コラム

持続可能な地域経営に向けたDX実践デジタルトランスフォーメーションMaaS

第4回:自治体・地域DXの戦略的推進に向けた課題とRegion Ring®の活用

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2022.4.26

イノベーション・サービス開発本部浜岡 誠

持続可能な地域経営に向けたDX実践

全体最適な自治体DX推進を目指す

第1回コラムでは、地域の課題を解決するファクターとして、①域内の経済循環促進、②住民の行動変容・社会活動参加の促進、③福祉サービスの負担軽減・社会参加機会の拡大、の3つを挙げた。これらを自治体に当てはめると、①は商工部署によるデジタル商品券の発行、②は企画部署による電子ポイント事業の展開、③は福祉部署による給付のデジタル化など、対応は所管の部署によって分かれている。

現実的な個別事例を積み上げていく意義もあるが、個別対応は2つの点で課題が生じやすい。第1に、各部署の個別最適化が、システム投資の重複による非効率につながる可能性があるほか、利用者サイドからみれば、複数のアプリを入れてそれぞれ利用しなければならず利便性の低下を招く。第2に、個別部署目線が強くなり、「消費や分配など多様な形での地域内資金循環が起こることが地域活性化・課題解決に資する」という、本来持つべき全体像の視点が薄くなる恐れがある。

全体最適の観点から、コストメリットや住民利便性、またEBPM(エビデンスに基づく政策立案)としてのデータ分析活用などを含め、戦略的に自治体DXを推進することが期待される(図1)。
図1 個別最適DX(左)と全体最適DX(右)
図1 個別最適DX(左)と全体最適DX(右)
出所:三菱総合研究所

戦略的なDX推進は道半ば、現場理解やノウハウの不足などが課題

自治体のDXへの取り組みに関連した動きとしては現在、総務省による「自治体DX推進計画」、政府によるデジタル庁設置や「デジタル田園都市国家構想」などが掲げられているが、いずれも道半ばである。デジタルトランスフォーメーション研究所の「自治体DX調査報告書(2021年版)」によれば、経済産業省が策定したDX成熟度の指標を自治体に適用したところ、8割の自治体がDXに未着手か、着手しても一部にとどまり、全体戦略的な推進にほとんど至っていないという結果が出ている※1

なお、当社が2021年に独自に実施した自治体アンケート調査では、自治体DXの推進要因として「首長・幹部の強い意向」(77.8%)、「DX担当部署の推進力」(75.6%)の2点が大きいと認識されている(図2上)。またDX推進上の課題としては、「原課でDXの必要性、理解を得にくい」が64.4%と最も多い。その他「DXのノウハウ、知識が不足している」、「DX向け新規予算の確保が難しい」も半数以上の自治体が課題として挙げている(図2下)。
図2 自治体DXの推進要因(上)と推進上の課題(下)
図2 自治体DXの推進要因(上)と推進上の課題(下)
出所:三菱総合研究所「地域公共団体のDX推進に関するアンケート調査報告書」(2021年4月)
2021年2月に人口10万人以上の自治体(287団体)を対象にWebアンケートを実施し、回答数45(回答率15.7%)を得た。

自治体・地域DXを推進していくためのポイント

上記を踏まえ、自治体・地域DXを今後より戦略的に推進していくためのポイントとして、以下の2点を提起したい。

1)全体戦略と段階的実行の同時推進

DXは目的ではなく手段である。どのような地域やサービスを作りたいかという観点からビジョンを描き、具体的な一つひとつの実証事業やサービス改善といったユースケースを積み重ねていく必要がある。上述のアンケート調査結果にも表れているように、DX推進には首長・DX推進部署とサービスを提供する原課の双方が重要である。個別事業の改善から入る場合は全庁展開の枠組みを合わせて検討するなど、車の両輪のように連携しながら進めていくべきである。

なお、短期的なコスト縮減・業務効率化の効果のみに焦点を当てるのではなく、本来目指すべきビジョンと照らしながら、全体最適として複数の連続的なDX展開に結びつけることで得られるコストメリットや、住民や民間事業者など関連主体の便益を継続的に把握していくことが重要である。

2)官民連携・地域経営によるDX推進

自治体職員のみではDXスキル・人材が不足しがちである。また庁内連携だけでは既存事業への相乗りになることが多く新しい取り組みが起こりにくい。横串も含めた新たな視点導入と事業継続性の観点から、民間事業者と連携して活力を取り入れることが望ましい。

昨今、民間の事業・サービスにおいても、地域活性化、SDGs、カーボンニュートラル、健康などの地域・社会課題に関する行動変容を促す取り組みが生まれている。これらは、官としての施策のコスト削減にもつながるため、官民で原資を生み出しながら、その事業基盤をさまざまなケースに応用していくことが考えられる。

例えば、当社が提供する地域課題解決型デジタル地域通貨サービスRegion RingではSDGsに向けた個人の行動変容に対してポイントを付与する事業を展開しており、このポイントが地域の店舗で消費されると地域活性化につながる。また、コロナ禍による格差拡大を受けて現在、給付などの福祉施策が展開されている。これを現金ではなくデジタル地域通貨にすれば、地域活性化や他のポイント事業への展開も図ることができる。

このように自治体の中で地域活性化や福祉など分野ごとの施策として行われるものも、Region Ringのような横断的なプラットフォームがあれば民間との連携機会の提供により、地域課題解決に向けた全体かつ相乗的な推進が可能になる。自治体はサービス提供者として自身のDXを進めるだけでなく、イネイブラー(Enabler:条件整備者)として民間企業等と連携し、横断的な地域課題解決に向けたDX環境整備に戦略的に取り組んでいくことが求められる。

※1:デジタルトランスフォーメーション研究所「自治体DX、8割が未着手、成熟度は民間企業の半分以下」(2021年12月26日)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000071520.html(閲覧日:2022年4月20日)

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