「地域共創DX」でサービス創出

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2022.11.1

公共DX本部木下 玄

POINT

  • 「共助」による地域サービス変革を促す地域共創DXに着目。
  • サービスとデータの有機的連携で複合的課題の解決を。
  • 小さな実績・共感を積み重ね、取り組み範囲を段階的に拡張。

既存の延長では限界、地域サービスの変革を

これからの地域社会は、人口減少・高齢化、さらには公助の限界が指摘される中で、ライフスタイルの多様化に対応しつつ、複雑化する課題に対処可能な社会環境を整えねばならない。

実際、少子化・高齢化により、国内の人口は毎年90万人ずつ減少する見込みである※1。その結果、2045年には、7割以上の市区町村で人口が対2015年比2割以上減少する。3割近くの市区町村では65歳以上人口が全体に占める割合が5割を超える※2。これに伴い労働人口は減少し、地域社会・経済の疲弊は目に見える形で、日本の国力低下に直結することになる。

財政面でも地方自治体の状況は厳しい。歳入に対する経常経費の比率は1990年度に約7割だったが、2020年度に9割超まで膨らんだ※3

人口が集中する都市部から地方へ行けば行くほど、この傾向は顕著となる。既存の取り組みの延長では、行政サービスや生活水準の維持には限界があるのは明白だ。地域の多様かつ複雑な社会課題に対応するためには、今まさに地域サービスの変革が求められている。

公助から共助による地域サービスへ

地域サービスの主な担い手である地方自治体では、さまざまな変革やデジタル化が進みつつある。しかし地域住民と行政の間のコミュニケーション、さらには暮らしの質の向上という観点からは、まだまだ改善すべきことは多い。

その理由の1つに、既存の地方自治体におけるサービス提供モデルの限界があげられる。地方自治体のサービスは、ベンダーが提供するシステムを地方自治体ごとに調達することが一般的だ。俯瞰(ふかん)してみると、地方自治体ごと、さらにはサービスごとに、システムがバラバラとなり、コストは割高になる。加えて、個別サービスの利便性が向上しても、住民目線での総合的な便利さの実現にはつながらないケースが少なくない。住民にとっての地域サービスの利便性は、1つのサービスの範囲にとどまらないからだ。

例えば医療の偏在化は、医師不足の解消や医療機関の機能強化といった直接的な方法だけでは解決しない。住民が医療サービスにアクセスするための移動の足(モビリティ)を考慮することも必要である。課題解決に向けては、医療機能の情報を提供するサービスとモビリティ関連サービスを連携・組み合わせることが必要だ。

今後は人口減少と高齢化に伴う財政逼迫(ひっぱく)により、公助による地域サービスがさらに縮小していく。結果、住民自身の自助に頼った民間サービスの担う役割が拡大する。単体・個別の民間サービスがつながることで地域サービスの質が向上する可能性もあるが、サービスを提供する個社ごとの戦略が異なりサイロ化(分断)の懸念がある。

このように考えると、公助と自助をつなぐ「共助」の重要性が増してくる。今こそ地方自治体と民間企業が共創し共助を支える仕組みを構築することで、良質かつ持続可能な地域サービスを検討するタイミングではないだろうか。

「共助」を考えるにあたり、住民の暮らし、生活に着目し、住民目線のサービス連携を重視する必要がある。行政と民間企業間の1:nの連携にとどまらず、民間企業同士のn:nの連携を促す仕組み、すなわちアイデアをもった行政および民間企業などの共創を支える基盤を構築することがポイントになる。共創を通じ、各社は自社にない技術や考え方を他社から取り込むことで弱みを補完し、受益者側の多様なニーズに的確に対応できる。その1つの姿がデジタル技術を活用したプラットフォームである。地方自治体などのステークホルダーごとに新たな設備投資の抑制が可能で、取り組みのハードルが下がり物理的・地理的な制約なしに多様な主体を巻き込むことが可能になる。

地域共創DXは民間と行政の相乗効果を生む

それぞれの地域で行政と民間企業の枠を超えて、各主体が保有するサービスやデータを有機的に連携できれば、顕在化している複合的な課題を一体的に解決する新サービスの創出が可能となる。ポイントは、基本の部分を極力広域化して、共同利用を目指すことだろう。

デジタル技術の高度活用により複数の主体が提供するデータやサービスを連携し、地域の課題解決に資する地域サービスを提供する取り組みを、当社は「地域共創DX」と名付けた(図1)。共助によりリソース効率を最大化するとともに、イノベーションによるサービス価値の増大を実現する新しいサービス提供モデルだ。新サービス創出の結果として比較的安価な民間サービスによる「自助」が増大する。コミュニティの変革がその動きを定着かつ加速させ、行政による「公助」が縮小する中でも地域におけるサービス価値の総和を維持・拡大させることが可能となる。
[図1] 地域共創DXの取り組みイメージ
[図1] 地域共創DXの取り組みイメージ
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出所:三菱総合研究所

