気候変動対応・環境開示(TCFD)

三菱総研グループの気候変動対応・カーボンニュートラル戦略

当社グループは、「豊かで持続可能な未来の共創を使命として、世界と共に、あるべき未来を問い続け、社会課題を解決し、社会の変革を先駆ける」ことを経営理念に掲げ、非財務価値や社会価値の向上に貢献するサステナビリティ経営に取り組んでいます。

気候変動問題を社会全体が取り組むべき重要課題と捉え、当社グループ事業の脱炭素化など環境経営を推進することはもちろん、カーボンニュートラルに向けた 政策提言、民間企業の戦略策定、TCFDコンソーシアム運営等のプラットフォーム運営、脱炭素化に向けた社会実装としてのメガソーラー事業など、社会価値の向上に貢献しています。

当社グループが目指すカーボンニュートラル社会

世界の主要な国・地域はカーボンニュートラルを宣言し、脱炭素化に向けた動きは世界的な潮流となっています。日本も2020年10月に「2050年カーボンニュートラル」を宣言しましたが、発電量に占める火力発電の割合が7割を超え、産業部門のエネルギー消費割合が大きいこともあり、その達成は他国と比べても容易ではありません。こうした状況を踏まえ、三菱総合研究所は2021年9月に、「2050年カーボンニュートラル実現に向けた提言」(以下、カーボンニュートラル提言)を発表し、2050 年までのカーボンニュートラル実現に向けた3つのキーポイントと変革を後押しする具体的な施策を取りまとめました。

また、足元では、国際社会の分断が進み、エネルギー市場の混乱など脱炭素化への道筋が見通しにくくなる中、当社は、 2023年5月に、経済安全保障と経済成長を損なわない、円滑な脱炭素社会への移行のためのポイントを示した「カーボンニュートラル達成に向けた移行の在り方」を、2023年9月には、資源循環を活用してカーボンニュートラルと経済安全保障の両立を実現していく政策として、「エネルギー政策と資源循環政策の一体的推進」というテーマで政策提言をとりまとめています。

社会全体で、これらの取り組みを「コスト」ではなく「未来への投資」と位置づけ、新たな産業競争力につなげていくことが重要であり、カーボンニュートラル達成には、消費者、企業、政府、自治体、研究機関、非営利団体等、全てのステークホルダーの参画が不可欠です。

当社は全てのステークホルダーの皆さまのカーボンニュートラルへの挑戦を後押しするための政策提言、研究活動、コンサルティングを推進しています。
2050年カーボンニュートラル達成に向けた3つのキーポイント
2050年カーボンニュートラル達成に向けた3つのキーポイント

ガバナンス

気候変動問題への対応は、当社グループの脱炭素化だけでなく、グループの知見を活かし社会価値向上に貢献できる重要なテーマです。当社は社長が最高サステナビリティ責任者(CSO)に、コーポレート部門長がサステナビリティ経営責任者となり、活動推進を統括しています。また、環境価値に関する方針や施策の管理は、サステナブル経営推進室が担っています。審議決定事項は、グループ経営企画部長が起案し、サステナビリティ経営責任者、CSOおよび経営戦略委員会の承認を得た上で、経営会議で決定しています。取締役会は、サステナビリティに関わる基本方針、定期的な計画の進捗状況などについて監督しています。2023年度の取締役会では、中計2026におけるサステナビリティ経営方針および温室効果ガス(GHG)排出量、再生可能エネルギー比率などの環境目標を含むマテリアリティ目標および2023年度の取り組みの進捗について確認しました。
サステナビリティ経営・気候変動に係る審議実績
サステナビリティ経営・気候変動に係る審議実績

