マンスリーレビュー

2022年10月号トピックス2スマートシティ・モビリティデジタルトランスフォーメーション

デジタルツインが拓く新たな都市マネジメント

2022.10.1

English version: 28 February 2023

スマート・リージョン本部林 典之

スマートシティ・モビリティ

POINT

  • 「都市のデジタルツイン」が本格的に進展。
  • 国や先進自治体が3D都市モデルを整備・ユースケース開発。
  • 効果を発揮するキラーコンテンツを創出できるかが鍵。

地域DX推進の鍵「都市のデジタルツイン」

「デジタルツイン」とは、現実空間を3次元の仮想空間上に「双子」のように再現するものだ。主に製造分野で工程の最適化や品質の向上、リスクの事前把握などを目的として誕生した。医療、健康、環境など多様な分野で活用が進んでいる。

この概念を都市に適用したのが「都市のデジタルツイン」である。現実の都市と同様、構成要素が多く複雑になりうるが、都市・地域や行政などのDX推進の重要なツールとなる。①現実空間で困難な分析・シミュレーション、②現実空間の計画・運営へのフィードバック、③現実・仮想間で相互に連携——が可能であり、個人・企業の活動の最適化・拡張、さらには都市マネジメントの効率化・高度化などを促すと期待される。

高精度シミュレーションが可能な3D都市モデル

国や先進自治体が展開する、全国的かつ幅広い分野の都市のデジタルツインは世界でも例をみない※1。ユースケースの実例に、洪水発生時の浸水想定と建物・道路などとの関係を3次元で可視化する取り組みがある。地域内の建物に関するデータから、垂直避難※2が可能な建物を抽出できることは住民の安全を確保する上で有用だ。

特定の地域内の全建物に太陽光発電パネルを設置した場合の発電ポテンシャルも推計可能となる。屋根の向きや傾斜、他の建物による日陰の影響などを考慮した高精度のシミュレーションに加えて、反射光による周辺地域への影響も事前検証できる。カーボンニュートラル施策に必要不可欠な地域共創の一助となるだろう。

新たなデジタルインフラ形成に向けて

都市のデジタルツインは、仮想空間内での行動拡張や新事業・サービス展開を目指す「メタバース」を構成する重要な要素でもある。今後は前出の①~③の取り組みが加速して経年的な情報の蓄積・管理も進むだろう。

しかし課題もある。まず産官学民の関係主体の理解促進と合意形成や地域間連携の問題がある。都市のデジタルツインを構築・運用・活用できる組織・人材の育成も急がれる。さらに、ベースとなる3D都市モデルの維持・更新、仮想空間内での地物※3や活動に係る法制度面の整理を促す必要もあろう。関係主体の協力・連携によりこれらの課題を一つずつ解決せねばならない。

モバイル、IoT(モノのインターネット)、AI、自動運転などの新技術は、過疎地における高齢者の交通手段の確保など、都市マネジメントにとって重要な要素となりつつある。技術革新は、人口減少・少子高齢化対策などの社会課題解決、人々の行動拡張機会の提供、新たな事業・サービス創出に具体的な効果を発揮している。都市のデジタルツインでも、2次元にはない3次元ならではの利点を見極め、具体的な効果を発揮する「キラーコンテンツ」の開発・検証・普及を目指したい。

こうした取り組みにより、近い将来、新たな時代の「デジタルインフラ」が確立されると考える。

※1:国土交通省の「Project PLATEAU」や東京都の「デジタルツイン実現プロジェクト」などにより、標準仕様に基づき全国100以上の都市で3D都市モデルが整備済みまたは整備中。多様な分野でのユースケース開発・実証が少なくとも80件以上実施済みまたは実施中。

※2:建物の2階より上層に移動する避難方法。

※3:建物、樹木などの地上にある物体のこと。