時空を超えたバーチャル万博会場の早期開放を

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2021.5.1

万博推進室原 直樹

デジタルトランスフォーメーション

POINT

  • 万博の参加体験を広げる仕掛けとしてバーチャル万博に期待。
  • 3D会場モデル早期開放によりプロ・アマを問わず参加意識が醸成。
  • 時間・空間を超えた壮大な社会実験がスタートする。

バーチャル万博への期待

2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)では会場を未来社会のショーケースに見立てて、先進的なイノベーションの一端を示す。基本計画に記されている「バーチャル万博」は、ショーケースを彩る最も重要な要素である。

バーチャル万博を開催する意義は、「未来社会をデザインする万博として、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)等のバーチャル技術を活用して万博の魅力と発信力を高める」※1ことにある。実際の来場者に対しては、ARやVRなどの興味深い体験価値を会場で提供する。来場したくてもできない障がい者、高齢者、遠方の居住者など、世界中の多くの人々の参加を実現する。万博の参加体験を広げる仮想と現実を融合した新しい仕掛けとしてバーチャル万博に期待したい。

3D会場モデルを早期に一般公開する

基本計画では「バーチャル催事」や「バーチャルテーマ館」に言及している。AR映像を楽しんだり、アバターとして遠隔から催事に参加できるような仕組みを思いも寄らない斬新なかたちで実現する方法が今まさに検討されている。

注目すべきは、参加体験の提供は、会場の完成を待つ必要がないことだ。現在進められている会場の設計データを用いてオンライン空間上に3D会場モデルを展開し早期に一般開放すれば、実際の会場空間には参加を考えていない、あるいは参加が難しい個人・団体も関わりやすくなる。

大阪・関西万博のロゴマークを公開しただけでも、多くの一般人、クリエイターが二次創作※2を一斉に開始したことを考えると、3D会場モデルの公開により、プロ・アマを問わずデジタル系のクリエイターの創作意欲が刺激されるはずである。

プレオープンがエンタメ産業の意欲を刺激

コロナ禍の中、3D都市モデルを開放することでオンラインの集客を図った実例としては、2020年5月に開設された東京都渋谷区公認のVR配信プラットフォーム「バーチャル渋谷」がある。自宅などから、バーチャル空間上に出現した3D化された渋谷の街で展開されるイベントを体験できる。ハロウィーンやクリスマスイブにはバーチャル空間でのイベント開催※3への参加を呼びかけ、夜の人出抑制に少なからず貢献した。

バーチャル万博でも同様に、まだ誰も来場できない会場建設中にこそ、3D会場モデルの効果的な運用ができるはずだ。例えば、開催時には実施不可能なネットワークゲームやeスポーツ大会のプレイグラウンドなどは、デジタルと親和性の高いエンターテインメント産業の意欲を刺激しよう。仮に世界的な大会を誘致できれば数億人のプレーヤーにプロモーションできる絶好の機会となる。

3Dモデル化した万博の公式キャラクターを主人公にしたゲームやアニメ、映画、マンガ、音楽への展開も考えられる。その際、3D会場モデルをゲームのフィールドやアニメの背景として活用すれば、万博開催時にはリアルな万博会場へのロケーションツーリズムのきっかけになるだろう。

時空を超えた壮大なイベントに

3D会場モデルではバーチャル会場の上空に天空の会場を浮かべることも、地下に巨大な迷宮を作ることもできる(図)。こうした垂直方向の拡張に加えて、地域連携など水平方向の空間拡張により億単位の来場者を一堂に集めることも可能だ。他地域の3D都市モデルと相互に行き来して、バーチャルツアー需要を刺激できるだろう。

1970年の大阪万博の3D会場モデル、2021年のドバイ万博のデジタルツインと時空を超えてつながることも実現できる。万博以降の未来社会に至る行動シナリオを複数設定し、100年後の会場跡地の街の姿をシミュレートすることも考えられる。選択いかんによって未来がユートピア(理想都市)か、ディストピア(絶望都市)か、それともパラダイス(牧歌的な自然共生)になるのか、時間を飛び越えた並行世界を比較体験もできるだろう。

このように3D会場モデルの早期一般公開は、新しい企画を試みる場を、エンタメ・観光・ラーニングなど新たな知識交流型の産業振興に幅広く提供できる。コロナ禍で、人の「体験」もリアル空間(物理的空間)限定ではなくなった。これまで顧客に対面形式で体験を提供してきた産業も、万博を機にオンライン空間(仮想空間)において新たな事業機会を見いだせるはずだ。
[表]3D会場モデルによる時空を超えたバーチャル万博のイメージ

※1:公益社団法人2025年日本国際博覧会協会「2025年日本国際博覧会(略称「大阪・関西万博」)基本計画」(2020年12月)。

※2:イラスト、マンガ、3Dモデル、ぬいぐるみ、スイーツなど。

※3:渋谷区観光協会、渋谷未来デザイン、KDDIが2020年1月に発足した「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」が、バーチャルSNS企業クラスターと協働し開設した。