マンスリーレビュー

2022年8月号トピックス1最先端技術地域コミュニティ・モビリティ

海洋イノベーションの切り札「無人運航船」

2022.8.1

English version: 27 December 2022

フロンティア・テクノロジー本部武藤 正紀

最先端技術

POINT

  • 東京湾で「無人運航船」の実証に成功。要素技術が大きく前進。
  • 海の富を利用する「ブルーエコノミー」でイノベーション創発を。
  • 本格的な社会実装に向け急がれる制度整備と複数船舶管理。

「混雑海域」東京湾で実証に成功

2022年3月、大型船から漁船まで多数の船舶が密集する東京湾で、海運を支えるコンテナ船を「無人運航」させる画期的な実証実験が成功した※1。東京湾という「混雑海域」で実証に成功した意義は大きく、多くの船舶が往来する日本近海での実用化が大きく前進したといえる。

成功の背景には船舶の自動化・無人化技術の大幅な進歩がある。他船や障害物との衝突回避のための「見張り」機能の自動化・高精度化や、緊急時の安全確保の仕組みなどが必要であり、従来は課題解決が困難であった。

そこで今回の実証では、千葉市に設置した「陸上支援センター」から衛星・地上通信回線を通じて自律航行機能を搭載したコンテナ船を遠隔監視し、緊急時は陸上から遠隔操船を可能とするなど、安全な自動航行を実現できることを示した。

洋上風力発電の設備建造にも寄与

船舶が自動化・無人化されれば、内航海運の船員不足や労務負担などの解決はもちろん、海難事故防止、離島航路維持といった社会課題の解決となる。さらには世界第6位の排他的経済水域(EEZ)を有する日本の漁業、海洋監視、海洋資源・エネルギー開発などさまざまな海洋活動を支えることにもなる。中でも当社は洋上風力設備の建設やメンテナンス需要を支えるために作業員を運搬する支援船の自動化に注目している。折しも日本では洋上風力開発対象海域(促進区域)の指定が進み開発が加速するところだ。今後日本のエネルギー政策にとっても不可欠な存在になるだろう。

さらに無人運航船は日本発のイノベーションの源泉にもなる。AI活用による障害物の自動認識、低軌道衛星などを用いた次世代通信システムの利用といった技術面にとどまらず、陸上からの遠隔監視業務に携わる船員の「新たな働き方モデル」の提示にも通ずる。通常のオフィスワークと同様に日勤が実現すればシニア層や子育て世代の労務負担の軽減が実現される。

「ブルーエコノミー」実現の鍵に

無人運航船は、持続可能性に配慮した海洋経済活動「ブルーエコノミー」を促す。自動化された船舶で、海運、海底資源・エネルギー、水産資源などの「富」の利用を最大化して、持続可能な社会のモデルを世界に示すこともできる。

ただし、解決すべき課題も多く、個別のユースケースごとに解決を図る必要がある。例えば、洋上風力建設・管理支援船の無人化では、洋上の浮体式風車に自動接舷する機能が必要となる。

ビジネス面ではスケールメリット確保のために1カ所の陸上支援センターで多数の船舶を同時に管理可能とすることが求められる。開発効率化・国際競争力強化、そして安全要求に対する制度整備などソフト面の取り組みも失念してはならない。

オールジャパンで知見を持ち寄ることがこれら課題の解決を早めることになる。当社もその一員として社会実装を目指す。

※1:(公財)日本財団の船舶無人運航技術開発プログラムMEGURI2040として実施。当社も実証コンソーシアムに参加した。当社ニュースリリース(2022年3月1日)「三菱総合研究所が参加する無人運航船プロジェクト『MEGURI2040』にて無人運航システムの実証実験を実施」