都市・モビリティ

「actfulness」がもたらす4つの価値で、多方面のウェルビーイングを呼び起こす

しなやかにウェルビーイングの最大化を目指す、「レジリエントで持続可能な社会」

ウィズコロナからポストコロナへと移りゆく今、MRIでは目指すべき社会のイメージを「レジリエントで持続可能な社会」と見定めました。

鯉渕 MRIが提言する「レジリエントで持続可能な社会」は国際情勢も含む世界規模でとらえるべきテーマであると考えています。
レジリエントとは強靱・しなやか・回復力があるといった意味です。例えば津波が起きた場合に、それをただ跳ね返そうとすることだけを考えて対処するのでは限界があり、災害に対して強靭な社会であるとは言えません。デジタルを活用しプッシュ型で迅速に避難を促す仕組みなど、ソフト面でのパーソナル防災が、レジリエントな社会では求められます。その上で、いかに復旧するかも見据えておくことが重要なのです。それは、どのような場合にもウェルビーイング(身体的・精神的・社会的に良好な状態)を一定以上に保つための手立てを持つということです。
ところで「レジリエントで持続可能な社会」は、災害などの危機に対応するだけでなく、究極には人々の「ウェルビーイングの最大化」を通じ、豊かで持続可能な社会を目指すものだと捉えています。MRIでは、「ウェルビーイングの最大化」について、その方法論やビジネスとしての事業化検討を進めています。

MRIが社会変革の鍵の一つとして着目する「ウェルビーイングの最大化」ですが、そのポイントは、経済的な豊かさだけを求めているわけではない点ですよね。

鯉渕 精神的な豊かさが大事であるのは言うまでもありませんが、一人ひとりの目指す豊かさはあらゆる方向を向くようになってきています。多方向に向いたニーズに対応するサービスを設計するには一律のニーズに応えるマスサービスの方法論では限界があり、それぞれの状況に即したウェルビーイングの実現は難しいでしょう。

それぞれの行動機会が満たされる「actfulness」が、ウェルビーイングを実現

「多様化」という言葉を目にする機会も非常に増えています。つまり、何がウェルビーイングなのかも多様化、個別化している。

鯉渕 さまざまな事象を「多様」という言葉で一括りにすることで、逆に多方向が消えてしまうという危険性をはらんでいるため、私たちとしては使い方に細心の注意を払っています。その上でウェルビーイングの高め方を追求した結果、人それぞれの行動を実現させることで、その先にある幸福をつくっていこうという考え方を設定しました。

MRIでは、ウェルビーイングの構成要素を「人間」「社会」「地球」の3層構造としていますね。

鯉渕 人間は「社会」と「持続可能な地球」がなければ生存できません。一方、ウェルビーイングが高まるほど人間は利他や社会貢献の精神が高まり、社会や地球環境に対してより良い行動をとります。ですから「豊かな地球と社会に支えられ、人間のウェルビーイングが実現する」、「人間が地球と社会に能動的に働きかけることでウェルビーイングが向上する」という双方向の関係が重要になってきます。

例えば、疾病予防を心がけることで医療費削減につながるというのは、一人の“Well”を高めると同時に、社会の“Well”も高める良い例です。こうした良い関係をつくるにしても、まずは個人のウェルビーイングを具体的に高めることが必要ですね。

鯉渕 当社が実施した調査では、さまざまな行動が充実している人ほど生活に対する満足度が高いという結果も出ていることから、ウェルビーイングを高めるためには一人ひとりの多方向の行動機会の充足が欠かせないと考えられます。このような、一人ひとりの行動機会が充足することに向けて、MRIでは「actfulness」という概念を提唱しています。
「actfulness」は、人々と都市機能・交通に関する各種サービスをつなぐことで、一人ひとりの価値観や生活環境に応じて行動機会の創出や行動の価値を向上させることを表した当社の造語です。「actfulness」の実現によって一人ひとりのウェルビーイングを高めるとともに、持続可能な地球の実現に向けた行動を促進し、企業や地域の持続的成長を促すことを目的とした考え方です。