戦略

(1) 当社グループにおける気候変動リスクと機会

当社グループの主な機会は、市場ニーズの変化を的確に受け止め、気候変動関連の事業(緩和プロジェクトや適応プロジェクト)が伸長することです。

一方、主なリスクとしてはカーボンプライシングによる影響(本検討においては炭素税導入による直接的な損益への影響のみを想定)や気候変動による災害激甚化に伴う経済低迷による受注減などが考えられます。さらに、当社グループはデータセンターを保有しており、当該施設の電力使用に起因する電力価格上昇リスクや、同施設の立地や頑強性を考慮した物理的リスクを、保険料上昇リスクとして抽出しました。また、事業機会としてあげた気候変動に係るコンサルティング関連のニーズへの対応が遅れれば、プロジェクト失注リスクともなりえます。

緩和プロジェクトとは、気候変動の影響の緩和に資するプロジェクト。適応プロジェクトとは、気候変動に適応するための施策に係るプロジェクト。

三菱総研グループにおける気候変動のリスクと機会
三菱総研グループにおける気候変動のリスクと機会

(2) 気候変動シナリオの考え方

厳格な対策(炭素税、環境規制等)が導入され、社会全体が積極的に気候変動対策に取り組むシナリオ(1.5℃シナリオ)と、厳格な対策は導入されず、自然災害が激甚化・頻発化するシナリオ(4℃シナリオ)の2種類の気候変動シナリオを前提に、2030年の財務影響を分析しました。

1.5℃シナリオについては、当社のカーボンニュートラル提言に加え、IPCC1.5℃特別報告書(SR15)、IEA WEO NZE2050等、4℃シナリオについては、IPCCのRCP8.5等をそれぞれ参照。

(3) 財務影響分析の考え方

現状の当社グループの事業を気候変動関連領域/その他戦略領域に分類し、2030年時点のそれぞれの事業規模を想定した上で、新たに創出される新領域の事業拡大、炭素税等の対応コスト等を考慮して財務影響を算出しました。なお、気候変動関連領域の事業機会として、前述したカーボンニュートラル提言における「3つのキーポイント」の実現に向けた事業展開を織り込みました。
事業・財務影響評価の考え方
事業・財務影響評価の考え方

<想定変動ケース>

2つの気候変動シナリオに加え、気候変動関連領域の事業戦略を2通り(成長/標準)設定することにより、計4通りの財務影響を分析、「機会」の取り込みの成否が財務価値に与える影響を「見える化」しました。

1.5℃シナリオでは炭素税導入や電力料金上昇、炭素税導入に伴う経済減速、4℃シナリオでは、適応失敗(厳格な対策が実施されず、自然災害が激甚化・頻発する等)による経済的影響を勘案しました。4通りの諸元は下表のとおりです。
財務影響分析の諸元
財務影響分析の諸元

(4) シナリオ分析に基づく気候関連リスクと機会の当社事業への影響

2030年の当社グループの気候関連リスク・機会の財務影響は以下のとおりです。
当社グループにおける気候変動による財務影響評価
当社グループにおける気候変動による財務影響評価
1.5℃シナリオでは、当社グループのGHG排出量や電力使用量が少ないため炭素税導入の影響や電力価格の上昇等の財務に与える影響は軽微であり、成長戦略における事業機会の取り込みが当社の事業により大きな影響を与えると見込まれます。

4℃シナリオでも、自然災害の激甚化による経済減速の影響を緩和する観点から、事業機会の取り込みが重要であることが明らかになりました。なお、当社グループが保有するデータセンターについては、その立地と建物強度を勘案し、2030年時点での自然災害リスクは極めて僅少と評価しました。

以上から、気候変動による当社グループの財務影響は小さく、気候変動に対する耐性が高く、強靭であると考えます。いずれのシナリオでも機会の取り込みの財務影響が比較的大きくなりましたが、1.5℃シナリオの方が4℃シナリオよりもプラスの影響が大きく、カーボンニュートラル提言で示したあるべき社会(1.5℃シナリオ)の実現が、当社グループの価値向上にもつながる重要な社会価値であることが確認できました。

