マンスリーレビュー

2021年1月号トピックス2スマートシティ・モビリティテクノロジー

空飛ぶクルマ社会実装のハードル

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2021.1.1

フロンティア・テクノロジー本部大木 孝

スマートシティ・モビリティ

POINT

  • 空飛ぶクルマの社会実装に向けた取り組みが国内外で進行。
  • 空飛ぶクルマへの地域住民の認知度は低く安全性に対する懸念が顕在化。
  • 社会受容性の向上にはデモンストレーションを通じた安全性のPRが不可欠。
都市周辺のエリアで「空飛ぶクルマ」の実証実験が相次いでいる。ドイツ企業のVolocopterは、2019年にシンガポールのマリーナベイにおいて有人飛行実証に成功。中国のEHangも2020年に広州市、煙台市で、旅客を乗せた遊覧飛行の実証を行った。認証基準の整備も進み始めた。2019年7月、欧州航空安全機関が既存の航空機の基準をもとに、空飛ぶクルマ向けの認証基準※1を策定した。米国連邦航空局でも、航空法規「Part23」※2をもとに個々の機体の認証を進めている。既存の航空機の基準をベースにすることで、高い安全性を担保する方針だ。

日本でも、2025年に万博を開催する大阪エリアにおいて、SkyDriveをはじめ、複数の企業が空飛ぶクルマによる旅客輸送の事業化を目指している。三重県でも県独自のロードマップを策定して、空飛ぶクルマの実用化を見据えた飛行ルートの調査などを進めている。事業化のターゲットは2023年だ。

一方、地域住民の理解が得られているとは言いがたい。当社は2020年8月、空飛ぶクルマの社会受容性に関するアンケート調査を実施した※3。「空飛ぶクルマを知っている」としたのはわずか7%であり、「聞いたことはある」を含めても33%にとどまる。また、「上空を通過することへの不安」について尋ねて認知状況別に集計したところ、認知度が低いほど不安を訴える回答者が多い傾向が見られた。さらに、「上空を通過することに対する不安感の理由」としては、「事故が起こりそうだから」が突出し、安全性に対する懸念が顕在化した(図)。

空飛ぶクルマの社会受容性を高めるには、安全性のPRが不可欠である。日本でも、空飛ぶクルマの認証は既存の航空機の基準をベースに行われ、高い安全性が確保される見通しだ。その上で、安全に飛行している様子を地域住民やユーザーに対してデモンストレーションする必要もあろう。人を運ぶ前に、まずは山間地や離島の荷物輸送などから開始するのも一案だ。目前に迫る「空の移動革命」に向け、飽くなき安全性確保のみならず、地域住民に理解してもらうための取り組みを急ピッチで進める必要がある。

※1:欧州航空安全機関(EASA)は小型の垂直離着陸機の認証を目的とした Special Condition「SC-VTOL-01」を発表。
固定翼機の基準であるCS-23をベースとしつつ、回転翼機の基準CS-27の諸要素と統合するかたちで策定された。

※2:19人以下の乗客席数かつ最大承認離陸重量が8,618kg(19,000ポンド)以下の動力(エンジン)付き固定翼航空機の基準。

※3:空飛ぶクルマの社会実装に向けた今後の検討の方向性について示唆を得るため、社会受容性に関するアンケート調査を実施した。
調査期間は2020年8月25日~27日。有効回答数は65,703人。

[図] 空飛ぶクルマが上空を通過することへの不安感の理由