マンスリーレビュー

2022年11月号トピックス2最先端技術

防衛産業に「プロダクト・イノベーション」を

2022.11.1

フロンティア・テクノロジー本部尾野 航

最先端技術

POINT

  • 海外の防衛産業はデジタル技術を活用して製品を革新。
  • 日本ではプロセス革新による業務効率化が主眼である。
  • 官民一体のプロダクト・イノベーションで状況打開を。

撤退が相次ぐ日本の防衛装備品

日本企業が、防衛省に納入する防衛装備品の開発や製造の打ち切りを相次いで発表している。住友重機械工業の新型機関銃、コマツの軽装甲機動車(LAV)、ダイセルの緊急脱出装置など、枚挙にいとまがない。撤退の背景には、利益率が低く、長期的な収益見通しが立てにくい点がある。

一方で日本政府は、防衛装備の生産・技術基盤は「防衛力そのもの」であるとの認識を示すとともに、極めて重要な要素の1つであることから、「官民一体となって抜本的な対策を検討する必要がある」としている※1

海外の防衛産業はデジタル技術活用が盛ん

海外の防衛産業はデジタル技術を活用して新たな付加価値をもつ装備品を開発する「プロダクト・イノベーション」を進めている。

例えば、米ボーイングの「T-7A練習機」は、MBSE※2などの技術を活用して、機体の組み立てやメンテナンスを劇的に容易にしただけでなく、地上の訓練器材やシミュレーターと接続して、訓練レベルを従来よりも飛躍的に高度化した。

このような取り組みは官民双方にメリットがある。顧客である防衛省は利用している装備品を高性能化でき、企業は先端技術を獲得・蓄積して、自社の装備品の市場価値を高められる。

日本においてもプロダクト・イノベーションの事例はある。例えば自動車部品などを手がけるデンソーは、クラウド型の新たな社有車管理サービスを開発した。だが国内製造業の多くはデジタル技術の活用目的に、在庫管理の効率化や作業負荷の軽減、作業効率の改善といった「プロセス・イノベーション」を挙げている※3のが実情だ。

産業自体の活性化が急務の防衛産業においては、業務効率化の視点だけではなく、従来はまったく考えられなかった新しい防衛装備品の開発、サービス提供による売り上げ増が必要となろう。

プロダクト・イノベーションの効用

安全保障環境が厳しさを増し、宇宙、サイバー空間、電磁波領域といった「新領域」での防衛力向上も求められている。

一方で防衛白書によると、日本企業の防衛関連売上比率は平均4%程度※4にとどまっている。こうした状況を打開するため、新たな付加価値を生み出すプロダクト・イノベーションを、防衛産業を活性化させる起爆剤としてはどうだろうか。

プロダクト・イノベーションの具体例としては、リアルでは困難な極超音速実験をMBSEによってデジタルの世界で数多く繰り返して新たな装備品開発に活用することが挙げられる。3Dプリンターによる積層造形を通じて、緊急時の代替部品調達をスムーズにすることも考えられる。

防衛産業の顧客は防衛省・自衛隊に限られる。官民はこうした点を逆手に取って、連携を強化すべきである。研究開発や試作といったステップを官民がともに歩んでいく防衛装備品は本来、画期的な開発に適しているはずだ。

※1:日本経済団体連合会(2022年4月28日)「週刊 経団連タイムスNo.3543」。

※2:Model-Based Systems Engineering 多様なモデルを活用してシステムの設計や検証を効率的に行う手法。

※3:労働政策研究・研修機構(2022年3月24日)「調査シリーズNo.218」。

※4:防衛省『令和4年版防衛白書』 p.456。