(5) 対応策

当社グループにとっての気候関連の主な機会はカーボンニュートラルに向けた事業環境の転換であり、主なリスクは炭素税導入による損益への影響等であることが明らかとなりました。

<機会を伸ばす対応策>

カーボンニュートラルに向けた事業環境の転換への対応策は、カーボンニュートラル提言において示した3つのキーポイント(①電力部門の早期ゼロエミッション化、②戦略的なイノベーションの誘発、および③需要側の行動変容)について、関連分野での政策検討支援や民間企業へのコンサルティング業務を拡大していくことであると考えます。

具体的には、政府の2050年カーボンニュートラルに伴う成長戦略における14の重要分野でのイノベーション促進、カーボンプライシング、サステナブルファイナンス(環境などのサステナビリティに関する要素を経済活動への資金提供に統合すること)、国際連携等の各分野における政策形成や民間コンサルティングの拡大を図るとともに、気候変動がもたらす中長期的な外部環境変化を当社グループ全体で共有し、グループ内の高度な知見やノウハウ、ネットワークを活用することで、新たな事業を創出していくことが重要であると認識しています。

<リスクを低減させる対応策>

主たる気候関連リスクは炭素税等のカーボンプライシングの導入です。

当社グループのGHG排出量は 7,686tCO2(2023年9月期)と少なく、かつデータセンターやオフィスでの電力使用に起因するScope2が大半を占めます。炭素税等のカーボンプライシングの検討が進む中で、GHG排出量の削減を通じて財務影響を最小化する取り組みは不可欠です。当社グループとして再生可能エネルギーの導入を積極的に推進、特にデータセンターの再生可能エネルギー比率向上等を進めるほか、業務効率化や生産性向上、ワークスタイル改革、オフィスのLED化等を進め、電力由来のGHG排出量削減を図ります。さらに炭素排出量を取引する市場の制度設計への貢献で蓄積した知見を踏まえ、国内外のCO2等の排出削減プロジェクトから生じた削減実効性の高い炭素排出権(クレジット)の活用も視野に入れ排出削減に取り組みます。また自主事業として進めるメガソーラー事業での再生可能エネルギー由来の発電事業に取り組むことで 排出削減に貢献します。

指標・目標

2050年のカーボンニュートラル達成に向けて、当社グループの脱炭素化を確実に進めていくため、GHG排出量と再生可能エネルギー比率の2つの指標を設定しています。これらは、サステナビリティ経営へのコミットメントを示す指標として、取締役の役員報酬の一部と連動しています。

GHG排出量: 2030年4,800tCO2(2013年比57%減)、2050年排出量ゼロ
再エネ比率: 2030年65%、2050年100%

GHG排出量(スコープ1、2)・再生可能エネルギー比率の実績/目標
GHG排出量(スコープ1、2)・再生可能エネルギー比率の実績/目標

リスク管理

当社グループは、グループ全体のリスクマネジメントの最終責任者である社長がリスクマネジメント担当役員を任命するとともに、統括部署としてリスク管理部を設置しています。リスク管理部は、全社リスクマネジメントの枠組み(ARMS)として、グループ企業のリスク管理部署と連携し、リスク予兆の把握および緊急時のリスクマネジメントを実施しています。ARMSでは、月次でリスク予兆を全社から把握した上で経営会議に報告するとともに、内部統制・リスク管理委員会(委員長:社長)を年4回開催し、総括と年度方針・計画を年1回以上、経営会議に付議した上で取締役会に報告しています。

現時点における、当社グループ事業に影響を及ぼすリスクは、有価証券報告書に記載のとおりです。例えば同報告書の記載では、大規模な災害等に関するリスクや情報セキュリティに関するリスクの誘因として、気候変動による自然災害の増加等をあげています。TCFDの枠組みに沿った開示の検討過程で抽出された気候関連リスクと事業および財務影響分析の結果は経営会議、取締役会に報告し、あわせて留意すべき気候関連リスクについては、内部統制・リスク管理委員会において共有し、ARMSにより管理します。