デジタル社会を切り拓く「地域共創ポータル」

同じ月のマンスリーレビュー

タグから探す

2022.11.1

公共DX本部青木 芳和

デジタルトランスフォーメーション

POINT

  • デジタルサービスの充実により、住民生活の利便性を向上。
  • 「地域共創ポータル」により行政と地域の住民接点を拡大。
  • 住民目線でのサービス連携を進め、持続的なデジタル地域社会へ。

個別サービス最適化で使い勝手に支障

地方都市を主とした地域社会の持続性確保に向け、政府が「デジタル田園都市国家構想」を打ち出すなど、デジタル活用への期待は大きい。しかし、愛媛県今治市が2021年度に実施した住民アンケート※1では、ECサイト利用が65%に上る一方、手続きのオンライン利用は民間で45%、行政で23%にとどまっており、住民生活に手続き系デジタルサービスが浸透しているとは言い難い。

サービス利用の起点となる申し込み・予約など手続きに関する阻害要因は6点ある。

【利用者(住民)にとって】

  • 本人認証方法、手続きの操作方法がサービスの種類によって異なる。
  • 利用の都度、住所、氏名などの共通情報を入力するのが手間である。
  • 利用時期・回数が限定的なサービスが多く、使い方を忘れてしまう。
  • 自らの利用に適したサービスが分からない。

【行政にとって】

  • サービス導入・維持のコストに見合う効果が得られるだけの利用頻度にならない。

【地域(民間企業)にとって】

  • 利用者数確保のための広告費など参入障壁があり、サービス導入への投資リスクが高い。
つまり行政や民間企業が個別にサービスを最適化した結果、使い勝手に支障が出ているのだ。

地域共創ポータル利用で生活上の接点を拡大

海外に目を向けると、中国や東南アジアでは早くから、スマホ決済やタクシー配車・ライドシェアなど総合型の「スーパーアプリ」が日常生活に浸透している。こうした取り組みを参考に、日本の地域社会ではプッシュ通知、地域コミュニティの掲示板など、機能の共通化が必要となる。

実現に向けては、各企業が提供するデジタルサービスを活かしつつ、住民の利用動線に応じたサービス間の連携を工夫することが現実的と考える。住民生活に必要なメニューを対象とすれば、企業間の競争、さらには行政も含めた共創が可能となり、「地域共創DX」※2の推進役となりうる。

当社は連携を促すこのデジタルプラットフォームを「地域共創ポータル」と呼ぶ(図)。スマホやタブレット、パソコンで利用でき、問い合わせ自動回答のチャットボットや申請・届け出といった行政分野での利便性を高める。準公共系(教育、安全安心、医療など)、民間系(金融、電気など)にも対応する。利用者本人の同意に基づく共通情報の各サービスでの利活用も可能とする。
[図] 地域共創ポータルの概念イメージ
[図] 地域共創ポータルの概念イメージ
出所:三菱総合研究所
地域共創ポータルの利用によって、例えば行政からの給付金を迅速に受け取れ、働き口をマッチングしてもらえる。小学生がいる家庭などでは、学校からの連絡や子ども食堂の案内などの一元的な確認、子どもの安全確認などがサポートされる。

各種問い合わせ窓口の一元化、操作性の共通化も可能となる。デジタルサービス利用に抵抗がある住民に対しても利用促進が期待できる。前述のサービス利用の阻害要因を解消する手段となる。

奈良県※3や茨城県守谷市※4では、地域共創ポータル構築と類似の計画がある。デジタルを活用した官民連携は、データ連携・活用で政府が進める包括的データ戦略や「公共サービスメッシュ」と呼ぶ団体間におけるデータ交換の取り組みも後押しし、実現が可能な段階となっている。

安心できる運営に向けた3つのポイント

今後の普及と持続的な運営上の課題として、①利用拡大、②サービス提供者の収益化、そして、③利用者が安心できる運営面の整備が挙げられる。

①②の解決策として、共通のサービス連携により、単独サービスでは難しい価値提供を実現することが求められる。前述の利用ケースなどである。

③に関しては、個人情報の厳重な取り扱い実績を有する地域金融機関が運営を担うことも考えられる。地域住民の利便性向上、産業振興を含む地域活性化の両面もバランスよく配慮できる。


地域社会の課題解決は待ったなしである。本稿で提言した「地域共創ポータル」の導入がデジタル地域社会を切り拓く有効なステップと考える。

※1:今治市WEBサイト「『今治市デジタル未来戦略(仮称)』に関する基礎調査 2021年実施:市民アンケート調査結果報告」。

※2:特集1「『地域共創DX』でサービス創出」参照。

※3:奈良県WEBサイト「奈良デジタル戦略について」。

※4:守谷市WEBサイト(2022年3月31日)「守谷市DX推進計画書」。