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2022.7.6
株式会社三菱総合研究所
株式会社三菱総合研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:籔田健二、以下 MRI)は、デジタル社会実現への変革であるデジタルトランスフォーメーション(DX)と、脱炭素化を実現するための社会変革であるグリーントランスフォーメーション(GX)の潮流を踏まえ、日本の人材に求められるキャリアシフトのあるべき姿とそれを実現するための具体的な方策を提言します。
DX・GXの実現には産業をまたぐ人材移動が不可避
コロナ危機を受けて、デジタルトランスフォーメーション(DX)とグリーントランスフォーメーション(GX)が大きな潮流となっている。デジタル技術の活用と脱炭素化による産業構造変化は、いずれも雇用に大きな影響をもたらす。しかし、DXの雇用影響が本質的に「ルーティンタスクの機械代替とノンルーティン領域へのリスキリング」であるのに対して、GXの雇用影響は「二酸化炭素を排出する産業や技術における人材需要の減少」であり、産業をまたぐ人材移動がより多く発生する可能性が高い。GXという新しい地球規模の潮流を前にして、日本の労働市場は人材流動化を前提とした改革を余儀なくされる。
3つのキャリアシフトの組み合わせがDX・GX人材を生み出す
こうした状況を踏まえ、日本の人材は3つのキャリアシフトへの取り組みを強めなければならない。DXに対応するキャリアシフトの類型としては、ノンルーティン領域への段階的で継続的なリスキリングを行う「ワンノッチ型」キャリアシフトが有効だ。一方、GXに伴う成長領域への人材移動には、求められるスキル獲得に向けたより長期間の学び直しを伴う「再チャレンジ型」キャリアシフトが必要となる。また、DX・GXという大きな変革をリードするためには、人間ならではの創造的なタスクを遂行する人材を育てる「創造人材育成型」キャリアシフトも同時並行で促していかなければならない。DX・GX実現に向けては、これら3つのキャリアシフトを組み合わせていくことが求められる。
日本の人材ミスマッチ解消に向けた道のりは険しい
DX・GXの実現に向けた自律的なキャリアシフトを促すためには、それが「実行可能(Viable)」かつ「望ましい(Desirable)」ものでなければならない。実行可能で望ましいキャリアシフトには、職業の類似性が高く、教育や労働慣行の壁が低いと同時に、中長期的な人材ニーズや賃金上昇が見込めるかがポイントとなる。しかし、企業内で年功序列型キャリア形成を続けてきた日本の労働市場には、こうしたキャリアシフトの機会が乏しいのが現状だ。
MRIが行った試算では、DX・GXの実現に必要となる人材需要に対して実行可能で望ましいキャリアシフトを最大限見込んでも、2030年にかけて解消可能な人材ミスマッチは限定的だ。同職種内でのワンノッチ型キャリアシフトが190万人、産業や職種をまたぐ再チャレンジ型キャリアシフトが600万人、産業構造変化をリードする創造人材育成型キャリアシフトが80万人程度見込まれる一方、労働力人口の7%に相当する450万人のミスマッチが依然として残るとの結果が得られた。これは、日本の労働市場において教育や労働慣行の壁(教育水準や性別、年齢、就業形態の違いに伴う就業可能性の阻害)が存在することに加えて、そもそも中長期的な労働需要と待遇改善が見込める望ましい職が限られていることに起因する。DX・GX実現に必要となる人材の育成に向けた道のりは険しいが、手をこまねいていれば日本経済は停滞から脱却することはできない。企業内外でスキル・ギャップを埋めるための仕組みを一刻も早く構築しなければならない。
ミスマッチ解消の要諦は産官学の協働によるキャリアシフト推進
ここで重要となるのは、企業内に雇用を保持することを優先してきた従来の労働政策を転換し、人材を流動化させることを前提として、産官学が協働してキャリアシフトを進めることだ。
在職を中心としたワンノッチ型キャリアシフトでは、企業が先導して自社のパーパスを問い直し、必要な人材要件を整備したうえで能力開発計画を策定、人的資本投資・物的投資を通じて人材のDX・GX対応力を高める。また、生産性アップを着実に賃金上昇につなげることで、資本市場や労働市場からの強化を高め、資金と人材の獲得力をさらに向上する。さらには、人的資本可視化を通じて、求める人材をより直接的に外部から獲得する動きを広げる。こうした一連のアクションが、経営戦略のさらなるレベルアップをもたらす好循環を形成することとなる。
業界をまたぐ人材移動を含む再チャレンジ型キャリアシフトでは、地域の産業クラスターを対象としたリスキリングを促進する座組の形成が求められる。余剰人材の多くは、地域の中堅・中小企業の就業者である。彼らをDX・GXの成長領域に押し上げるために、企業や団体が先導し、地方自治体、商工会議所、地域金融機関、地方大学といった地域のプレーヤーが連携してリスキリングを促進する。こうした実践の動きが複数の地域で立ち上がれば、産業クラスター間での人材獲得競争が促され、ひいては全国レベルでの人材活性化につながる可能性も視野に入ってくる。
DX・GXをリードする創造人材育成型キャリアシフトでは、属性や文化、経験、知識等の人的多様性を高め、多様な知の融合を進めることが必要だ。産官学を巻き込んだ「共創の場」を作り、そこに向けた人材流動化を進めることで、人材需要の源泉となるイノベーションが誘発され、人材のキャリアシフトを活性化させる。
在職時から失業時までをカバーする「カスケード型積極的労働政策」
日本の人材を活性化する上記のシナリオを実現するためには、生産性を高められない企業の一定数は淘汰されることが大前提となる。日本の労働政策は、企業の新陳代謝を促しつつ、在職時から失業時まで段階的に労働者の職業能力と雇用可能性(エンプロイアビリティ)を高め、成長領域へのキャリアシフトを促す「カスケード型の積極的労働政策」に転換するべきだ。
成長領域へのキャリアシフトを実現するには、一時的には離職して集中的な職業訓練を行うことも必要となる。政府は、こうしたキャリアシフト予備軍となる人材を全面的に支援し、成長領域へと人材を押し上げることに政策資源を集中しなければならない。具体的には、予告解雇期間の延伸や先任権規定の導入といった解雇ルールの再検討、地域訓練協議会の活性化や訓練カリキュラム拡充を通じた地域の人材開発力の向上、福祉給付額と減税額を勤労所得とリンクさせて調整する給付付き税額控除の導入といった施策を連動させ、労働者の成長領域への移動を後押しする。
企業のダイナミックな新陳代謝があってこそ人材は輝くことができ、また経済再生が可能となることを、個人、企業、政府のすべてのプレーヤーが肝に銘じなければならない。
DX・GX時代に対応するキャリアシフトを提言
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