マンスリーレビュー

2018年2月号トピックス5ヘルスケア

メディカル・セルフリライアンスの提唱

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2018.2.1

プラチナ社会センター奥村 隆一

ヘルスケア

POINT

  • 生活習慣病多発の時代。患者と医師の関係を見直す転機が訪れた。
  • 重要なのは患者の「自律性」だが意識変革に課題。
  • 公的医療保険に「患者自身の行動に対するインセンティブ」を付与しよう。
長寿化が進めば、生活習慣病など、加齢に伴う慢性的な疾患と長期間向き合う必要が生じる。そのとき、患者と医師の関係性はどう変わるべきか——。「メディカル・セルフリライアンス」(自律的医療)の考え方を提案したい。

メディカル・セルフリライアンスとは、医師の専門的な助言を得ながら、心身を患者自身が適切に管理し、治療方針を主体的に決めるべきという考え方※1である。年齢を重ね、若い頃より身体能力が衰えてもイキイキとした人生を送りたいと思うとき、どのような医療やリハビリと向き合うのか。まずは患者自身が自分の身体にもっと関心をもつ必要がある。治療方針の決定を他人である医師任せにせず、患者自らが自分の健康状態や病状を管理し、治療行動を主体的に実施すれば、治療効果はさらに高まると考えられる(図)。

しかし日本では、患者自身の「当事者意識」が不足しているという問題がある。健康のための運動や食生活を日頃から心がけている日本人の割合は、低い水準にある。日本の医療制度の長所ともいえるフリーアクセスの仕組み※2や、患者負担を軽減する健康保険などが、制度本来の意図に反して国民の病気に対する危機意識を低下させているのかもしれない。

確かに患者の意識、さらには行動を変えるのは簡単ではないだろう。では、「患者自身の行動に対するインセンティブ」を公的医療保険の仕組みに加えてはどうか。例えば、日頃の行動に応じてその後の自己負担率ないし保険料を増減させる。処方された薬をきちんと服用したり、生活改善の取り組みを続けたりした場合、通常よりも少ない費用負担で済むようになる。

あるいは、生活習慣病の患者個々人に改善効果が見込まれる方法をアドバイスし、これからの医療費をどの程度節約可能か示すことも有効ではないか。AIを活用して、スマホを通じてアドバイスすれば運用側の負担も軽減できる。患者の行動変容によって重症化を予防すれば、QOL※3向上のみならず、医療費増加を抑える効果も期待できる。

※1:日本では戦後まもなくは衛生上の問題から結核菌や肺炎球菌などによる感染症が多発、医師に診断や治療方針の決定権を委ねざるを得なかった。ところが、生活習慣病の患者の増加に伴い、現在では食生活に気をつけたり、日常的に運動を行うなどの患者自身による取り組みが不可欠となった。今 後、患者による治療への積極的な関与がますます重要となる。

※2:原則としてどの病院を選んで受診してもかまわない仕組み。

※3:quality of life の略。一般的に、生活の質や人生に幸福を見出す尺度のことを指す。

[図]患者と医師の関係性の変化