マンスリーレビュー

2017年6月号デジタル・イノベーション

ソフトウエア開発のゲームチェンジに備える

2017.6.1

ICTイノベーション事業本部仙頭 洋一

デジタル・イノベーション

POINT

  • ソフトウエア開発において世界的なゲームチェンジが起こっている。
  • 労働力の多寡ではなく知識や技術力の高さで勝負が決まる。
  • 過熱する知識集約競争に日本のソフトウエア産業は対応する必要がある。  
 人工知能(AI)の適用範囲拡大や重要な社会インフラへのソフトウエア技術の浸透に伴い、ソフトウエア開発のあり方が変わろうとしている。標準的作業を何時間行ったかで対価を得る「労働集約型」から、知識や技術力の高さ・希少性で対価を得る「知識集約型」へと市場の要請が移行しつつある。これはソフトウエア開発における“ゲームチェンジ”といえる。ゲームチェンジは三つの象徴的事象から読み解くことができる。

 一つ目は「作り込みのあり方」の変化である。ソフトウエア開発において、人が処理ロジックを作り込むことに労力を割くのではなく、AIにデータの処理をいかに学ばせるかという“戦略”の立案に人が知恵を絞ることになる。AIに必要なデータと学習方針がソフトウエアの質を決めるのだ。このため、欧米ではデータ保有企業を買収する動きやAI研究者や技術者の獲得競争が過熱している。

 二つ目は「品質確保のあり方」の変化である。社会インフラなどのシステムでは複雑化・大規模化が今後一層進む。確認すべき検証パターンは兆や京の単位に及び、人手ではとても対処しきれない。 人手の限界に制約されずに膨大なパターンを網羅的に検証する手段として数理論理学を用いた「形式手法」を採用し品質を担保することが求められている。実際いくつかの国際標準では明記されており、アメリカのDARPA*1やNSF*2、欧州のHorizon 2020*3など公的機関の研究開発投資が積極的に行われている。

 三つ目は「製品価値のあり方」だ。ソフトウエアで何らかの処理を自動化することはもはや当たり前であり、むしろ、利用する際の“心地よさ”が製品の価値を決定づける。このような顧客体験と呼ばれる価値を重視した開発を行う企業が増加している。

 この状況の中、日本のソフトウエア産業はゲームチェンジに乗り遅れている。高スキル人材・組織への投資や超上流工程重視など機先を制する施策を打つ企業はあるものの、技術ベンチャーとの戦略的協業や内製志向のもと自社の知識集約を進めてきた欧米企業に比べ、いまだ労働集約的性格の強い構造である。 グローバルレベルの知識集約競争は既に顕在化しており、日本のこれまでのやり方を抜本的に見直す必要がある。
[図]ソフトウエア開発におけるゲームチェンジの象徴的事象

*1:アメリカ国防高等研究計画局(Defense Advanced Research Projects Agency)。

*2:アメリカ国立科学財団(National Science Foundation)。

*3:2014年から2020年までに総額800億ユーロが投じられる。欧州で最大規模の研究・革新的開発に関するフレームワークプログラム。

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