マンスリーレビュー

2022年11月号特集2デジタルトランスフォーメーション情報通信

「つなぐ」ことで地域課題解決を

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2022.11.1

公共DX本部井上 尚紀

デジタルトランスフォーメーション

POINT

  • 地域課題解決のためには地域データの活用・連携が有効。
  • 利便性向上にはデータ活用に加え、サービス連携が効果的。
  • 個々のサービス連携だけでは限界。全体最適の実現へ。

地域課題解決にはデータ活用・連携が不可欠

データ活用の重要性は地域課題の解決でも例外ではなく、その地域特有のデータを活用することが有効である。ただし活用する主体自身が必要な全データを保有しているとは限らない。そのような場合は外部とのデータ連携が必要となる。

静岡県藤枝市の観光政策でのデータ活用策(EBPM※1)などは好例だ。観光で有名な蓮華寺池公園と、隣接する藤枝地区の2カ所でセンサーやGPS機能を用いて滞在時間や人口密度などの人流を解析する実証実験を実施した。公園利用者の利便性向上に向けた混雑状況の可視化や藤枝地区のまちづくりへのデータ活用を目的としている※2

公園内外の施設・サービスへの誘導効果、開催されるイベントによる人流への影響などの検証が可能となった。滞留地に案内板を新設する、誘導効果の高いイベントの広報を拡充するなどの施策につながる。人流データを活用すれば、利益率の高い出店場所を選べるだけでなく、ターゲットを明確にして看板の訴求力も高められる。

地域民間企業のニーズにも沿う。例えば不動産取得や出店戦略。地域の人口や駅別乗降者数などの統計データに加えて年齢や収入などの属性で層別された時間帯ごとの人流データを活用すれば、データに基づく戦略的な意思決定が可能となる。

データ連携に加えて「サービス連携」へ

データ連携は主にサービス提供側の自治体や企業にとってのメリットだ。一方でサービス受益者である住民のためには「サービス連携」が重要である。複数のサービスを利用する際、利用する行為や時間調整には当然ながら人の介在や仲介が不可避である。サービス間連携によりそれらを不要とすることで、効率性・利便性の向上が見込まれる。

例として少子高齢化・過疎化地域の交通手段の確保施策を提案する。一部自治体では過疎化に伴う利用者低迷により、路線バスの維持が難しくなりつつあり、利用者のニーズに応じて柔軟に運行する「オンデマンド交通」の検討・導入が始まっている。路線バスよりも財政負担が軽く、運行ルート外でも利用可能といったメリットがある一方、利用の都度予約が必要で、利用者側で調整作業が発生するとの指摘もある。

そこでオンデマンド交通の利用率・利便性向上施策として「住民ニーズに応じたワンストップ予約サービス」を提案したい(図)。例えば住民が通院前後にその足で買い物をする場合、オペレーターに要望を伝えるだけで通院と交通機関の予約をしてくれるコンシェルジュ的な機能があれば利便性が向上する。病院の診療時間や予約情報、スーパーなどの営業時間とともに、オンデマンド交通の予約情報・運行状況などの各種データを連携させて初めて横断的な機能が提供される。

このほか「イベントや窓口の予約」「子どもの一時保育サービス」など、地域住民のニーズに沿ったさまざまなサービスが連接することによる利便性向上が期待される。
[図] ワンストップ予約サービスのイメージ
[図] ワンストップ予約サービスのイメージ
出所:三菱総合研究所

サービス開発初期段階に相互接続性の確保を

サービス連携のメリットとしては、利用者側から見ると個別予約・調整の煩わしさが解消、サービス提供者側にとっては当該サービスの認知・利用率の向上がある。利便性向上は単に受益者側のメリットだけではない。サービスの認知・利用率が向上すれば、損益分岐点を超える利用者数を確保できる。すなわちビジネス持続とさらなる改善の原資として不可欠なのである。

ただしむやみに連携を進めればよいわけではない。個々のサービスが相互に協調できなければ、単なる個別最適化だけに終わってしまう。本来連携が必要なサービスが分断されれば、利用者自らが各サービスを使い分ける負担が生じる。

利用者の負担が増加すればするほど、サービスの利用を控える動きも強まるだろう。サービス提供側としても当該サービスの認知度向上が狙いどおり進まないおそれもある。

懸念を回避するには、サービス開発の企画段階から多数のサービスを連携することを念頭に置いて、相互接続性を確保することが望ましい。具体的には、外部サービスIDとの連携、営業情報・運行情報などのデータ取得、予約操作などをAPI※3と呼ばれる共通フォーマットであらかじめ提供することである。サービス間をつなぐための仕組み※4を介して連携を行うことも有効である。

※1:Evidence-Based Policy Makingの略。統計や業務データなどの客観的な証拠に基づく政策立案のこと。

※2:藤枝市WEBサイト(2021年9月24日更新)「藤枝地区の人流解析及び蓮華寺池公園の混雑状況可視化に向けた検証を実施しました」。

※3:Application Programming Interface。異システム間でデータ連携するための技術仕様。 

※4:特集3「デジタル社会を切り拓く『地域共創ポータル』」参照。