コラム

MRIトレンドレビューヘルスケア海外戦略

中東のヘルスケア政策とビジネスの可能性

サウジおよびカタールのヘルスケアの動向と課題

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2023.9.6

海外事業本部中村 尚

本コラムでは当社がサウジアラビアとカタールにおいて重点活動領域のひとつとしているヘルスケア分野について紹介する。

両国の主な課題は、過体重や肥満の割合が大きく、糖尿病をはじめとする生活習慣病リスクが高いこと。医療サービスが遍在して、プライマリケア(初期医療)から専門医療までの階層的な役割分担が構築できていないことの2点である。両国政府はこれらの課題を解決できる日本企業などとの幅広い連携を期待している。

関心が高まるヘルスケア分野

中東諸国の中でも当社がドバイ支店を通じて重点市場と捉えているサウジアラビアとカタールは、共に2030年をターゲットとした国家ビジョンを立てている。そして、その中でヘルスケアを重要な柱としており、化石燃料資源による国家収益を国民に還元する策の1つとして注力している。

両国のヘルスケア市場に注目するにあたり、まず押さえておきたいのが特徴的な人口構造である。一般的に人口ピラミッドは男女ともに同様の分布を示すが、サウジでは40~45歳の男性が多く※1、カタールは30~35歳の男性が多い※2。このように成人男性が成人女性に比してある年齢層で多いといういびつな人口構造となっている。両国共に出稼ぎ労働者を中心とした在留外国人が統計に含まれており、その多くが働き盛り世代の男性であることが背景としてある。

さらに近年、欧米の食文化や生活様式、各種製品の浸透、さらに女性の権利拡大を背景とした社会進出の進展など、経済的な成長に伴うライフスタイルの変化や多様化が急速に進みつつある。

両国は、このような独特な地域特性とライフスタイルの変化に伴い、ヘルスケア領域で、大きく2つの課題を抱えている。

第1に、生活習慣病患者の増加である。肥満が増加していることで、高血圧症や糖尿病、心血管疾患などの患者が増加しつつある。図1のとおりサウジとカタールでの過体重および肥満に該当する成人は、全体の人口の約60~70%を占め、欧州諸国と同等もしくは上回る水準に達している。

肥満と過体重に該当する成人の割合が非常に高いことや、増加する糖尿病などの疾病リスクに鑑み、両国共に国家的な取り組みとして疾病予防の促進に注力している。

例えば、カタール政府は国民の全成人を対象に国家的な検査プログラムを導入し、リスクの高い予備軍に対して適切なコンサルテーション(健康相談)やプライマリケアを受けることができる仕組みの導入を進めている※3
図1 8カ国における成人の過体重および肥満の割合※4
8カ国における成人の過体重および肥満の割合
出所:Global Obesity Observatoryをもとに三菱総合研究所が作成
第2に、専門的な人材の不足である。両国共に医療従事者の多くを外国人に依存するなか、医療の質の管理の難しさに直面している。

欧米などで高水準の医療を学んできた医師が賃金の高い都市部や大病院に集中し、賃金の安い地方部との格差が生じている。医師の不足を外国人医師でカバーしているものの、統一的な資格基準がなく、医療従事者からサービス品質の差が指摘されている。

医療サービスの不均衡によって、中核病院に負荷が集中すると共に、プライマリケア中心の小規模な医療機関の活用低下を招いている。これにより日常的な健康管理や予防、専門的医療への連携といった、個人に寄り添ったサービスに支障が生じる懸念がある。

サウジ政府のヘルスケア変革プログラムは、医療の質的改善も掲げられており、患者を中心としたValue-based Care modelの実現を目指している※5
図2 カタールの公的な医療機関であるハマド病院
カタールの公的な医療機関であるハマド病院
出所:三菱総合研究所撮影

課題解決に向け、民間企業の貢献に期待

このような課題の解決に向け、両国政府は民間活用による医療サービスの高度化・最適化を進めている。

これまでサウジ保健省は公立医療機関も所掌していた。しかし、2022年にHealth Holding Company(以下、HHC)が設立されたことで、公立医療機関の運営はHHCが担い、保健省は規制監督に徹することとなった※6