特徴は「地域ニーズへのフィット」と「選択可能性」

地域の行政および民間企業が共同で取り組む地域共創DXは、以下の特徴をもつ。

①課題の解像度が高く地域ニーズにフィット

各地域で顕在化している課題が対象となる。受益者の声を具体的かつダイレクトにサービス内容に反映することで、解像度が高く地域ニーズにフィットしたサービスを展開できる。

②多様なサービスから最適なサービスを選択

受益者は複数の民間企業のサービスから各地域で顕在化している課題に最も適したサービスを選択し、組み合わせて利用できる。参加企業は、他社のサービス、データと連携して活用する。自社サービスだけでは解決困難な課題にも取り組みが可能となり、事業機会の拡大が期待できる。

地域サービス創出の具体例

例えば、石川県能美市では医療と介護分野の情報共有を進め、高齢者に対して医療・介護サービスを的確かつ迅速に提供するために、「医療介護連携情報共有プラットフォーム」の構築を進めている※4。病院や介護施設、社会福祉協議会など多種多様な主体が目的と情報を共有し連携・補完することで、受益者である高齢者のQOL(生活の質)を向上させ、医療・介護従事者の負担軽減に寄与することを狙っている。これまで医療と介護に分断されていた情報を連携させ、公と私それぞれのサービス品質の向上に寄与する取り組みといえる。

医療・介護分野は、政府でも「保健医療データプラットフォーム」の構築など、医療と介護の横断的なデータ連携および活用促進が計画されている。各種法整備や規制改革が進むことで、さらなる地域サービスの創出が期待できる。

デジタル地域通貨の導入も地域共創DXを実現する際の選択肢の一つとなりうる。デジタルチケッティングなどの機能も有するデジタル地域通貨を介在させることで、小売りとモビリティといった異業種間のサービス連携が促される。導入により、地域住民の行動変容を促し、健康増進や地域消費の活性化を図ることが可能になる※5。地域通貨の利用実績のリアルタイムな活用は、地域住民へのさらなるサービス拡充につながる。

社会実装に向けた3ステップ

地域共創DXの効果を高める3つのステップを紹介しよう(図2)。
[図2] 地域共創の推進ステップイメージ
[図2] 地域共創の推進ステップイメージ
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出所:三菱総合研究所

ステップ1:サービス創出の実績づくり

対象となる課題の大小にこだわらず、「Quick Win(初期段階での小さな成功体験)」を重視したい。データ・サービス連携によるサービス創出で、成果を早期に受益者に提供するのだ。受益者からの迅速で適切なフィードバックは地域共創DXの意義や利点に対する共感材料である。小さな成功体験は次の共創に向けたモチベーションの種であり、民間企業の新規参入を促すきっかけとなる。

ステップ2:プラットフォーム実装によるサービス創出の定着・加速

サービス創出の継続性を高めるためには、サービス連携に係るコスト・手間を極力減らすことが有効である。連携技術の標準化に加えて、流通するデータの項目の定義統一、概念の整理など相互運用性を担保することで、新たな主体を巻き込む際の技術的な障壁の解消に寄与する。取り組みの活性を維持し、参加主体の新陳代謝を高めることは、地域共創DXを地域における基盤的かつ持続的な機能として定着させる上で極めて重要である。

ステップ3:地域間のサービス標準化・共同化

人材面と予算面の双方で限られたリソースを有効に活用することも考慮する必要がある。同様の取り組みを進める地域間で連携を図り、地域横断的にサービスの共同利用、標準化を進めることで、サービス創出に係るコストを地域間で分担できる。ナレッジやリソースの共有により、サービスの品質向上も期待できる。
1〜3のステップは最終目標である地域社会のDX化に至るマイルストーンである。その過程では、一つには統合的なデータ活用が重要となる。そして官民が手掛けるサービスの連続性、持続性を担保する新たな仕組みづくりが求められる。

本誌の特集2「『つなぐ』ことで地域課題解決を」特集3「デジタル社会を切り拓く『地域共創ポータル』」では、そのポイントを解説した。政府が掲げる「デジタル田園都市国家構想」、そして地域共創DXの実現に向けて、趣旨に賛同する仲間を増やし、高付加価値型の地域社会を目指す必要があるだろう。

※1:地方制度調査会(2020年6月26日)「2040年頃から逆算し顕在化する諸課題に対応するために必要な地方行政体制のあり方等に関する答申」。

※2:経済産業省(2018年9月)「2050年までの経済社会の構造変化と政策課題について」。

※3:総務省(2022年3月25日)「令和4年版地方財政白書」。

※4:能美市WEBサイト(2022年9月16日更新)「令和4年度能美市医療介護連携情報共有プラットフォーム構築基本計画策定業務にかかる公募型プロポーザルの実施について」。

※5:当社サービス・ソリューション「地域課題解決型デジタル地域通貨サービス『Region Ring®』」