マンスリーレビュー

2021年5月号特集3スマートシティ・モビリティテクノロジー

無人運航船による新たなモビリティサービスを世界に示せ

2021.5.1

フロンティア・ テクノロジー本部武藤 正紀

スマートシティ・モビリティ

POINT

  • 2025年大阪・関西万博はモビリティ産業にとって絶好のPRの場。
  • 「無人運航船」による新サービスのデモで海洋立国日本の存在感を示せ。
  • 関西が陸海空モビリティの社会デザイン発信の起点となる。

未来のモビリティの実験場

2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)は国内産業にとってのショーケースであり、次代を創出する実験場でもある。近年注目されているモビリティ技術としては、陸(自動車)の自動運転、海(船舶)の自動運航、空飛ぶクルマ、さらにそれらを支える非接触(ワイヤレス)給電などのインフラ技術が挙げられ、実験的利用だけでなく実際に会場内外の移動手段として活躍することも期待される。

とりわけ海上モビリティ(人流・物流)に注目したい。陸上と比べ十分に活用できていない海洋空間を自動化などの先端技術で切り開き利用可能とすることにより、ヒト・モノの移動のあり方、ひいてはライフ(=万博テーマである「いのち」)スタイルを一変させる可能性を秘めている。

くしくも関西は瀬戸内海の入り口に位置するいにしえからの交易の要所であり、江戸期には北前船(きたまえぶね)交易による北海道との経済動線の始点ともなった。悠久の時を経て、海に囲まれた夢洲(ゆめしま)発の移動革命が再び始まろうとしている。

「無人運航船」による海のモビリティ革命

2025年の万博はポストコロナに目指すべき姿を世界に問うイベントとなる。物流もしかり。コロナ禍に伴う通販・ECの利用拡大により物流機能の改革が急務となった。環境負荷の低減を目指すゼロエミッション※1の徹底も問われることになる。島国であり、海洋立国でもある日本として海上輸送で世界にモデルを示す意義は大きい。

目玉の一つは「無人運航船」である。少子高齢化社会である日本は、すでに顕在化している離島航路減少や、将来的な船員減少に伴う内航海運の維持などの課題への対応が求められている。船舶の自動化・無人化はこれらを解決するソリューションとなり、地上からの遠隔操船実現により高齢者や女性の船員の働き方改革などにも貢献する。

すでに日本財団の実証事業としてオールジャパン体制で無人運航船の開発が進んでおり、今年度中にその成果が出る見込みである※2。その技術とノウハウを万博で活用し、例えば夢洲と関西国際空港、あるいは海岸・河川沿いに位置するユニバーサル・スタジオ・ジャパンや海遊館などの主要施設を24時間オンデマンドで結ぶ自動運航や、自動化フェリーに無人トラックを乗せ完全無人物流システムを実証することも考えられる(図)。
[図] 2025年大阪・関西万博における無人運航船利用サービス案
船舶が輸送に利用されない深夜時間帯に海洋ゴミを自動回収するといった多機能化も期待できる。万博の「海上パビリオン」として来場客に実際の乗船を経験してもらうほか、「バーチャル万博」の一環として、来場できない人でもリモート乗船による大阪湾や瀬戸内海の遠隔クルーズあるいはアバター船長となって遠隔操船する体験も可能となる。各種の技術実証により、バーチャル海洋観光や遠隔操船の社会実装につながることが期待できる。

クリーンエネルギー活用のショーケースともなる。世界中の温室効果ガス排出量の2%強を占める海運※3において、電気・水素などを活用した船舶となれば、自動車や鉄道による物流より輸送効率が高い船舶へのモーダルシフト※4も進みやすくなる。太陽光や洋上風力で発電された電気を船舶にマイクロ波でワイヤレス給電する技術を組み合わせ、完全にクリーンな輸送システムを世界に先駆けて実証することも一案だろう。

陸海空の産業振興・新たな社会デザインに寄与

無人運航船はAIやセンサーなどを含む高度な情報技術の発展により日本の造船・海運の競争力強化にも直結しうるものである。陸海空全ての輸送手段を無人化しシームレスな物流として省人化・効率化を図るなど、分野横断の新たなサービスを生み出す鍵となる。世界一の群島国家であるインドネシアなど同様の社会課題を抱える国々への展開も期待できる。

万博というショーケースにおいてこれらのイノベーションを紹介することは、世界に新たな価値と産業・生活のあり方を提示することであり、社会受容性を高めることにもつながる。瀬戸内海を往来した商船や北前船が寄港地に関西文化の伝播というルネサンス(文化運動)をもたらしたように、「いのち」輝く社会のデザインをモビリティという側面で「水都大阪」から世界に知らしめる役割が2025年大阪・関西万博に求められている。

※1:新技術の開発などにより温室効果ガスや廃棄物のゼロ化を目指す取り組み。

※2:「MEGURI2040」というプロジェクトで2025年までに無人運航船の実用化を目指しており、当社もコンソーシアムに参加している。

※3:国土交通省「国際海運のゼロエミッションに向けたロードマップ」(2020年3月)。

※4:トラックなど自動車で行われている貨物輸送を、環境負荷がより小さい船舶や鉄道の利用へと転換すること。

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