元ボクサー・元総合格闘家 中村圭志氏 セカンドキャリアインタビュー(3)

引退アスリートのキャリア成功の鍵

2021.7.29

プロアスリートでの2度の過ち、プロ料理人としては3度めの過ちはない

—— 中村さんの店である沖縄料理屋「中む」をオープンして、ここからが真のセカンドキャリアですね。10年たちました。プロの料理人としてのセカンドキャリアには満足していますか?

中村 まだまだ、全然です。正直、料理の王道をしっかり学んだことがなく、この10年は自分流でやってきました。ただ、ボクサーや総合格闘家での失敗から、自分流では視野が狭くなってしまうという不安もあります。なので、現状に満足せず、毎月新作料理にチャレンジし、食したお客さまから生の声をいただいて、真剣に向き合い続けています。気付いたら10年たったということです。

—— お客さまの生の声を大切にするという発想は、どこから生まれたのですか?

中村 実は、開店後の早い段階で、一緒に立ち上げた沖縄出身の仲間が辞めたのです。自分が100%出資して始めた店ですから、後は全て独力でやるしかない。そこで覚悟を決め、沖縄へ行って食べ歩き、レシピを研究し、素材にこだわり、自信をもって提供したのですが、当初はお客さまの反応がよくありませんでした。何がいけないのか全く分からず、お客さまに聞いて回るというスタイルがそこから始まりました。
写真:中村氏提供
写真:中村氏提供
—— 反応がかんばしくなかった理由は分かったのですか?

中村 気付いたことは、地域による味覚の好みの差です。店があるのは東京であり、食べに来てくださる方々は関東圏の人たち。沖縄とは気候が異なり、求められる味付けが違う。それを無視して、沖縄料理の味はこれに違いないという思いを優先し過ぎていたことに気付いたのです。地域のお客さまにとって「おいしい」料理を提供することに決めました。

—— それで「創作」を強く意識しているのですね。料理以外で店としての目標はありますか?

中村 この10年間は、ほぼ年中無休で一生懸命やってきましたが、もう少し家族とのプライベートな時間を持てるようにしたいですね。常に自分が店にいることが当たり前になっている現状から、従業員だけで店を回せて、料理と雰囲気だけでお客さまに満足してもらえることが目標です。コアのお客さまに支えられ、とても感謝していますが、さらに新規のお客さまにもお越しいただけるように広報活動にも努めたいと思います。

—— 10年を振り返っていかがですか?

中村 本当にお客さまに助けられた10年でした。最も心に残っているのは、2011年の東日本大震災の影響で飲食業が大変だった時期に、常連のお客さまが心配してわざわざ足を運んでくださったことです。ちょうどオープンして1年がたち、さらに飛躍しようとしていた時期だったのに、震災で東京も混乱し、その余波で大きな打撃がありました。当時は狛江で開業していましたが、駅から遠く、人の往来もそう多くありませんでした。それにもかかわらず、心配して足を運んでくださるお客さまに助けられ、乗り越えることができました。2020年の新型コロナウイルス感染症による打撃も、案じてくださるお客さまが多く、心から感謝しています。わざわざ来店してくださるお客さま一人ひとりを大事にしようと、決意を新たにしました。

—— 新型コロナによる影響もこの1年大きかったと思います。

中村 東日本大震災の時よりも、今回のコロナ禍の方が休業や時短の要請が厳しく、また長期化しており不安定な状況が続いています。協力金を得ながらルールにのっとりお店を継続していますが、やはり今回も常連のお客さまに助けられています。本当に人の温かさを感じています。
写真:中村氏提供
写真:中村氏提供
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