元柔道選手 菊池教泰氏 セカンドキャリアインタビュー(5)

引退アスリートのキャリア成功の鍵

2020.9.28

これまでの振り返り、そして新しい取り組み

—— 2009年に起業され、10年以上が経過しています。これまで、この会社で成し遂げたことを教えてください。

菊池 社名デクブリールに由来する、あらゆる人たちの可能性を見いだし発見するということは、実行できていると思います。そこからくる使命「人と組織の可能性を最大化すること」に向かって、日々活動しています。経営者・管理職・スポーツ指導者・教員・保護者といった「人を導く立場の人を導く」というアプローチも、CSR活動を通して行っています。

—— 菊池さんが今後の人生で成し遂げたいことやビジョン、新しい取り組みなどがありましたら教えてください。

菊池 これからも、「人に影響を与える人たちに影響を与える会社」として、突き進んでいきたいと思います。新しい取り組みとしては、2019年に一般社団法人 日本スポーツチームアセスメント協会(JSTAA/ジェスター)を立ち上げ、代表理事に就任しました。

—— それは、どういう団体なのですか?

菊池 まず、この協会を設立した背景からお話しします。2018年はスポーツ界でさまざまな問題が発生し、世間で注目を浴びた事で、日本スポーツ界のガバナンスやコンプライアンスの欠如が、一般的に問題視されるようになりました。この協会は、そのスポーツ界の大問題を解決に導き、日本スポーツ界の発展に貢献し、かつ選手と指導者の両方を守り、成長させるために設立した協会です。具体的には、スポーツチーム(部活動を含む)に対し、第三者チェックとして客観的に評価を行う「スポーツチームアセスメント」を行っています。

—— たしかに、今までスポーツチームに対して第三者チェックをするという発想がなかったですね。どこから、発想を得たのですか?

菊池 私は、普段、デクブリールで企業・スポーツ・学校教育に関わっています。その中で気づいたことが、企業においては株主総会、税務調査、労基署の調査、外部監査など第三者チェックの仕組みが存在し、その仕組みがやってはいけないという「抑止力」と、どうしたらよくなるかという「教育」につながっています。しかし、スポーツ界にはそのような仕組みが存在していない。

—— 企業・スポーツ・学校教育に関わる菊池さんだからこそ、気づかれたのかもしれませんね。

菊池 スポーツチームアセスメントを通じて、普段は顕在化されていない「チームの現状を可視化」することで、よりよいチームをつくるための材料を手に入れることができます。指導者の方が「第三者チェック」と聞くと、自身の指導を否定され、おとしめられるという抵抗感があるかもしれません。しかし昨今、指導方法には大きな問題がないにもかかわらず、「偏った見方」あるいは「悪意に満ちた見方」により、パワハラだと不当に告発されてしまうという問題が起きています。こうした時に、指導内容が可視化されていないと、事情を知らない世間は、告発者の主張に一方的に肩入れし、指導者は不当におとしめられる危険性があります。こういった観点から、第三者チェックは、逆に指導者を守るためのものでもあるのです。
今、経営者の方と接する中でも、「自分自身のことは見えないのだ」と強く感じます。これは、私も含めて、人はみなそうなのです。当然、スポーツ指導者も当てはまります。だからこそ、今の自分がどうなっているのかを、第三者の力を借りて、客観的に知ることは重要であり、スポーツチームアセスメントを文化として根付かせていきたいと思います。
写真1
スポーツチームアセスメントについて語る菊池氏:動画「スポーツチームアセスメントとは?」
https://youtu.be/afUU0mgiwhg
—— 菊池さんにとって、人生のターニングポイントは、振り返ってみてどこだと思いますか?

菊池 JRAを退職したことだと思います。一流企業であり、普通に考えれば辞めないです。親にも周囲にも辞めるのは、大反対されました。メンタルを崩してしまったこともありますが、「辞める勇気」をよく持てたと、自分でも驚きです。

—— 柔道とは異なる道を歩まれたことで、その後、認知科学に基づくコーチングとの出会い、そして起業、さらには日本スポーツチームアセスメント協会の発足とつなげてこられた。一方で、それは柔道という素地(そじ)があったからこそではないでしょうか。

菊池 まさに、おっしゃるとおりだと思います。実は、柔道をしていた時と現在の仕事はつながっており、大きな共通項がありました。それは、私という人間が「考えて法則化していくプロセスが好きだ」ということ。バラバラになっているものを法則化し、整合性を持たせるようなことが、私は好きなのです。これは「抽象化能力」と呼ばれるものです。柔道現役時代も、うまくいったことの共通項を見つけてパターン化し、公式のようなものに昇華させたことで、急激に強くなりました。自分にとって、柔道の稽古をすることは、パターン・公式の更新だったのです。一方、現在の仕事も、書籍から知識を得たり体験を積み重ねたりする中で、理論(パターン・公式)を常にブラッシュアップしています。現在も柔道時代と同じことをしていることに気づきました。

—— 「自分でモノを考える」というのは、元来の資質だったのでしょうか?

菊池 いえ、違うと思います。実際に自分でモノを考えるきっかけとなったのは、「インベント オン ザ ウェイ」の例でもお話しした、高校2年生からだと思います。しかし、その素地(そじ)としてしっかり勉強をしてきたというのは大きいと思います。人は知識がないと、認知できる範囲が狭まり、モノを考える幅も狭くなってしまうので。

—— 幼いころから、しっかり勉強されていたのですね。聞けば、中学時代は学年1位の成績をとり、高校時代も卒業時に優等賞、大学時代も3年で全て単位を取り終えたとか。

菊池 はい。親の教育がよかったのだと思います。確実に、今の自分に影響を与えています。

—— また、小学校時代は児童会長、柔道においては中高大の全てで主将を務められ、こちらも幼い時から人前で話をする、リーダーシップを発揮するなどの機会が多かったのではないでしょうか。

菊池 そうですね。そのことも、現在の仕事につながっていると思います。

—— 今までの話を総括し、ご自身の性格を表現するとどうなるでしょうか。

菊池 世の中のためになりたいというような大義があると、ものすごいパワーを発揮する性格だと思います。まさに、強い感情を伴ったゴール設定ですね。また、考えて法則化していくプロセスが好きという特徴もある。幼い時から人前に立つことも多かったですが、それも強みであり、そういったことの複合体として今の自分があると思っています。
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