マンスリーレビュー

2022年8月号トピックス2海外戦略・事業経済・社会・技術

課題解決のための新たな資金調達「インパクトIPO」

2022.8.1

海外事業本部山添 真喜子

海外戦略・事業

POINT

  • 世界的なインパクト投資拡大の波がASEAN・日本にも。
  • さらなる拡大にはインパクト測定マネジメント手法「IMM」が不可欠。
  • 国内でのインパクトIPO普及のため投資環境整備が求められる。

アジアでも拡大を続けるインパクト投資

サステナビリティ経営が普及し、企業にも社会課題解決のためイノベーション創出が期待されるようになった。サステナビリティ経営に不可欠な「パーパス(社会的存在意義)」の実現には、適正な利潤追求のバランスが求められる。逆にみれば、金銭的リターンと社会的・環境的インパクトを生み出す企業には資金が集まる流れが生まれる。

「インパクト投資」の世界の投資残高は2019年に7,150億ドル※1となった。これまでは欧米が主な市場だったが、アジアでも拡大傾向にある。ASEANでの2007年から10年間の累計は113億ドル※2。その後2017年から2019年までの3年で67億ドルと加速した。金融サービスへの投資が盛んで、女性のエンパワーメント(自発的な行動促進)などSDGs関連にも投資が広がっている※3

アジアの一角である日本でもインパクト投資残高が2020年の3,287億円から2021年の1兆3,204億円※4と約4倍に達した。欧米以外でのインパクト投資市場の拡大傾向が続いている。

IMMを通じてインパクトを生み続ける

インパクト投資ではインパクトの測定・マネジメント(IMM:Impact Measurement & Management)の実践が求められる。IMMとは、インパクトを定量的・定性的に測定、管理、報告し、そのサイクルを改善に生かす一連のプロセスをいう。可視化されたインパクトは、投資家へのアカウンタビリティ(説明責任)担保のほか、営業資料として顧客獲得に利用したり、採用時に自社が達成するインパクトの説明に使用したりできる。

事業成長を伴いながらインパクトの創出を意図する企業は、上場後に短期的な利益目線の株主からのプレッシャーによるミッション・ドリフト※5を避けたいと考える。そこで注目されるのが、新生企業投資が社会変革推進財団と共同運営する「はたらくFUND」が定義した「インパクトIPO」だ。IMMを適切に実施していることを示しながらIPOを実現し、上場後もインパクトの状況を説明しインパクトを評価する資金提供者を惹きつけ、さらなるステークホルダーとのエンゲージメントを通じ、持続的な企業価値向上を目指す。

知見・経験不足解消が普及の鍵

2022年5月に開催した当社主催セミナー「新しい資本主義とベンチャーの資金調達・エグジット」では、投資側の企業、投資を受けるベンチャー双方からIMM・インパクトIPOに対して前向きな評価と高い関心が示された。ただし、国内には、IMMに関する知見・経験不足や、投資家のインパクトIPO支援に対するノウハウの欠如といった課題もある。第三者によるインパクト情報の検証といったインパクト・アカウンタビリティを高める対応も不可欠だ。

インパクト情報が適宜開示され投資判断に活かされる意義は大きい。当社も国内・アジアにおける投資環境整備を後押しするためのエコシステム構築やIMM普及啓発を引き続き支援していく。

※1:GIIN(2020年6月)「Annual Impact Investor Survey 2020」。

※2※3:日本アセアンセンター(2021年9月)「ASEANにおけるSDGs達成に向けたインパクト投資の可能性」。

※4:GSG国内諮問委員会(2022年3月)「日本におけるインパクト投資の現状と課題2021年度調査」。

※5:企業の資源や活動が、その企業の公式的な目的からそれること。