マンスリーレビュー

2017年6月号地域創生ヘルスケア・ウェルネス

地域発で世界に通用する科学技術イノベーション創出を

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2017.6.1
地方創生

POINT

  • 産学連携における地方中核大学の役割が拡大。
  • 持続的な活動により世界的規模の事業を創出する地方大学も登場。
  • さらに活発化、拡大するため多様かつ重層的な産学連携への取り組みが肝要 

1.科学技術イノベーションでは地方中核大学の役割に期待

 人口減少と高齢化が進む中、山積する社会課題を解決して経済社会の持続可能性を確保するため、その課題解決の一手段である科学技術イノベーションへの期待が高まる。大学と企業の共同研究は5年間で約1.5倍に拡大するなど、全国各地で科学技術イノベーションへの取り組みが進む。

 12年前の中央教育審議会答申「我が国の高等教育の将来像」により、「教育」「研究」に加えて「社会(地域)貢献」が大学の「第三の使命」と位置づけられた。この結果、特に大都市圏以外の地方圏における国立大学などの中核大学(以下、地方中核大学)の役割が変化している。大学は単に研究の多様性を発揮して研究開発成果を企業に提供するだけではなく、関係者とともに試行錯誤を繰り返しながら成果が社会実装されるまで継続的に牽引する主体へと役割を増している。地方圏では牽引役が不足しがちであることから、国内外企業や自治体との実証実験や協働の仕組み運営、多種多様な人材活躍の場提供または知財活用によるビジネス創出など、研究と事業をマネジメントする役割が大学に求められている。

 企業は、パートナーとする大学を、地理的距離や技術領域だけで判断せず、課題設定力や解決力、研究チーム形成力、プロジェクト実践力といった総合的な推進力を見て選別する。このため、地方中核大学は、地域内の事情にとらわれすぎず、地域外や海外からもパートナーに選ばれる条件を整えて企業や人を誘引する努力が欠かせない。大学を核とした共通の課題解決を目指す世界的な協働ネットワークをもつことで、地方であってもイノベーションを生み出し続ける源泉になる。

2.地域発の世界に先駆けたイノベーション

 人口減少や財政難といった制約のもと、科学技術イノベーションはこれまで以上に投資に見合った成果が求められる。地域発のイノベーションも、地域に閉じた効果を求める方向ではなく、世界市場でインパクトをもたらす事業創出を目標に効果を出し、持続的な活動を通じて地域貢献が拡大する方向へと転換が必要になっている。

 以下では、地方中核大学の取り組みの中から、世界を惹きつけて成長サイクルに乗せている事例を紹介する。

<弘前大学——健康ビッグデータの蓄積を活かした「寿命革命」>

 弘前大学では、短命県の汚名返上のため、1965年から脳卒中の病態解明や予防法の開発に取り組んできた。2005年から弘前市民約1,000人の健康情報を蓄積している。近年はゲノム情報も追加し、のべ約11,000人の健康情報(600項目)を作り上げている。

 この世界に類例のない健康ビッグデータがイノベーションの中核になっている。膨大な個人情報を解析して認知症の予兆発見や予防システムの開発を進める一方、心臓病やがんといったほかの対象にも応用研究を展開する。

 弘前大学はCOI (Center of Innovation)拠点に採択され、県の「青森ライフイノベーション戦略」の後押しを受けながら、県内外の化学・製薬、食品、生活用品の企業と連携を進めている。特にグローバル企業であるGEヘルスケア・ジャパンが健康ビッグデータ解析に参画することは注目される。

 また、健康ビッグデータの有用性を持続的に高めるため、類似の取り組みで実績を有する九州大学や京都府立大学と連携を図っている。

<香川大学——世界を牽引する希少糖研究の事業展開>

 香川大学は、「和三盆」で有名な地域として糖類研究を伝統的に進めてきた。1991年に何森教授が希少糖*1生産のための酵素を発見したことが、ヘルスケア分野における希少糖活用で世界をリードするイノベーションの始まりである。

 1998年に学長裁量経費による研究支援、2001年に研究インフラや人材育成の拠点となる希少糖研究センターの設置と国際希少糖学会の設立がなされた。また、2002年以降は国の支援を継続的に受けている。こうした中、食後血糖上昇抑制や動脈硬化抑制といった希少糖の効果が明らかにされていった。2013年から県の「かがわ希少糖ホワイトバレー」プロジェクトによって、希少糖の普及・事業展開が進められている。

 用途開発と生産コスト低減は、県外の澱粉加工メーカー松谷化学工業の巻き込みが重要な契機となった。事業化着手(2008年)、商品化(2011年)、全国販売(2013年)、さらに量産プラント竣工(2013年)と進展した。県内では、香川大学発ベンチャーとして希少糖生産技術研究所(研究開発、2006年)が設立され、松谷化学工業や県内企業の出資によって希少糖食品(2007年設立)、レアスウィート(商品開発・販売、2010年設立)、サヌキ松谷(希少糖製造、2012年設立)などの新規企業が創業を果たしている。

 希少糖自体の研究も進展しており、生体内での活性酸素産生を抑制する作用から医療分野への応用、植物に対する生育抑制や病害抵抗性増進といった作用から農業分野などへの応用が期待されている。