HHCは21カ所に分けられたヘルスケア・クラスター単位で運営されている。医療機関の整備、管理・運営の民間移管等を行い、競争原理を働かせることで、透明性かつ効率性の高い医療が提供できる体制を構築していくこととしている。

さらに医療サービスの高度化の面で、サウジ保健省は民間技術の活用、特に外資系民間企業への期待が高い。従前から関わりが強かった欧米系企業のみならず、日本も含めた企業や技術の参入にも高い関心を持っている。

現地で既に事業を展開している日本企業もある。例えば、医療ICTソリューションの開発・提供を行う株式会社アルムはドバイに中東市場向けの営業拠点を有しており※7、医療関係者のコミュニケーションを支援するアプリ「Join」の販売を行っている。サイバニクス技術を活用して研究開発された医療用の装着型サイボーグ「HAL」の製造販売を担うCYBERDYNE株式会社も、サウジ国内の医療機関への普及に取り組んでいる。

ただし、石油・ガス関連以外での中東地域への日本企業の進出は少数であり、医療・福祉関連に該当する拠点数は数えるほどである※8

日本企業の市場参入機会の創出に向けて

当社はサウジ保健省ならびにカタール保健省との関係構築を進めている。

特に、サウジ保健省に対してはビジョン2030におけるヘルスケア分野の目標達成に資するべく、日本市場において培ってきたヘルスケア分野での知見活用を提案している。具体的なテーマとしては、医療資源の最適化に向けた計画策定支援、疾病予防、地域包括ケアシステムなど、当社が得意とするヘルスケア・ビッグデータ解析を踏まえた政策策定やデータ活用支援が挙げられる。

また両国共に糖尿病などの予防が重要な取り組みとして位置づけられており、健診プログラムが確立されている日本の政策知見を活用できる部分が少なくない。

当社はこれらの政策分野での貢献領域を探る一方で、両国と日本の政府間協力の枠組みなども活用しつつ、日本のヘルスケア関連企業の参入支援も進め、現地のヘルスケア分野の課題解決に総合的に寄与できるよう活動を進めている。
図3 サウジ・カタールにおけるヘルスケア領域の社会課題と当社の価値貢献
サウジ・カタールにおけるヘルスケア領域の社会課題と当社の価値貢献
出所:三菱総合研究所
図4 サウジアラビア保健省が入居するデジタルシティのビル
サウジアラビア保健省が入居するデジタルシティのビル
出所:三菱総合研究所撮影

※1:United Nations World Population Prospects 2022, Saudi Arabia
https://population.un.org/wpp/Graphs/DemographicProfiles/Pyramid/682(閲覧日:2023年3月28日)

※2:United Nations World Population Prospects 2022, Qatar
https://population.un.org/wpp/Graphs/DemographicProfiles/Pyramid/634(閲覧日:2023年3月28日)

※3:Qatar National Diabetes Strategy
https://andp.unescwa.org/sites/default/files/2020-10/Qatar%20National%20Diabetes%20Strategy%202016-2022.pdf(p24、閲覧日:2023年3月14日)

※4:Global Obesity Observatory
https://data.worldobesity.org/tables/(閲覧日:2023年3月28日)

※5:Saudi Arabia Health Care Sector Transformation Program
https://www.vision2030.gov.sa/v2030/vrps/hstp/#:~:text=The%20Health%20Sector%20Transformation%20Program%20aims%20to%20restructure,%28including%20the%20citizen%2C%20the%20resident%20and%20the%20visitor%29.(閲覧日:2023年3月14日)

※6:Saudi Ministry of Health announces role of new Health Holding Company
https://www.healthcareitnews.com/news/emea/saudi-ministry-health-announces-role-new-health-holding-company(閲覧日:2023年9月4日)

※7:株式会社アルム
https://www.allm.net/about-us/(閲覧日:2023年3月14日)

※8:海外進出日系企業数調査2021 外務省
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/ec/page22_003410.html(閲覧日:2023年3月14日)

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