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2017年6月号トピックス2エネルギー人材

若者の「原子力離れ」を食い止めるために

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2017.6.1

原子力安全事業本部芦田 高規

エネルギー

POINT

  • 福島の事故を受けて若者の「原子力離れ」が加速。
  • 原子力は多様な科学技術が融合する横断型事業。
  • 地球規模の課題解決に向け継続的な技術者育成が必要。
福島第一原子力発電所の事故によるイメージダウンが、若者の「原子力離れ」を加速させている。原子力関連の学科や企業を志望する学生が減った※1ことで、原子力事業に就く若手の層が薄くなりつつある。この結果、現在の担い手で、1980~90年代にプラント建設に携わったシニア世代による技術伝承が難しくなっている。

原子力事業は、放射線に関する特殊な知見だけでなく、機械や化学、金属など多くの分野の専門性も求められる「横断型事業」である。あまり知られていないが、安全性を最優先する観点から、最新の科学技術をはじめ、質の高い多様な技術が利用されており、専門性が融合した事業領域である。

特に、先端技術を用いるロボット工学や宇宙工学との関わりの深さは注目に値する。例えば、福島第一原発の事故をめぐっては、安全を確保するための除染や原子炉内の状況を把握するための遠隔操作ロボットが投入されているほか、燃料デブリの所在を宇宙線による透視画像で確認する作業が進行している。発電以外でも、建物を壊さずに内部の状況を調べる非破壊検査のほか、がん治療などの医療、穀物や野菜の殺菌・滅菌といった農業の分野で、放射線が活用されてきた。

原子力発電の利活用に関しては賛否が分かれるところだが、廃炉ひとつをとっても数十年単位の事業になり、安全確保に最大限配慮しながら着実に進める必要がある。ロシアやフランス、韓国などは原子力事業を担う人材を、国を挙げて戦略的に育成している。脱原子力政策をとるドイツも、廃炉作業や廃棄物処分を安全に行うなどの目的で、継続的に技術者を育成し続けている。

地球規模の課題解決には世界全体の英知を集める必要がある。日本の原子力産業がこうした流れに加わり一定の貢献をするには、未来を担える優秀な若手の確保が不可欠だ。技術的なすそ野の広さやほかの分野の発展にも役立っている事実を周知すれば、彼らも「やりがい」を感じ、原子力事業に対する敬遠の度合いを薄めるのではないだろうか。

※1:文部科学省「原子力人材育成作業部会 中間とりまとめ」(2016年8月)
https://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2016/08/29/1375812_2.pdf

[表]原子力と他分野技術との関わりの例
取り組み 企業の対応 大学の対応
ロボット工学 ロボット、遠隔操作 福島第一原子力発電所の除染、事故状況調査
機械工学 経年劣化対策 プラント機器の検査・補修
化学工学 質量分析 核種分析、同位体分離
宇宙工学 宇宙線 ミュオンを活用した原子炉内の状況把握
光科学 可視化、耐放射線性 ガンマ線撮像用コンプトンカメラ、
耐放射線性イメージセンサー
情報工学 ビッグデータ プラント設備の故障予兆監視システム

出所:三菱総合研究所