マンスリーレビュー

2022年11月号トピックス1テクノロジー経済・社会・技術

リアルと融合した拡張メタバースが描く未来

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2022.11.1

先進技術センター中村 裕彦

テクノロジー

POINT

  • メタバースにはリアルと融合した「リアルバース」も含まれる。
  • 多彩な先進事例があり、産業への早期応用が期待される。
  • 企業は今から自社事業への応用を真剣に検討すべきである。

注目が集まるメタバース

2021年秋ごろからメタバースへの注目が急速に集まっている。その主要な理由は3点ある。

1点目は、多くの人を集客し滞留させる場としての期待である。2点目は投資・投機対象としての期待である。メタバース内のバーチャルな土地やオブジェクトが、代替不能な唯一の存在として高額で売買される事例が報告されている。

そして3点目は、ビジネス利用への期待である。メタ ・プラットフォームズやマイクロソフトなどが遠隔コミュニケーションとコラボレーションを志向した製品を相次いで発表したためだ。

「リアルバース」を定義

メタバースの概念は最近拡張している。バーチャル空間で完結する原義のメタバースだけでなく、リアルとバーチャルが融合したものも、メタバースとされるようになった。

バーチャルのみのメタバースと、リアルとバーチャルが融合した場を対象とするメタバースでは特性が大きく異なる。当社は2021年に後者を「リアルバース」と定義して、原義のメタバースとは区別して考えている※1

リアルバースは既存のビジネスにバーチャルの要素を取り入れることで、より便利で快適な製品やサービスを提供できる。原義のメタバースと異なり、情報処理や通信のリソースが小規模でも実用レベルの体験価値を創出でき、スマートフォンやタブレット端末への提供例も多いため、早期の実用化が期待される。応用先も娯楽だけでなく製造現場、土木、建築、物流、販売、オフィスワーク、教育、医療、健康、観光など多岐にわたる。

リアルとバーチャルの融合社会に向けて

リアルバースを応用した製品・サービスの萌芽(ほうが)はすでに現れている。例えば夜の鳥取砂丘で「月面探査」を体験できるツアー※2や、自分の足が有名メーカーの靴を履いた姿をスマホに表示させて疑似的に試着できるアプリ※3が登場している。

こうした事例は既存の製品・サービスに付加するバーチャルな要素が少ないため、リアルバースの応用とは認識されにくい。ただバーチャルの割合が急激に高まるわけではなく変化もあまり不自然ではない分、技術の導入も比較的容易である。

2014年にラスベガスで開かれた音楽祭では、マイケル・ジャクソン(2009年に他界)のホログラムがリアルのダンサーと息のぴったり合ったライブを行い、観客の喝采を浴びた。このイベントは巨額資金を投じたデータ加工によって実現した先行事例だが、遠からず一般化するだろう。将来は地方にあるリアルのライブハウスで、遠隔地からバーチャル参加した大物アーティストと地元のミュージシャンがセッションするかもしれない。

いつの間にか誰もが、リアルとバーチャルの融合した場としてのリアルバースを使いこなす未来が予想される。萌芽がさまざまな分野で生まれている今こそ、企業は自社ビジネスへのリアルバース応用の可能性を真剣に考えるべきである。

※1:当社コラム(2022年7月28日)「メタバースの概要と展望 第3回:広義のメタバース(リアルバース)の可能性」。

※2:ベンチャー企業amulapo(アミュラポ)が実証実験を行った。

※3:通販サイト「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」の靴専門モールで、2021年9月に期間限定で公開された。