「actfulness」の実現によって、4つの価値を提供できると設定しています。

鯉渕 「新発見(New)」、「望みの実現(Wish)」、「期待以上の価値の実感(Great)」、「困りごと解決(Smooth)」という4つの価値です。「望みの実現(Wish)」は文字通り望んでいた行動を実現することですが、新たな発見の機会となる可能性もはらんでいます。「新発見(New)」は自分自身が認識すらしていなかった価値への気づきであり、新たな行動の原動力になります。実行するつもりでいた行動で「期待以上の価値の実感(Great)」をすれば、再度その行動をとり他人へ薦める可能性もあります。これら3つは、ゼロから高めていく価値であり、価値の実感が新たな行動を誘発する好循環を生み出していきます。しかし、やらなくてはいけない行動に時間を費やし、それ以外のゆとりがつくれない場合もあります。そのため、やらなくてはいけない行動をスムーズに進める、「困りごと解決(Smooth)」も必要です。行動は顕在的行動と潜在的行動に、行動拡張の効果は最適化と高付加価値化に分けると、「actfulness」の実現がもたらす価値もこれら4方向に分類されます(下図参照)。
さて、人々を行動に駆り立て4つの価値を提供するためには具体的にどのようにすべきか? デジタルデータの活用が鍵を握ります。人々の行動履歴や趣味・嗜好などを把握できる大量のデータが散在している今、データを活用することで個々人の具体的ニーズを把握することが可能です。また、生活や娯楽、趣味などのさまざまな行動機会を提供する側についてもデジタルデータ化が進み、地図情報として組み込まれています。需要側と供給側の各々のデータを瞬時にいつでもどこでも紐付けられるように設計することで、一人ひとりの価値観や置かれている状況を踏まえ適切なタイミングで潜在的な行動にアプローチできるサービス提供も可能と考えています。
actfulnessのもたらす4つの価値の概念図
actfulnessのもたらす4つの価値の概念図
出所:三菱総合研究所

「actfulness」を実現させる、地域課題解決型デジタル通貨「Region Ring®」とは

「actfulness」を実現させるためにはデジタルデータの活用がポイントですね。MRIではそうしたツールとして「Region Ring®」という地域課題解決型デジタル地域通貨サービスを提供していますが、具体的な社会実装を早川さんが担当されていますね。

早川 「Region Ring」はデジタル地域通貨サービスですが、消費喚起のみを目的としているものではありません。地域課題解決型と称しているように、地域の課題解決に向けた一人ひとりの行動を促すための仕組みを組み込んでいます。例えば、健康増進やカーボンニュートラルに向けた行動に対してポイントという経済的インセンティブを付与し、獲得したポイントで地域内での購買に対する支払ができるといったものです。このポイントは地域のための行動と地域内消費の同時促進を図ることを目指して設計しています。この地域通貨・ポイントの導入によって、個人と地域の接点が広がり、そのことが地域課題解決の力となることを想定しています。
社会課題を解決するには、官民をはじめ分野を横断した取り組みが必要となります。官民がフラットな関係で連携し、情報共有によって自助・共助・公助を組み合わせ、それぞれの最適化や最大効率化を図ることが大切です。「Region Ring」を活用することで、複雑な地域課題の解決に向けて、官民の連携による包括的なアプローチも可能となります。
Region Ring®が目指す社会課題解決の概念図
Region Ring®が目指す社会課題解決の概念図
出所:三菱総合研究所

「Region Ring」の実装エリアも拡大しつづけています。

早川 近鉄ハルカスコイン(実施主体:近鉄グループホールディングス株式会社)や東京ユアコイン[オフィス型](実施主体:東京都)の実証実験、ACT5メンバーポイント(実施主体:大丸有SDGs ACT5実行委員会)のほか、名古屋市のデジタルプレミアム商品券「金シャチマネー」でも採用いただくなど、実装の先駆け事例となっています。

大丸有SDGs ACT5では、社会的・経済的な貢献やSDGsの推進に寄与する行動をすることでポイントが付与される仕組みでしたね?

早川 食品ロスの削減、環境配慮活動などを実践することでポイントが付与され、それを大丸有エリア(東京都千代田区大手町・丸の内・有楽町エリア)の特定店舗での特典の交換やポイント交換、寄付などに使えるようにしていました。
インセンティブ発行だけでなく、アプリ内で各種情報を提供したり、多様なテーマに参加するとスタンプがたまるような、「新発見(New)」を起こす仕掛けを実装しました。これにより、例えば、これまで環境分野にしか興味がなく、活動や参加するイベントの分野が偏っていた人に、ちょっとした情報提供でナッジを仕掛けることで、ヘルスケアやダイバーシティなど全く異なる分野の取り組み・イベントに参加してみるようになるといったことが期待できます。
「Region Ring」は健康、カーボンニュートラル、便利といったあらゆる要素をつなげ、個人の興味を増やしていくことで利用者の参加量を広げられるように設計しています。

個人と社会のウェルビーイングを同時に高めることで、社会課題を解決

単一目的だけでなく、複数課題を解決できるように設計されているのが「Region Ring」の特長です。この工夫により、個人のウェルビーイングが社会課題解決につながる仕組みになっています。

早川 堀さんが先ほどお話しされたように、歩くことで疾患予防となり、ひいては医療費削減へとつながるのは、一人ひとりの行動を変えることで社会が良くなる一例です。同様に、CO2削減や省エネ行動・再エネ活用といったエネルギー問題に関しても一人ひとりの行動変容が非常に重要であり、個人のウェルビーイングを高めると同時に、社会のウェルビーイングを高める効果も生み出すような仕組みをつくる必要があります。

「Region Ring」の導入にあたっては、地域固有の事情に適合しつつ、事業として採算が取れて持続できるサービスでなければ課題解決に至りません。各地域では、何を実現したいか、地域固有の条件、検討の熟度などが異なります。MRIは、研究・提言、分析・構想、設計・実証、社会実装という4つの機能を持っていますが、それらを効果的に組み合わせることが重要です。

