフトスキルを実感することですね。

小杉 そうです。仕事を介してでも、仕事以外でもソフトスキルを確認ができる場はあると思います。それが確認できた後は、次の強みとして、新たな武器を身に付けることです。そして、第二の人生でも、スポーツをやっていた頃のような情熱を見つけることです。

—— 小杉さんにとって強みと情熱を発揮した逸話はありますか。

小杉 欧米、ロシアでの契約交渉ですね。バンクーバーでは初めての英語での交渉、ロンドンではスポーツ弁護士との交渉、ロシアでは元軍人かのような人を相手にしたパワー交渉など次々に苦しい場面に遭遇しました。でも、スポーツをやってきたことで、外国人にも負けない体格、体力、堂々とした対応といった強みが自分に備わっていることを実感しました。交渉ごとなので戦う前から負けていては話になりません。加えて、野球で身に付けたポーカーフェースも武器となりました。野球の場合、対戦相手に何を考えているか悟られると、球種を読まれてしまいますが、契約交渉でも動揺したことに気づかれずにいることで交渉を優位に進められました。また、交渉以外はオリンピックを成功させる仲間として、スポーツがもつ「集中」「情熱」「規律」「献身」のイメージが人間関係構築に役に立っていると感じます。

—— 元アスリートだからこそビジネスマンになって感じることはなんでしょうか。

小杉 野球はチームスポーツですが、個人の能力がチームを強くします。同じチームの仲間が切磋琢磨することで、自分に磨きをかけ、その個性がチームをより強く変えていく。ビジネスマンも同じで、いいものをつくりたい、いいチームをつくりたいなら、まずはそれぞれが頑張ることが土台になるはずです。一方、管理職としてチームを引っ張る立場としては、仲間を「引っ張る」「押し上げる」の両輪を心掛けています。今は、物事がすごいスピードで変化していく時代です。同じことをやっていてはうまくいかないので、環境の変化を読みながら、常に変化し、成長していかなくてはいけません。全体で相乗効果を生むように心掛けています。結果として、自然に変化や成長が起きていくという好循環をもった組織が理想です。

—— 最後に現役選手に先輩としてセカンドキャリアのアドバイスをお願いします。

小杉 自身の得意分野を徹底的に取り組むこと、そして、視野を広げて興味をもつことです。スポーツからの学びは、社会人になってから必ず役に立ちます。今、スポーツに打ち込んで頑張っているのであれば、それは決して間違っていません。迷うことなく、目の前のことに全力を費やしていれば、必ずチャンスはやってきます。その経験は、社会人になったときに必ず活きてくるので、自信をもって頑張ってください。
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写真:パナソニック提供
小杉卓正(こすぎ・たくまさ)プロフィール

1978年生まれ。和歌山県出身。和歌山県立星林高校を経て、東北福祉大学に進学。1997~2000年 仙台六大学リーグ 春夏4年連続優勝 計8回。全日本大学野球選手権大会4年連続出場のうち、準優勝2回。明治神宮野球大会4年連続出場のうち、準優勝1回。世界国際野球大会3位。ハワイ国際野球大会優勝。1999年 仙台六大学春季リーグで最高打率賞を獲得、最多打点(リーグ歴代最多)の記録を樹立し、MVPに選出される。2000年 キューバオリンピック代表チームと親善試合を経験。卒業後、社会人野球 松下電器野球部(現パナソニック野球部)に入部。2001年~2004年、在籍時の都市対抗野球大会4年連続出場のうち、ベスト4・1回、ベスト8・1回。社会人野球日本選手権大会4年連続出場のうち、ベスト8・2回。
引退後、パナソニックエレクトロニックデバイス株式会社 セラミックBU 門真工場 調達課 契約係に復帰。2008年 パナソニック株式会社 オリンピックマーケティング室に異動。その後、ブランドコミュニケーション本部 宣伝部スポンサーシップイベント推進室 オリンピック・パラリンピック課 課長を経て、2016年からブランド戦略本部 北米ブランド統括センターとしてパナソニックノースアメリカに出向。
プライベートではスポーツへの恩返しと次世代の育成のため、ボランティア活動として日米で少年野球のコーチを行っている。
【パナソニック企業スポーツウェブサイト】
 https://panasonic.co.jp/sports/
【パナソニック公式オリンピック・パラリンピックウェブサイト】
 https://www.panasonic.com/global/olympic/ja.html
【パナソニックノースアメリカ・ブランドアンバサダーウェブサイト(英語)】
 https://na.panasonic.com/us/whatmovesus/team-panasonic
取材・文 : 小村大樹(おむら・だいじゅ)
草創期のメンタルトレーナーを経て、総合学園ヒューマンアカデミー、一般社団法人日本トップリーグ連携機構などに従事。
現在は、NPO法人スポーツ業界おしごとラボ理事長・小村スポーツ職業紹介所所長。
株式会社三菱総合研究所 アスリートキャリア支援事業プロジェクトに協力。

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