マンスリーレビュー

2021年1月号

MRIマンスリーレビュー2021年1月号

巻頭言|未来を創る

理事長 小宮山 宏
最近、さまざまな視点から人類史を総合的、俯瞰(ふかん)的に捉えようとする出版物が目につく。多くの分野で、歴史の転換期にあると意識されているのだろう。私自身の来し方を振り返っても、あまりの変化に驚く。母は薪でごはんを炊き、たらいで洗濯をし、ほうきで掃除をしていた。江戸時代なら、親子どころか、祖父母とひ孫が見る世界も、そんなに変わらなかったはずだ。変化のスピードは時代の本質の一つだろう。

2020年に創業50周年を迎えた当社は、50年後の社会を予測してそこに向かうすべを明らかにしようと「50周年記念研究」を行っている。現下の変化のスピードからして無謀な試みという向きもあろうが、未来を予測する最良の方法は未来を創ることだ。

新型コロナウイルス感染症に席巻されて人々の行動が抑制された2020年は、人と人とのつながりの大切さが再認識された年であった。人のつながりは、一緒に何かを真剣にやることで生まれる、と私は考えている。

かつては、満足に食べられることが、ほとんど全ての人の共通の願いだった。だから農耕によってコミュニティが生まれた。やがて、豊かになりたいと会社コミュニティが栄えた。食や豊かさが真剣な共通目標たりえなくなって、これまでのコミュニティは力を失った。多様化した人の目的を自己実現と表現するなら、自己実現を目的として人のつながりを生むことができるのかが問われる。

新しい武器は発展著しい科学技術だが、それは両刃の剣である。科学技術が人類に危機をもたらす可能性を否定することはできない。しかし、科学技術をうまく使って、多様化した人々の真剣な共同作業を可能にし、多様なコミュニティを生み、さらにコミュニティ間の協調を図る。自律分散協調系の社会をどうやって創るか。そこに挑むのが50周年記念研究の本質であろう。

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