 海外では、オックスフォード大学(英)、フロリダ大学(米)、ダルサラーム大学(ブルネイ)、チェンマイ大学(タイ)などとの共同研究を進めている。
[表1]香川大学の希少糖研究の事業展開
 事例が示すとおり、地方中核大学を核としたイノベーションは進化の様相を見せている。(1)研究成果を活かして、課題解決を事業化によって社会に実装するところまで牽引、(2)研究と事業の双方をつなぐように、中長期プロジェクトを運営する拠点作り、新規企業の立ち上げや有力企業の巻き込みなど、総合的な推進力を発揮、(3)研究基盤に加えて、イノベーション創出のプラットフォームとして国内外との産学連携ネットワークを形成し、多様な分野や世界へと効果を波及、といった新たな兆しが見える。
 一方で、実践における課題はまだ数多く残されている。

3.地域イノベーションの効果拡大と持続に向けて

 こうした動きをさらに活発化させ拡大していくには、以下のように、多様かつ重層的な産学連携によるイノベーションに取り組むことが重要である。

イノベーションプロセスの産学間の連動

 調査結果*2によると、地方で企業が国立大学にイノベーションプロセスにおいて最も強化改善を望むことは「製品化に直結する研究開発」である。企業にとって、自社の差別化や生産性向上を図り、付加価値を高めるためには研究開発機能の確保は不可欠である。しかし、自社では現業対応が中心になりがちであり、大学へのアウトソーシングを含めた協業に期待が高まっている。

 大学は、企業との協業で効果を高めるため、(1)過去から将来に至る研究蓄積と社会課題の動向をベースに技術開発テーマの設定、(2)差別化された技術やシーズの創出、(3)イノベーションとして社会実装という一連のプロセスを、試行錯誤しながら、関連企業の研究開発と意図的に連鎖させることが求められる。

技術・シーズの差別化と企業・人材の集積との相乗効果

 差別化された技術やシーズは、研究開発の基盤となるため、単一の商品化で終わるものではない。さまざまな製品・サービスへ応用されることにより、複数の異なる分野の企業や人材を惹きつけることが可能である。

 産学間の関係は、研究者や技術者の交流で閉じることなく、事業推進や経営に携わる多様な人材を交えたイノベーション活動へと転換する必要がある。ビジネス志向を強めて事業力を高め、産学の現職・OB人材がより活躍でき、知財権利対応を円滑にし、修士・博士号取得などキャリア開発もできる持続的な活動の場が形成できる。

 多様な人材で全体を推進し、その成果が技術やシーズへフィードバックされるとともに、地域内外や海外からさらに人材や企業を惹きつける。多くの企業・人材が出入りすることがイノベーションにとって重要であり、これが大学を中核とした拠点に根付いて地域全体の活性化の源になる。

産学連携の適切な理解に基づくイノベーション創出意識の醸成

 山形大学と米沢信用金庫による経営者塾では、イノベーション活動を自律的に展開するには産学連携が有効と認識しつつ、経営者意識がその阻害要因になっていることに気づき、経営者の意欲変革を図っている。実施1年余りで、産学連携の有効性を認識する経営者が3割から9割へと増加した*3。

 イノベーションプロセスはその時々に課題を抱え、大学、公的機関、自治体、企業、金融機関の誰かが助けの手を伸ばしたり、調整したり、説得したりして、これらの課題を乗り越えている。関係者全員が産学連携の有効性に関する認識を高めながら、課題を打開する創造変革意識を醸成していくことが重要である。

出口に応じた柔軟な事業開発

 科学技術イノベーションは、科学技術の進展や社会ニーズの変化に応じて、次々と発展と変容を起こす。イノベーションは多層化しており、産業技術研究(萌芽技術研究、中核技術研究、実用技術研究)だけでなく、むしろ出口側となる事業開発に注目が集まっている。

 産学連携において、出口であるビジネスにはもっと柔軟に取り組むことが求められる。大学発のイノベーションは技術実証フェーズと事業成長フェーズで様相が異なることに対応し、事業成長フェーズでは、企業がリーダーシップを発揮することが望まれる。

[表2]産学連携による効果拡大の取り組み 

取り組み 企業の対応 大学の対応
イノベーションプロセスでの連動
  • 研究開発機能の確保
  • 大学での製品化に直結する研究開発
  • 企業の研究開発と連鎖
  • テーマ設定、技術・シーズ開発、社会実装の各段階での企業とのすりあわせ
技術・シーズと企業・人材の相乗効果
  • 技術者以外の事業・経営人材の参画
  • 成果蓄積の技術・シーズへのフィードバック
  • 研究開発基盤の多分野への応用
  • ビジネス指向による事業力強化
  • 企業・人材の交流と受け皿の機能
イノベーション創出意識の醸成
  • 産学連携に対する意欲増進
  • 地域コミュニティー全体で意識醸成
  • 産学連携の有効性の啓発
  • 地域コミュニティーとの関係深化
出口に応じた柔軟な事業開発
  • イノベーションリーダーとして牽引
  • イノベーションの出口であるビジネスへの柔軟な取り組み

出所:三菱総合研究所


*1 自然界にその存在量が少ない単糖とその誘導体。

*2 科学技術・学術政策研究所「国立大学等と地域企業との連携に関する調査」2013年(対象:広島県、岡山県、福井県、長野県、群馬県、山形県)。

*3 地域活性学会第8回研究大会「金融機関を核とした地域産業コミュニティによる経営人材の育成事例」

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