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2018年2月号トピックス6情報通信人材

AI・IoT時代に求められる事業開発の質

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2018.2.1

政策・経済研究センター木根原 良樹

情報通信

POINT

  • AI・IoT時代には「安くて高性能」が当たり前に。
  • 際立った商品開発のため顧客の潜在ニーズを洞察できる人材の確保を。
  • 多様性に富む開発チーム編成と、素早い進化サイクル構築が鍵。
世界中でAI・IoTが、コールセンター自動化などによる業務効率アップや、大量の顧客データ分析に基づく新事業開発を加速させている。この結果、「安くて高性能」は当たり前となりつつある。企業が勝ち残るには、際立った特長をもつ商品やサービスを打ち出せるよう、事業開発の質を上げられるかどうかがポイントになるだろう。

従来の事業開発では、営業、技術、財務など各部門のエース級を集め、その提案を幹部が承認することが多かった。顧客の意見をそのまま吸い上げて開発された新商品・サービスは、競合する他社と似通ったものにならざるを得なかった。では、AI・IoT時代に合った事業開発には、何が必要なのだろうか。まずは、顧客自身が気付いていない潜在的なニーズを洞察する能力をもつ「デザイン人材」であろう。

ここで言うデザインは、商品の外見ではなく、コンセプトや使い勝手を含め、商品・サービス全体を形にするという、広い意味だ。 優れた洞察力やコミュニケーションスキルを会得したデザイン人材を、部門や社内外を問わず発掘・起用する。さらに外国人スタッフや顧客、有識者といったメンバーを加えて多様性に満ちた事業開発チームを編成すれば、個性がかち合って化学反応が起き、他社との差別化につながる価値を創出することができる。

作り出された価値を経営に組み込む環境を整備することも肝要である。試作品に対する顧客の評価を進化につなげる過程を、素早く繰り返せるようにするのだ(図)。AI・IoTはデータ分析の迅速化などを通じて、このサイクルをスピードアップさせる上で、絶大な効力を発揮する。

分かりやすい成功例は、アップルのiPhoneだろう。携帯電話の枠を越えた製品として定着した後も、ユーザーのニーズを先取りし続けている。日本にも好例がある。富裕層のコト消費を喚起した、JR九州の豪華寝台列車「ななつ星」である。半年ごとに運行コースを変えるなど進化を続けている。AI・IoT時代の企業経営においては、こうした他の追随を許さないほどの特長をもつ商品・サービスを開発できる体制づくりが、ますます重要になる。
[図]特徴ある商品・サービスの開発サイクル