マンスリーレビュー

2021年1月号トピックス3経済・社会・技術

ライフサイエンス産業を支える日本型コラボレーション組織

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2021.1.1

経営イノベーション本部相引 梨沙

経済・社会・技術

POINT

  • ライフサイエンス産業の発展にとってコミュニティ形成は不可欠。
  • その中でコラボレーション組織は産業・イノベーション創出の役割を担う。
  • 日本の強みを活かした多分野融合・住民参加型の産業構造が重要。
「ライフサイエンス(LS)」とは、生命現象を取り扱う、生物学・生化学・医学・心理学・生態学などを総合的に研究する学問である。先が見えない新型コロナウイルス感染症のパンデミックに伴う社会課題を解決する手だてとしても期待が高まっている。しかし、LS分野における日本の国際競争力※1は低位であり新たな対策が急務である。

国はこれまで、2019年に新たなバイオ戦略※2を策定し、状況打開に向け取り組んできた。ここでは、分野横断的なイノベーション創出を促す「コミュニティ」構築の重要性が指摘されている。実際、先行する米国でもボストン、サンフランシスコなどのハイテク・クラスター都市で、医療機関、大手企業、ベンチャーなどが集積した著名なコミュニティが形成され、地域経済が自律的に発展する好循環が生み出されている。

特筆すべきは、研究者、ビジネスパーソンなど多様な専門人財が集う「コラボレーション組織」が中核的な役割を担っていることである(図)。コミュニティとして目指すべき将来像や戦略を構築した上で、研究機関と関連企業間のマッチング、共同研究の組成、外部資金の誘致などに関わる各種連携の仲介役を果たしている。

日本でもコラボレーション組織の整備は急務といえる。そこには、日本が強みとする先進技術の関係者の参画が不可欠であろう。一例を挙げると、日本における再生医療・医療機器などの研究分野では、AI・ロボット工学といった周辺技術の活用が進んでいる。幅広い技術やベンチャー動向などに精通したハイテク系ステークホルダーの積極的な参画は日本のLSイノベーションの発展に不可欠といえよう。

さらに、国土の狭さという日本の特性が「住民参加型LSコミュニティ」という諸外国にない地域と産業の関係性をもたらす可能性がある。研究拠点の集積地と住民生活圏が近接すれば研究成果を地域サービスとして住民に還元しやすい。生活習慣病の治療・予防といった難題に対しても、住民ライフログデータ取得・解析の調整役を日本型のコラボレーション組織は担える。このように地域住民、LS産業、研究機関が相利共生するエコシステムにより、今後の日本のLS産業は独自の進化を遂げるだろう。

※1:研究開発費や論文数に関して、米国と中国は同水準で世界トップクラスにあるが、両国に対して日本の場合、前者は3分の1程度、後者は5分の1程度にとどまっている(2019年時点)。             
文部科学省 科学技術・学術政策研究所「科学技術指標2020」(2020年8月)。

※2:内閣府 バイオ戦略タスクフォース「バイオ戦略2020」(2020年6月)。

[図] ライフサイエンスコミュニティの全体像とコラボレーション組織の役割