鯉渕 MRIでは上記4つの機能を担当する各チームで、課題分析の解像度のすり合わせを行い、同じ課題意識で取り組むことを心がけています。社会課題の解決は他分野と相互に関係していくため、他分野との横断的な研究も欠かせません。

行政が取り組めさえすれば良いわけではなく、個人のメリットや企業にとっての機会をつなぎ、アクションが重なっていくことで社会課題がどんどん解決していくという流れができることが重要ですね。

鯉渕 例えば閉店間際のパンを安価に購入できるようにするアプリは、ユーザーがその店のパンを気に入ってリピートにつながれば、そのパン屋には新たな機会獲得となり、ユーザーにとっては新たな魅力発見となる。もちろん、フードロス削減にもつながる。これが、「actfulness」に向けたサービスの一例。一方、これらのサービスを実施する場合、ユーザーはデジタルデータを通じて監視されていると感じると行動を限定する恐れもあるため、設計には緻密なバランス感が重要です。
早川 「Region Ring」はこれから活動していくかもしれない人を掘り起こしていくことを重視したツールとしても活用できます。そのためにもメリハリのある原資配分を実施し、全体最適を考慮した細やかな設計が重要になります。

行動変容を誘引できる、actfulnessサービスの導入

「Region Ring」はインセンティブの減価・消滅機能に関する特許を持っていることも特長です。

早川 地域通貨は、プレミアムをあげても使われないまま貯まるという事態も起こりえます。その場合、地域が潤わず消費喚起にもつながりません。「Region Ring」では、地域通貨が有効に機能するために、付与した地域通貨の価値が時間経過とともに減価していくという仕組みを取り入れています。実証実験においても、時間の経過により価値が減価される仕組みにより、減価される前に地域通貨の使用意向が高まり、客単価が上がるという結果が出ています。

ブロックチェーンを活用し、複数の課題解決を同時に実現できる点は大きいですよね。

早川 「Region Ring」は、ブロックチェーン技術を活用することで、地域通貨、行政ポイント、社会貢献活動ポイントなど、地域通貨やさまざまなポイントを1つのプラットフォームで発行・管理できるカラードコインとなっています。カラードコインとして活用できるため、多彩なニーズの取り込みが可能です。

行動変容について特定の目標を設定したところ、予想外の反響が得られることもあります。

早川 コロナ禍が落ち着いてきたタイミングで、8,000歩以上歩いたメンバーにはポイントを付与し部署単位で競わせる社内イベントを実施したことがありました。するとチーム内のコミュニケーションが活発化したという成果が報告され、可能性の広がりを感じました。

健康経営プラス人事課題解決という、新たな方向性が示されましたね。「企画や設計次第で複数の効果が得られ、多くの参加者を得て社会課題解決につながるプラットフォームになる」こと、そしてその拡張性を示す一例だったと思います。

早川 SDGsや地域に接点がなかった人でも、「Region Ring」がきっかけとなって興味を持たれたことが、ユーザーアンケートから明らかになっています。「Region Ring」は関心や行動の幅が広がって行動変容につながることがKPIである事業なので、それがきちんと確認されたことは大きな成果です。
鯉渕 「Region Ring」は「actfulness」を実現する強力な一手。MRIでは、actfulnessサービスの導入によって30代女性の余暇行動頻度が5.5%、地域GDPが0.8%増加するという試算結果を出しています。
早川 2022年3月には、りそなホールディングスとデジタル地域通貨に関する基本合意書を締結しました。今後もさらにさまざまな企業とパートナーシップを結び、「actfulness」の展開エリアを広げてノウハウを蓄積しつつ、ウェルビーイングの向上と企業・地域価値の向上を図っていきたいと考えています。

PROFILEプロフィール

インタビューアー

  • 全社連携事業推進本部 都市・モビリティ分野VCPマネージャー
    都市・モビリティ分野の政策支援、社会実装事業など実績多数。本分野の全社連携リーダーとして、研究提言から社会実装までの各プロセス間の連携を図り、この分野の新たな価値創出を推進しています。

インタビューイー

  • イノベーション・サービス開発本部
    地域DX事業部 部長
    当社が開発した行動変容プラットフォーム「Region Ring®」を活用し、デジタル地域通貨、地域ポイント、MaaSなど、社会課題解決につながるサービスの実装を自治体やデベロッパー、鉄道事業者など皆さまとともに推進しています。
  • 政策・経済センター 研究提言チーフ
    あらゆる人々が安全・安心、快適・便利に移動ができるモビリティ社会を目指し、さまざまなお客さまの立場に沿って、データに基づく課題解決提案や実効性のある政策提言を行っています。

Our Efforts

「都市・モビリティ」分野のコンセプト

MRIは、人々が多様な行動機会を充足することでウェルビーイングを向上させる「actfulness」の概念を提唱。「actfulness」の実現による、個人のウェルビーイング向上と企業や地域の持続的成長の両立を目指し、方法論の検討・提案や地域課題解決型デジタル地域通貨サービス「Region Ring®」の実装などに取り組んでいます。

MRIの取り組み

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