円滑な脱炭素社会への移行にあたっては、必要な領域に資金移動を促し、日本の産業構造や経済を脱炭素型にシフトさせることが不可欠になる。カーボンプライシング(CP)は、炭素価格の顕在化を通して需要家の行動変容を促す効果と、歳入により脱炭素技術の研究開発や社会実装に係る必要投資を支える効果の両方が期待され、行動変容と技術革新をつなぐ架け橋となりうる。
前者はCPの価格水準が行動変容を促す意味で十分かが論点になる。企業・消費者向けに実施したアンケート調査では、現在想定されているCPの水準感である2,000円/tCO2程度では行動変容を起こす消費者・企業の割合は15~40%程度にとどまっている。国際水準とも照らし合わせ、行動変容を促すための適切な炭素価格を設定することが必要だ。
後者は、2023年5月に成立したGX推進法では今後10年間で官民合計150兆円の投資が見込まれているが、当社試算からは脱炭素化を達成するのに必要となる投資は2030年以降も拡大し、2050年までの累計で再エネと次世代自動車関連を中心に少なくとも320兆円以上の規模が必要となることが示された。政府の主体的な関与と同時に、民間の投資予見性を上げるため、炭素価格に対する中長期的な方向性の明確化が求められる。