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2050年カーボンニュートラル実現に向けた提言

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2021.9.7

株式会社三菱総合研究所

サステナビリティ
株式会社三菱総合研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:森崎孝)は、2050年までのカーボンニュートラルの実現に向けたキーポイントとして、①電力部門の早期ゼロエミッション化、②戦略的なイノベーションの誘発、③需要側の行動変容の3点を掲げ、それぞれに関し変革を後押しする具体施策を提言する。

2050年カーボンニュートラル達成に向けた三つのキーポイント

2021年9月現在、カーボンニュートラルを宣言した国・地域は120を超えており、脱炭素化に向けた動きは世界的な潮流となっている。日本も2020年10月に「2050年カーボンニュートラル」を宣言したが、発電量に占める火力発電の割合が7割を超え、産業部門のエネルギー消費割合が大きいこともあり、その達成は他国と比べても容易ではない。しかしながら、三菱総合研究所では、次に示す3点を適切な時間軸のもとで実行することにより、2050年までのカーボンニュートラルの達成は実現可能と考える。

①電力部門の早期ゼロエミッション化

日本のカーボンニュートラル達成には、電力部門のゼロエミッション化は最初の必要条件となる。今後、再生可能エネルギー(以下、再エネ)はさらに進展するが、電力安定供給の観点から一定程度の火力系の発電設備は必要となる。そのため、火力系電源の脱炭素化を進めるために、水素発電、アンモニア発電、CCUS(二酸化炭素貯留・有効利用・回収)等の適用が必要となる。また、再エネの導入が進むにつれ出力抑制により無駄が大きくなるため、系統増強、蓄電池活用、需要施設の移転といった対策を組み合わせ、社会コストの低減を図ること、および、脱炭素化に向かうための持続的な事業環境整備も重要となる。

②戦略的なイノベーションの誘発

カーボンニュートラル達成のためには、技術・制度両面でのイノベーションが必須になる。産業部門では特に鉄鋼、化学、セメント等の素材系産業のイノベーションの実現が鍵となる。これらは技術的な課題は大きいものの、商用化までつなげることができれば新たな産業競争力にもなりうる。総花的な取り組みではなく、社会実装までを見据えた重点分野への戦略的な投資が必要になる。また、家庭・業務・運輸部門では技術革新よりも、膨大な数の需要家設備に脱炭素技術を実装させる方が課題として大きい。中長期的には規制的措置を含む大胆な政策アプローチが不可欠だろう。

③需要側の行動変容

需要側の行動変容とは、「エネルギーを利用する企業や消費者(需要家)が、価値観の変化やインセンティブなどを契機として脱炭素化に向かう選択をすること」である。例えば、企業が購入電力を再エネ由来に切り替えたり、人々が自動車をガソリン車から電気自動車に買い替えたりといった行動も該当する。需要側の行動変容は「今からでもできる」対策であり、脱炭素化への動きを加速させる重要な役割を持つ。

需要側の行動変容によるカーボンニュートラルの貢献

三つのキーポイントのうち、時間軸上で最も早期に取り組むべきものは「需要側の行動変容」になる。需要側の行動変容は、従前のエネルギー政策の議論では注目度が低かったが、イノベーションの実現とは異なり比較的早期に実施可能であることに加え、再エネ利用拡大、電力需要の構造変化、省エネ・燃料転換、EV(電気自動車)への転換といった産業・社会構造の転換にもつながることから、非常に重要な対策となる。

三菱総合研究所では行動変容のポテンシャルを分析するため、企業・消費者向けにアンケート調査を実施した。再エネ電力に対しては、7割強の企業、4割強の消費者が「コスト増を許容できる」と回答しており、脱炭素化への社会要請に直面している企業の意識は既に変化してきている。また、同アンケートでは化石燃料から電気への切り替え(電化)として電気自動車への切り替え意向が高まっていること、また、需要施設を移転する意向としてはサプライチェーン上の制約が少ないデータセンターでその検討が進んでいることも示された。これらの結果をもとに、需要側の行動変容によるCO2(二酸化炭素)削減ポテンシャルを試算したところ、約2億t-CO2が削減され、2013年度比では約14%減少との結果が得られた。行動変容の一つ一つは小さな変化だが、これらが積み重なり日本全体で見た場合は相応のボリュームを持つと考えられる。

需要側の行動変容を促すカーボンプライシングの提案

需要側の行動変容を促す具体策の一つとしてカーボンプライシングが挙げられる。カーボンプライシングの基本コンセプトは、資金の流れを通じて、「炭素を増やす行動」から「炭素を減らす行動」に企業や個人の行動をシフトすることにある。これを円滑に促すためには、電力、産業、民生・運輸の各部門の特性にフィットした制度設計を行うことが現実的である。

まず、電力部門は、排出主体が大規模・少数であるほか、卸電力市場を通じて火力の稼働率を調整することで短期的な排出削減が可能であるという特徴を持っている。他方、炭素コストを賦課しても大半が電気料金の形で電力需要家に転嫁される点に留意が必要となる。これらを踏まえると、電力部門には排出量取引を導入して有償で割り当てるとともに、それによる政府の歳入増加分を、一部の電力需要家に還元した上で、再エネの普及に向けた環境整備や、水素の技術開発等に充てることが望ましいだろう。

一方、産業部門は電力部門と同様に排出源が大規模・少数であるものの、削減対策については革新技術の開発に長期間要するものが少なくない。加えて、多くの業種は国際競争にさらされているため、炭素コストの賦課による影響に一定の配慮が必要だ。こうしたことから、産業部門に対しては排出量取引を導入しつつも、排出枠は無償で割り当て、長期目線で革新技術の開発を促すための原資を出し合う仕組みと組み合わせることを提案する。民生・運輸部門は、小規模の排出源が多数分散している点に特徴があり、また、ヒートポンプや電気自動車に代表される電化設備への更新が削減対策の中心となるだろう。特に自動車は日本経済をけん引している産業であり、サプライチェーンを通じて国内の中小企業に与える影響が大きいだけでなく、自動運転などIoTも絡んで将来性の高い分野でもあり、早期に国内市場を形成して変革を後押しする視点が欠かせない。そこで民生・運輸部門については脱炭素賦課金(炭素税の一種)を導入するとともに、その財源を活用して設備導入補助と組み合わせることが有効である。

カーボンニュートラルを社会変革の契機に

現在、炭素国境調整措置など通商ルールの中にも脱炭素化の動きが組み込まれ、世界的な潮流はますます強くなっている。カーボンニュートラルの達成は容易ではないが、取り組みを「コスト」ではなく「未来への投資」と位置づけ、新たな産業競争力につなげていくことが重要である。カーボンニュートラル達成には、消費者、企業、政府、自治体、研究機関、非営利団体等、全てのステークホルダーの参画が不可欠である。本提言がカーボンニュートラルに関連する多くの方々の挑戦を後押しすることを願っている。

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