キャッシュレス決済が築く地域社会の新時代

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2023.4.1

地域イノベーション本部奥村 拓史

地域コミュニティ・モビリティ

POINT

  • 地方にもキャッシュレスが浸透。データ利活用が進むも限定的。
  • 商品券事業のデータ分析で域内のお金の流れが可視化。
  • 地域のあらゆる課題の解決に決済データを活用しよう。

キャッシュレス化で進む決済データ利活用

キャッシュレス決済の波は地方都市にも押し寄せている。デジタル通貨やデジタル商品券の導入に関連して、政府による自治体への後押しとともに、官民一体の消費喚起の取り組みも進んだ。地域経済圏での決済データ利活用は本番を迎えた。

実際に多くのIT企業がデータ収集を入り口に地域の決済ビジネスに参入した。しかし個社単独で収集できるデータに限りがあり、高精度の分析や地域の課題解決には不向きである。

決済データのそこ力を引き出せ

決済データは利用者が取引(買い物など)をした履歴データの集合体だが、「何を」「いくつ」買ったかまでの情報は含まれないことがある。購入商品の傾向などを確実に分析する際は加盟店が保有するPOSデータ※1などを組み合わせる必要がある。

スマホの移動データ、行政の統計データまで組み合わせれば、さらに高度な分析も可能になる。しかし法制度面や技術面から改善は容易ではない。実際に加盟店向けの「営業支援情報」や、取引履歴をもとに与信する「トランザクションレンディング※2」など一部の商業利用にとどまっている。取引が発生する個人と事業者の関係構造まで定量化できるのに、いかにももったいない。

例えば、地方自治体が発行するデジタル商品券事業の決済データを分析すれば、地域内の「お金の流れ」が「地理的にどの向きにどれだけ広がっているか」「個人や事業者間の結びつきの強さは業種別に異なるか」——などを可視化できる。

集客力が強く消費の波及効果が大きい「ハブ事業者」の特定も可能だ。地域の消費実態とその波及経路を把握できれば、きめ細かで効果的な商品券設計、地域経済を維持発展させうるまちづくりなど、データに基づく政策実行にもつながる。取引の構造分析は消費者の買い回り行動も可視化する。自店舗の利用者の消費傾向や動線などを定性的、定量的に把握することは、来店予測はもちろん、機会損失(売り逃がし)の回避にも使える。

データ利活用が良質な地域社会を導く

決済データによる利便性の向上や効率化、新サービスの創出などを通じて、個人、事業者、行政など「個々の主体」が大きな便益を得ることは、キャッシュレス社会実現の要点とされてきた。しかし現状を見るかぎり「個」に着目した局所的な分析にとどまっており、国や地域全体が生産性の向上と付加価値を享受できていない。

さらに各主体の経済活動を相互にネットワーク連携させれば、そこには地域課題を浮き彫りにできるだけの分析対象、すなわちビッグデータが生まれる。これはまさに、新しい結合の中に生まれるイノベーションである。

例えば人々が敏感に反応するインセンティブ手法の開発。行動を促す呼び水の効果が大きいほど人流も変わる。地域課題は解決し、付加価値を生むサービスも生まれるだろう。より良い地域社会の実現のために、決済データを活用しよう。

※1:Point of Sale Data(販売時点情報管理データ)。小売店、販売店などのレジ端末で入力した売り上げや販売商品のデータ(販売データ)。

※2:従来の財務情報をもとに融資条件を設定するのではなく、日々の取引(トランザクション)データなどをもとに個人の信用力を数値化(信用スコア化)し、貸し出しを行うこと。

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