第5回:個人の身近なアクションを地域活性化へつなげる仕掛け

大丸有SDGs ACT5での歩数チャレンジを事例に

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2022.5.30

イノベーション・サービス開発本部渡辺 恒

持続可能な地域経営に向けたDX実践
第2回コラムでは、「Region Ring®」のアプリ導入およびポイント付与機能による行動変容促進事例として「大丸有SDGs ACT5」をフィールドとした事例を紹介した。また、第3回コラムでは、同事例においてポイント付与機能に加えてナッジ機能を活用することで、人々の行動選択や活動参加の後押しが可能となることを述べた。

本コラムでは、第2回と第3回で紹介した同事例の企画の1つである「ACT5歩数チャレンジ」を取り上げ、身近な活動を地域の取り組みへとつなげるための具体的なアプローチ方法を考察する。

「デジタル」を用いて施策の連動性を生み出す

「たくさん歩くとお得になる」「歩数を他人と競う」という取り組み自体に目新しさを感じる人はそこまで多くないだろう。歩くことでポイントがたまるようなウォーキングアプリは、世の中に多く存在しているし、昨今の新型コロナウイルス感染症の影響により、運動不足解消という観点でも再認識されている。しかし、ある種使い古された「歩数を競う」という手法であっても、デジタルを通じて特定のエリアへの来訪や回遊を促すといった、地域が目指す施策と連動させることで一種のトリガーとしての役割を担うことができる。

本コラムで取り上げる「ACT5歩数チャレンジ」の概要は図表1の通りである。第3回で紹介した「ACT5メンバーポイントアプリ」の歩数チャレンジ機能において記録される日々の歩数と、ポイント機能により記録されるSDGs推進につながる活動の履歴をスコアに換算することで順位を競う企画とした。

また、この参加者が競うスコアは、ホームページ上でランキングを週3回公開し、デジタルの良さを活用した即時性のある「見える化」を行った。また、スコア獲得が可能なイベントや取り組みに関する通知を併せて行うことで、参加者の積極的な活動を促す仕組みを導入した。

このように複数の施策連動が容易に実現できることが、「デジタル」を用いる1つのメリットと言える。
図表1 ACT5歩数チャレンジの概要
図表1 ACT5歩数チャレンジの概要
出所:三菱総合研究所

身近な取り組みを入り口とすることが地域施策への参加を広める第一歩

第2回や第3回のコラムで紹介したように、これまでSDGsの推進施策のように社会に良い影響をもたらすSocial Goodな取り組みにあまり関心がなかった層に対し、ポイント付与やナッジという経済的インセンティブや行動経済学的アプローチは、さまざまなフェーズで行動変容を拡大できる可能性が示唆された。その上で本コラムでは、「身近でイメージしやすい取り組みを通じて、活動参加の心理的ハードルを下げる」ことが、地域として目指したい活動や施策を広める上で重要である点をお伝えしたい。

実際、大丸有SDGs ACT5の活動参加の動機として、「ACT5歩数チャレンジが面白そう」という回答は「ポイントがもらえるのが魅力的」という経済的インセンティブを重視する回答と同程度であった(図表2)。
図表2 大丸有SDGs ACT5に参加した理由(複数回答)
図表2 大丸有SDGs ACT5に参加した理由(複数回答)
※第3回コラム図4を一部修正
出所:三菱総合研究所
次に大丸有SDGs ACT5 の目的であるSDGs活動の増加という点に関するアンケート結果を見ると、「活動が習慣化した」「活動機会が増えた」と回答した人は約75%であった(図表3)。こうした回答者のうち、6割を超える人が「ACT5歩数チャレンジへの参加」がSDGsに貢献する活動機会が増えたきっかけになったと回答した(図表4)。

この点については、第2回コラムで紹介したアプリ利用者の特徴に基づくセグメント遷移の傾向においても、歩数チャレンジ(8,000歩/日)経験者の方が、未経験者よりも、SDGsに関する活動やイベントに複数回参加する層に移行しやすいという結果が確認されている。
図表3 大丸有SDGs ACT5への参加を通じたSDGsに貢献する活動に対する変化
図表3 大丸有SDGs ACT5への参加を通じたSDGsに貢献する活動に対する変化
出所:三菱総合研究所
図表4 活動増加者のSDGsに貢献する活動機会が増えたきっかけ(複数回答)
図表4 活動増加者のSDGsに貢献する活動機会が増えたきっかけ(複数回答)
出所:三菱総合研究所
このように本事例においては、身近な活動である「歩くこと」をきっかけにしつつ、「デジタル」を通じてSDGs活動と連動させることで地域施策の促進につなげることができたと言えるだろう。

また、ACT5歩数チャレンジの参加者からの「エリアを歩いたことで新たな施設・店舗を発見した」「活動を通じて、エリアとのつながりを感じることができた」といった感想があったことも補足しておきたい。

独自データを活用した「きっかけ」の探索と実装が地域課題解決につながる

以上のように、大丸有SDGs ACT5においては、特定エリア内の店舗や施設を訪問して行うSDGs推進活動を中心としていたことから、親和性の高さを想定し、店舗を回遊する、すなわちエリア内を歩くことを「きっかけ」とした施策を行った。もちろんこれは一例に過ぎず、例えば広範囲な町全体を対象とする場合は、誰もが自宅から参加できる施策が重要になると想定されるように、地域特性に合わせた施策とそれに対する活動促進と定着の「きっかけ」を適切に設けることが、地域課題の解決につながるだろう。

そして、この際どのような「きっかけ」が地域課題解決に向けて最も適切か、という探索活動と実装を行うことになるが、「Region Ring®」は経済価値の管理(ポイント・通貨管理機能)に加え、独自に取得できるデータを起点としたクイックな施策検討・実施を持続的に実施可能であることが強みと認識している。

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