マンスリーレビュー

2023年8月号トピックス2スマートシティ・モビリティデジタルトランスフォーメーション

自治体DXが「都市のデジタルツイン」を加速

2023.8.1

スマート・リージョン本部脇嶋 秀行

スマートシティ・モビリティ

POINT

  • 自治体によるデジタルツインの導入機運が高まった。
  • 単独の自治体の取り組みでは限界。
  • 共同運営による推進とDXが普及の鍵を握る。

デジタルツイン技術で3D空間に都市を再現

設計・製造分野での活用が目覚ましい「デジタルツイン技術」は、まちづくりや防災などにも応用が利く。こうした新たな取り組みは「都市のデジタルツイン」と呼ばれる。

デジタルツインを実現する技術には、現実空間の状況をセンサーなどでデータとして収集することが必須要件だが、代表的な取り組みとして、国土交通省が主導する3D都市モデルの整備・オープンデータ化プロジェクト「PLATEAU」※1がある。東京都はこの3D都市モデルデータを用いて、全国の自治体に先駆けて2021年度からデジタルツイン実現プロジェクト※2を推進し、河川監視カメラの画像や都営バスのリアルタイム位置などを可視化している。また人流については、地下空間も含めて混雑状況を可視化してきた。得られた結果を現実空間にフィードバックすることに期待が集まる。

デジタルツインの共同利用の可能性

東京都の取り組みは、都市整備の今後を考える上で意義深い。しかし自治体単独での取り組みは相応に費用の負担を要する。整備効果が明確ではないケースには予算化が困難な場合もある。自治体横断的なコスト削減策の検討も必要となろう。とりわけシステム構築面では、個別に構築したプラットフォームの乱立により、標準化は滞り、コスト高になることが多い。

こうしたケースでは、プラットフォームシステムの共同利用による経費圧縮の効果が大きい。行政事務は自治体間で大きな違いはないことを考慮すると、地域特性・環境が類似している場合には、自治体間の連携を積極的に行う方が得策だ。

自治体ポータルに関しては、総務省が経費削減や住民サービスの向上などを図るべくシステムの共同利用を進めている。すでに複数団体が、共同利用する「自治体クラウド」の取り組みを推進し、700以上の自治体が運用を開始した。デジタルツインでも、システムの共同利用が普及促進の大きなきっかけのひとつになると考えられる。

自治体DXの推進による民間企業への波及

今後は超高度情報化社会に向けた自治体DXが、システム共同利用、ひいてはデジタルツインの社会実装を促す可能性もある。神奈川県などでは、地域の課題をDXで解決する自治体間の広域連携研究会が立ち上がりつつある。DX推進の動きを機にデジタルツインプラットフォームを共同開発して、運用を開始する動きは加速しそうだ。

実際に複数自治体で、DX推進プロジェクトを起点に構築したデジタルツインのプラットフォームの共同運用を開始している事例がある。

民間企業にとっても、自社が保有するデータと自治体のオープンデータを用いてデジタルツイン上で繰り返しシミュレーションできるメリットは大きい。自治体DX推進とシステム共同利用という昨今の流れに相乗りすることは有意義ではないだろうか。

※1:自治体などが利活用する3D都市モデル空間を構築するプラットフォームシステムの整備、活用、オープンデータ化を推進するプロジェクト。

※2:2022年度は「衛星データを活用した予兆検知高度化検証」「地下埋設物の3D化の社会実装に向けた課題整理」「産学官でのデータ連携に向けた課題検証」に取り組んでいる。