マンスリーレビュー

2023年4月号特集2防災・リスクマネジメント

「三重苦」の産業インフラで大規模災害に備える

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2023.4.1

セーフティ&インダストリー本部東穗 いづみ

スマート・リージョン本部小宮山 直久

防災・リスクマネジメント

POINT

  • 日本のインフラは老朽化、災害切迫・激甚化、財政難に見舞われている。
  • 大規模災害を前にした維持管理の強化にはイノベーションが不可欠。
  • 災害によって事業継続に支障が出る民間から資金と知恵の呼び込みを。

カタストロフィを回避するために

日本の社会や産業を支えてきた道路・橋梁(きょうりょう)、上下水道・用水などの公設インフラが「三重苦」の時代に突入している。①整備が高度成長期に集中していたため老朽化が激しく、②巨大地震の周期による発生確率上昇や地球温暖化などによる大雨・台風の激甚化にもかかわらず、③財政難で維持管理がままならない状況なのだ。このまま巨大地震が到来すれば、カタストロフィを迎えるしかない。

こうした状況に風穴を開け、南海トラフ巨大地震の発生確率が高まるとされる2035年ごろまでにインフラを強靱化させて備えるには、官民協調を通じてイノベーションを起こす必要がある。

災害リスクとインパクトの可視化

まずは災害のリスクと、発災時の被害が引き起こすインパクトを可視化する必要がある。特定のインフラの強靱性と耐久性を高め破損リスクを軽減するだけの従来方式では、二次的な被害拡大を回避できないからだ。

例えば、2022年5月に愛知県の明治用水頭首工(とうしゅこう)で起きた漏水事故では、農業用水や工業用水の供給に一時的な支障が出ただけではなく、多数の人員や資材を投じた総力戦による応急復旧で、取水制限解除に約3カ月を要した。この間、周辺の産業活動は抑制を強いられた。

インフラにもたらすリスクが顕在化した場合の産業へのインパクトを把握しておくことは、大規模災害に備える第一歩である。

情報収集体制の構築と復旧計画の策定

次に必要なのは、災害によるリスクとインパクトの可視化に必要な情報収集の仕組みをインフラ維持管理のサイクルに組み込むことだ。扱うデータが多岐にわたるため、効率的な管理・収集体制づくりやDXを通じた可視化と、科学的に評価する枠組みの構築が急務だ。液状化や浸水など損壊を誘発する環境要因や、停電のようにインフラの機能継続を妨げる要因に対し代替経路などのリダンダンシー※1を確保する策も講じておくべきだ。

3番目に必要なのは、以上の点を踏まえて、災害リスクを見据えた維持更新計画を、平時からしっかり策定しておくことだ。そうすれば、老朽化した脆弱(ぜいじゃく)なインフラを迅速に除却でき、維持管理も高度化・効率化できる。計画策定は新たなロジックで整理しておく必要がある。つまり、特定のインフラの強靱化だけを想定していた従来方式に加え、対象物周辺の強化も含めた損壊リスク軽減策や、一定程度の損壊をあらかじめ想定した応急復旧計画も策定しておくべきだ(図)。
[図] インフラ管理の変化
[図] インフラ管理の変化
出所:三菱総合研究所
また、行政と民間で所掌が分かれるインフラが被災した際は、復旧時の官民連携がスムーズにいかないケースもある。平時から対象インフラに復旧の優先順位を定め、限られた時間や資材、人員で対応できるようにしておくべきだ。あわせて、いつ災害が発生しても復旧ペースが計画と大きく乖離(かいり)しないよう、常に最新のデータ・情報に基づいて対策の内容を更新しておく必要もある。

民間の資金と知恵を呼び込む官民協調

以上の対策を実現するためには、新たな手法によって民間の資金と知恵を呼び込む必要がある。

すでに国や一部自治体は、SDGsやESGの視点から、インパクトファイナンス※2を活用した災害対策に踏み出している。さらに進めて、産業インフラが被災すれば事業に支障が生じる民間企業が、地域社会と産業の両方を持続させる観点から、インフラを守り支えるかたちを実現したい。

具体的には企業が蓄積した内部留保を、公債や企業版ふるさと納税のような寄付などに回す。行政はそれらを原資として、防災や減災、インフラ老朽化対策を抜本的に進める仕組みを構築する。知恵としては民間から、維持管理を高度化する技術などの提供を受ける。

その際には、協力企業へのインセンティブとして、地域のレジリエンス向上への貢献度を可視化・証明した上で、税制面などで優遇することが必須となる。防災や減災のためのインフラ整備がまちづくりを通じて平時の収益確保につながる、というビジネス的な立て付けも可能だ。

スタートアップやGX、DXなどへの投資が大きく進むとされる今後10年間は、災害対策の観点からも非常に重要だ。巨大地震によるインフラ崩壊で産業への投資が無駄になることを避ける意味からも、官民連携でインフラの維持管理にイノベーションを起こす必要がある。

※1:直訳は「冗長性」。余剰やゆとりを意味する。国土計画上では、災害などに伴って発生した障害が広域化しないように、予備の手段などを用意しておくことを指す。

※2:環境や社会、経済にポジティブなインパクトをもたらすことを目的とした資金調達を指す。
MRIマンスリーレビュー2022年8月号「課題解決のための新たな資金調達『インパクトIPO』」。