コラム

持続可能な地域経営に向けたDX実践デジタルトランスフォーメーションMaaS

第3回:Region Ring®を活用したナッジアプローチによる行動変容の促進

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2022.3.18

イノベーション・サービス開発本部岡田雅美

持続可能な地域経営に向けたDX実践
第2回コラム「Region Ring®による地域活性化とDX促進 ─ 大丸有SDGs ACT5での導入事例紹介」では、Region Ringのユースケースとして、大丸有SDGs ACT5をフィールドとしたポイントによる行動変容促進事例を紹介した。ポイント付与という経済的インセンティブは、いわゆるSocial Goodな取り組みにあまり関心がなかった層に対する活動参加促進に有効な手段であった。しかし、参加者が増えることが望ましい活動であるにもかかわらず、ポイント原資には限りがあるため、ポイントのみに頼った活動促進施策だけでは、サステナブルな取り組みとはなり得ない。

第3回目の本コラムでは、ポイント付与に加え、メッセージの送信やコミュニティでの活動に参加する仕掛けを組み合わせることで、さらなる行動変容促進が期待できることを、事例とともに紹介する。

ナッジとは強制するものではなく、行動選択を後押しする仕掛け

昨今、テレビCMなどでも耳にするようになった「ナッジ」という言葉。身近になった一方、「操られる」という抵抗感を抱く人もいるだろう。しかし、ナッジは行動を強制するものではなく、行動経済学的アプローチに基づいて、「人々が、自分自身や社会にとって望ましい行動を自発的に選択するための情報を提供する」ための仕掛けである。

第2回コラムで紹介した通り、「大丸有SDGs ACT5」で導入したアプリには、SDGs活動やイベント参加者にポイントを付与したり、貯めたポイントを利用する機能があるが、そのほかに多様なナッジ機能を有している(図1)。メッセージ配信機能を活用して特定ユーザーが望ましい行動をするよう後押ししたり、アプリ内でユーザー個々人や全体の活動を見える化する機能などだ。
図1 ACT5メンバーポイントアプリにおけるナッジ機能(青字部分)
図1 ACT5メンバーポイントアプリにおけるナッジ機能(青字部分)
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出所:三菱総合研究所

ボトルネックに応じたナッジアプローチ選択

効果的なナッジとするためには、まず事業や施策のボトルネックを洗い出し、なぜそれらが適切に行われないかといった要因を分析する。そして、適切と思われる行動経済学的対策(代表的な例として、「利得」「損失回避」「同調」「社会規範」など)を選択し、ナッジアイデアを検討する。最も重要なのは、このナッジが適切な対象に届くことである。Region Ringでは、アプリを通じてユーザーの多様なデータを得ることができるため、行動履歴などに基づき、特定の層やユーザーに対して個別のメッセージを送ることで行動変容を促すことが可能である。

例として、「大丸有SDGs ACT5」における歩数チャレンジ機能利用者を対象とした行動変容促進の事例を紹介する。この歩数チャレンジでは、ある程度経過すると、ユーザーの日々の歩数やポイント獲得者数が減少し始めた。これはユーザーに、歩数目標を達成してポイントを獲得することへの飽きが生じているものと考えられる。

そこで、行動経済学的対策として「8,000歩を歩くことで生活習慣病の予防効果が高まる」といった「利得メッセージ」と、「歩数機能を利用して歩く人が増えています」といった「同調メッセージ」の2種類を選定した。送信対象グループは、性別・年代・活動状況に偏りが出ないようランダムに選定し、メッセージを送らない比較対象グループも同様に設定した。

メッセージ送信前後の1週間で、1日当たりの平均歩数がどう変化するかを測定した。利得メッセージを送ったグループは512歩増え、同調メッセージでは621歩増となった。一方、メッセージを送信しなかった比較対象グループでは58歩増にとどまった(図2)。
図2 メッセージ送信前後における平均歩数の変化
図2 メッセージ送信前後における平均歩数の変化
※分析対象者は1回目のメッセージ受信者のうちメッセージが既読となったユーザーのみ

出所: 三菱総合研究所
本事例では、さらに、複数回のメッセージ送信効果を確認するため、同じ送信対象グループに対し、1回目のメッセージ送信から2週間経過後に2回目のメッセージを送信した。その結果、メッセージ送信がない比較対象グループは、期間を通じてなだらかに減少傾向を示していたが、メッセージ送信対象グループは、その種別に関わらずいずれも平均歩数が増加に転じた。1度のナッジメッセージでは活動定着に至らない場合においても、追加のメッセージ送信はブースター的役割を果たすことが確認された(図3)。
図3 メッセージ送信前後における平均歩数の推移(2021年9月・10月)
図3 メッセージ送信前後における平均歩数の推移(2021年9月・10月)
※分析対象者は1回目、2回目のいずれもメッセージが既読となったユーザーのみ

出所: 三菱総合研究所

ポイントとナッジの組み合わせによる行動変容最大化の可能性

大丸有SDGs ACT5における事例では、活動参加の理由として約半数が「ポイントがもらえるのが魅力的」と回答しているが、歩数チャレンジのように毎日ポイント獲得の機会があるような取り組みでも、長期の実証期間中には中だるみが生じ、活動量が低下する。これに対し、アプリ登録はしたものの、店舗での活動やイベント参加へのハードルが高く、活動には至らなかった人も一定数いる中で、ナッジメッセージなどによるアプローチは活動促進に有効であることが確認できた。活動参加のきっかけとなるポイントとナッジを組み合わせることで、一過性ではなく、さまざまなフェーズで行動変容を拡大させる可能性がある(図4)。
図4 大丸有SDGs ACT5に参加した理由(複数回答)
図4 大丸有SDGs ACT5に参加した理由(複数回答)
出所:三菱総合研究所
ポイントとナッジのどちらがより強力なインセンティブになり得るかは、活動内容や個人の意識、価値観などの違いによるものも大きいだろう。Region Ringでは、個人の活動状況を確認しながら付与するポイント数を変動させたりメッセージ配信などの施策を実行することが可能である。行動変容を最大化するためには、常にデータをモニタリングしながら、送信メッセージやポイント変動への感度にアンテナを張り、検証データの蓄積を図ることが肝要である。

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